余計な妨害者が現れはしたが、狐花の機転で無事に欺いて撒く事に成功した狐花一行。其の儘、目的地であった美術展が開かれている国立美術館へと到着した。
「んにー‼︎」
「……結構、人が多いっスね〜。美術展ってそんなに人気があるもんなんスか?」
入り口付近では既に若老男女問わず多数の人間達でごった返していた。その様子を死神であるベンニーアは不思議そうな視線で眺めていた。
「まぁ、モノの良し悪しと言う事もあるけれど見たい人は集まると思うわ。芸術には壁と言うモノは無い筈だから」
「ですがテーマは何なのでしょうか? 一口に芸術と言っても何かしら題材があると思うのですが……」
『アレや無いか?えーと、何々?『全国高校生入賞作品展覧会』……やとよ』
『つまる所、お嬢方と同じ年代の方々の作品が展示されていると言う事ですね』
美術展の看板にはそう書かれていた様である。全国高校生と言う事は日本全国の高校生による入賞した作品が展示されていると言う事の様である。
「そう言う事‼︎ 時には自分と違う人達の作品に触れる事も新たなアイディアに閃く事に繋がるの‼︎」
「……成程、作品を通じて他人の意見に拝聴する。そう言う事ですねっ‼︎」
「そうよ、アーシアちゃん。さ、行きましょう。どんな作品が展示されているか今からでも楽しみだわ‼︎」
出入り口の扉を潜り抜けた先のエントランス。入って直後に狐花達の目の前に現れたのは。
『な、何と言うか逞しい?像、ですね。センスは兎も角』
「あ、あはは……こ、個性的?ですね……」
溢れんばかりの筋肉の造形。荒ぶり波打つ長大な顎髭。張り裂けん程のフリルだらけの魔法少女の様な衣装を纏うは筋骨隆々の漢‼︎︎ その漢を象った巨大な彫像が堂々と鎮座していた。魔法少女の衣装とポージングを決めた筋骨隆々の世紀末覇者の様な大男と言うミスマッチ感全開の組み合わせの彫像には多数の観客が眺めている。最も大半の意見は『ドン引き』、であろうが。
「えーと『男獄高校。魔僧少女部2年生、クミたん、作。最優秀賞』だって、凄まじいセンスの塊の様ね」
『いやいやいや、審査員頭が狂ってんちゃうか?或いは目が節穴ちゃうんか⁉︎ 幾ら何でも無茶苦茶過ぎやろ⁉︎』
「……ギリシャ神話や北欧神話に有りそうな石膏像っスね。何と言うか既視感が……」
幾ら何でも混沌過ぎる組み合わせ方で最優秀賞を受賞出来るのかと五七がツッコむ。そしてベンニーアはやや呆れている。
「意外性を考慮するとアリと言えばアリかも知れないわね。仮に狐花ちゃんに魔法少女の服装を着せた絵を描いても普遍的な内容だと受け取られる可能性も大いにあり得る……誰もが想像だにしない光景に一縷の閃きが出る。その点、この作者は見事だと言わざるを得ないわ……‼︎」
『冷静に何考察しとんねん⁉︎』
そんな衝撃的な作品を玄関に置く事から主催者側の目論見は達成されている様なモノだろう。その彫像を尻目に狐花達は奥へと進む。赫い絨毯が敷かれたフロアには一定間隔で多数の作品が展示されていた。誰かを描いた絵や風景画、抽象的な表現を求めた絵画など色々なモノが展示されている。
「……絵と言っても色々あるのですね。あ、コレは……」
静香が目に留まった絵。それは青空にHALOが三重に浮かびその下には都市が描かれた風景画であった。雲も描かれており天上と地上を表現された絵だと思われる。
「此方はまた随分と凝った絵っスね」
ベンニーアが見ているのは、黒い背景に天上から異形の腕が真ん中に少女に向けて降りている。その周りには骸骨の様な天使が喇叭を持って飛んでいると言う残虐性を思わせる絵だった。
「……えっと、此方は?」
アーシアが見つけた絵画。戦いの風景を描いたであろう絵画。箱型のモノの上に乗り両手に双剣を持った少年と背中から赤黒い掌の様な翼を生やし飛びピンク色に光る瞳の少女が向かい合っている。背景には黒い大粒の雫が空から降ると言う何とも形容し難い絵画だった。
