ベンニーアと一悶着を終えた後、一行は別の展示室へと移動する。その部屋では浮世絵や水墨画と言った日本画風の絵画が展示されているスペースであった。此方は学生達達だけではなく著名な作家による作品が展示されている。
「……屏風絵もありますね」
学生枠として現代の風景を和風に彩った絵も展示されており普段は見ない風景に物珍しさ故に特別なベースが設けられていた様だ。
「んに?」
「……む。斯様な所で会ったな、狐花殿」
その時、見知った者が思わぬ所で見かけた。褐色肌の長身の存在。長門であった。
『おや、長門様。この様な所でお会いするのは思いませんでしたね』
「狐花ちゃん、知り合い?」
「んに」
「連れの方は狐花殿の友人かな? 初目に、余は長門。栄あるビッグ7が一隻、戦艦長門の付喪神である。裏幕府で将軍をしていた」
「いた……?」
長門の自己紹介の違和感を感じて狐花が疑問符を浮かべる。そんな小さな違和感を見落とさずに居た狐花に長門は片眉が反応した。
「……本日の深夜未明。裏幕府は何者かの襲撃を受け壊滅に瀕した。規模からして並大抵の乱破では無かろう。幸い皆、脱出に成功したが散り散りになってしまってな……」
長門が言うには裏幕府は何者かの襲撃を受け建物自体は崩壊。しかし付喪神の皆は辛うじて脱出したが連絡が取れず行方知れずになった模様。
『……その大将がこんな所で油売って良えんかい……』
「疑問は最も。しかしとて焦り迅れど好転はせぬ。長であるが故に冷静に物事を判断せねばならん。構え、雌伏の時も巡る事もある。今は皆の幸の報を待つ」
「……
「規模から考えられるに複数人。使用された魔力の性質から……悪魔である事が予想される。日本神話の管轄圏に入るにはビザが必要。管理は裏幕府が執り行っている。悪魔を始めとした三大勢力はビザを取得する術が限られている。欲しくとも得られず、得たとしても悪事を加担する為に実行に移したのであろう。ビザの発行元が消えればビザの有用性が消えると踏んだか。存在しないのに有限性を問うは能わず、と言った体でな」
「それは随分と太々しい言いようですね」
「……無論。秩序を乱すは治に能わず。何れは誅する腹積り故、気にされるな。して、貴殿らは如何様な?」
『いや、美術展の観覧に来ただけですよ』
寧ろこの様な場で相対するのが異様な光景だと言わざるを得ないだろう。
「そうか、私も同じだな……。果報は寝て待てとは言うが余とて不安が募る……故に気晴らしに参じたのだ」
大将であるが故の圧。それは下手には未だ分からぬ境地。
「済まぬな。下らぬ興を削ぐ真似をした」
「私としては裏幕府を燼した悪魔が気になる。そも、悪魔『グレモリー』も知らぬ場所に悪魔が何時知った?」
狐花としてはその悪魔がどうやって隠された裏幕府の位置を特定したのか、其方の方が気になる様だ。
「余も疑問に思っていた。実の所、裏幕府始まって以来、悪魔にビザが発行されたのは誰1匹とて居らぬ。異例と言えば日本神話の恩赦を得たアンドラス一派の者共くらい。しかし、敵対する意図は見えぬな」
「……何故?」
「裏幕府は狐花殿が出入りする。故に狐花殿の逆鱗に触れる可能性がある。アンドラス一派の主であるリィティアは慎重な奴よ。そんな浅はかな真似はすまい……狐花殿を敵に回すと言う事は日本神話さえも敵に回す……リィティアからすれば自らの土台を打ち崩す愚策となろう」
日本神話の影響圏にいる以上『祟り神』の存在は嫌でも見聞きする。そして対話も成り立たぬ滅びの象徴故に恐れに然る。
「つまり、他の悪魔だと?」
「うむ。そうなるだろうな。しかし今は情報が少な過ぎて断言は出来ぬ。動くにしても状況を整えねばなるまい」
その時、美術展全体を揺るがす爆音が響き渡る。悲鳴と火災の音も併せて聴こえてくる。
『何や⁉︎ 今度は何が起こったと言うんや⁉︎』
「……」
「「「「とぉっ‼︎‼︎」」」」
煙に紛れて人影が複数人見える。人数は5人程と見える。
「果てなき速度で」
「回り続けるレールは」
「軈ては正義へと繋がる‼︎」
「我らが偉大なるグリゴリの未来へと‼︎」
「世界を統べるは我れら……‼︎」
「「「「「無限回転寿司戦隊、カイテンジャー‼︎ 此処に参上‼︎」」」」」
「「「……」」」
珍妙な名乗りと共に現れたのはタイツ姿に皿の様な仮面を被った5人組。背中に黒い翼が生えており5人とも別々の色合いのタイツ姿に頭の上に寿司ネタを乗せている。
何処からどう見ても特撮戦隊ヒーロー番組の戦隊連中と大差ない格好をしたイロモノ変人共であった。
「えーと、アレは何でしょうか?」
「……仮装マニアでは無かろうか?」
『チョイスが可笑しいと俺様だけか⁉︎」
「ふはははッ‼︎ 慄くが良い‼︎ 我らがカイテンジャーの勇姿を‼︎」
派手な爆発と共に現れたカイテンジャーと名乗る変人達。その様子に狐花達は唖然とした表情で見ていた。
「レッド、目的のモノは奪取した」
「ふははは‼︎ 流石はグリーン‼︎」
「って、アイツら。展示品を‼︎」
気付けば展示されていた美術画が無くなっていた。カイテンジャーが展示されていた作品を堂々と強奪している様である。普通に強盗であった。
「……この国特有の絵画は高値で売れる‼︎ その資金は我らがカイテンジャー……いやグリゴリの為に大切に使わせて貰う‼︎ さらばだ、ギャラリー達よ‼︎」
「あ、逃げましたよっ⁉︎」
脱兎の如くカイテンジャーは逃亡。ある意味、神業とも呼べる程の逃げ足の速さである。
「アイツら、展示されていた芸術品を‼︎」
「グリゴリ……三大勢力の堕天使の一派だな。よもや白昼堂々と強盗に勤しむとは、許せぬな」
アイラは展示されていた芸術作品が盗まれた事に憤慨し長門は彼等の名乗りから堕天使であると判断した。
「良し、殺そう。この際、悪魔も堕天使も関係ない」
怒涛の展開で完全に蚊帳の外であった狐花が再始動。そして堕天使も邪魔に感じるようになったのか纏めて消しに掛かる事に決めた。
「堕天使も許せません。狐花ちゃん、直ぐに追いかけましょう‼︎」