「んにー‼︎」
「あら、コレは……そう、受賞したのね」
そして狐花が見つけた絵。それは憂いを帯びた表情を浮かべ大鎌に寄りかかる銀髪の少女の姿が描かれた絵。それは狐花をモデルにアイラが描いた『死神の娘』と言う題名の絵であった。
『コレはお嬢がモデルなのですね?』
『……死神としておまはんの意見は?』
「何故、ベンニーアさんに振るんスか? そうすね……狐花様。ちょっと言いたかった事があるんスよ」
「?」
「狐花様の過剰過ぎる殺意の理由は聞きましたっス。狐花様、精一杯、生きてください。死ぬ事に躊躇いが無いなんて止めて欲しいっス。呪われたとか、殺す為とか……その人の為とか……そんなのは今は関係無いっス。死に殉じた生き方……その人は本当にそう生きろと願ったんスかね?」
「
ゾッとする声。恐らくアイラもアーシアも静香もベンニーアは愚か、五七や恐介も聞いた事の無かった声音であった。そしてその言葉は酷く崩れ果ててベンニーアにしか分からない言葉であった。
「分からない、ええ、分からないス。ベンニーアさんは……その人じゃない。その人の心境になれない、その人になれない。だからその人の気持ちは分からない。その人の思いで狐花様が生まれた……なら、何故……狐花様は
人間も悪魔も憎んでいるのならばとっくの昔に少なくともこの国は狐花の憎悪に包まれて明日の無い状態になっていた筈である。
「…………」
「付喪神の原理は正直ピンと来ないス。物体に生命が宿ると言う伝承を聞くのは日本神話くらいスからね。細かい事は分からないスけど……」
「
「狐花様の性格上、即座に滅ぼす筈っス。それをしない理由があるんス?」
「
「恐らくスけど……独りが嫌になったんスね。独りが良いなんて、思っても独りは寂しい。独りが辛くなる。だから、出来ない……いいや、したくない」
「
ベンニーアは狐花の『こころ』に刃を突き立てた。それは紛れも無く、的を射た。故に狐花は否定する材料を探している。そうでなかったら狐花はアイラ達諸共、世界を壊した筈だ。完全な部外者であったベンニーアが見つけた。
「……だから精一杯、生きるっスよ。狐花様がその目的の為に生きているのは事実ス。時には遠回りするのも一興ス。急がば回れと言う言葉もあるスよ……目的の為だけに生きるなんて、きっと寂しい生き方っス」
「…………」
『狐花。おまはんの負けや。ベンニーアの嬢ちゃんの言っている事は『当たり』やで』
「……守りたいモノが無いのに、失くしたモノは無いのに……言いたい放題、言ってくれる」
「いやぁ、狐花様って……死神よりも性質の悪い死神に見えちゃいまして……。しかも大分、拗らせた類の」
「五月蝿い」
「はいはい。それまで……目立っちゃうでしょ? 全く、この面子はどうしてこうも回りくどい言い方ばっかりなのかしらね?」
「あんまりストレートに言っちゃうと狐花様がキレちゃうじゃないスか。ハデス様からも釘刺されてるっスからね」
ハデスは狐花を冥府にスカウトしたいと考えている。そう言う訳でベンニーアは狐花の癇癪を起こす訳には行かない。下手を打てばハデスから怒られる。
「……でも、ありがと。そんな風に言うヒト、居なかったから」
『何やろか、俺様達……あんまりアテにされてね?』
『……イヌッコロが役立たずなのは事実でしょうに』
『何やと、このクソヤキトリがァ‼︎』
狐花がこんなに素直に礼を言う光景を見て五七と恐介が影で泣いてそして口論の末に喧嘩を始めた。
「……今度から確実に悪魔を抉り潰すやり方を考える。急がば回れ、だから」
が、より別の意味で悪化した様にしか思えないのは何故だろう……。今迄のやり方が手緩いと言われたと感じたのだろうか?
「な、何かベンニーアさんが余計な逆鱗を引っ掻いちゃいったスかね……?」
「何処を刺激しても狐花ちゃんの逆鱗かも知れないわね。全身逆鱗……?」