雷ガ咲く花園デ   作:夢現図書館

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悪夢II

 

 

 惨劇は、嗚咽は、頽廃は終わらない。終わりの見えない惨禍は続く……。

 

 

 

 

「…………」

 

 燥き故に変わり果てた世界。とある貴族悪魔の領土の町並み。その区域も既に熱波に襲われ無惨な姿を晒していた。

 

「み、ミズ……タスケ、たす」

 

 全身が黒焦げており男か女か既に分からない状態の人型の物体が呻いている。

 

「タス」

 

「死は救いなり。生きる事は苦しむ事だ」

 

 その声の身体。その腕の形をした部位を踏み砕いた。痛みにより掠れた悲鳴が青空に向かって響き渡る。

 

「……棟方 康三、42歳」

 

「あ、あ゛ぁ゛……ッ‼︎ い、あ゛……ッ‼︎」

 

 その街に狐花が居た。燥き灼け逝くに於いて、存在出来るのは元凶の術者である彼女のみ。その状況で狐花は淡々とモノのついでと言わんばかりに夜摩天から受け取って居た転生悪魔のリスト該当者の処分を見届けていた。

 

——放って置いても粗方、勝手に力尽きて行く。でも名簿は記帳しておかないと後で確認する時、面倒臭い。

 

 熱による苦しみ、燥きによる苦しみ。双方が容赦なく冥界を覆って行く。苦しみ抜いた時に救われるのだろうか?

 

「イタイ、イタイよォ……‼︎ だ、れ、か……ァァァァ‼︎」

 

「イタイ、も、ウ、イヤ……シニたく、ナイ、コロ……シテ……‼︎」

 

「アガ、クルシ……ひぎ、キ……ぎぎ、ぃ、あ゛」

 

「……ダレ、で、こ、ロシ……タス、……シニ、タイ、しな、……テぇ」

 

 燥いて罅割れた道路の道端で呻き声が引っ切りなしに木霊する。真っ黒に灼けてもう誰が誰だか分からない。それは——

 

 家族か?悪魔に家族が居るのか?

 恋人か?悪魔が恋愛なぞするのか?

 隣人か?悪魔は隣に誰か居るのか?

 

——呆れた生物。自分達がやって来た事を自分達が思い知って助けを求める。滑稽な姿。

 

「……数えるのが面倒になって来た」

 

——この辺の頁の名簿に記載された転生悪魔。大半が灼けたし。大半が拉致、誘拐からの奴隷化だろうし。

 

 狐花はリストの手帳を開き筆を走らせる。劫魃により燥いた者達の名前に取り消し線を引いた後に隣の備考欄に草書体で『死』と言う文字を書き込んだ。億劫な上に縦に連綿と言う形で連続で同じ字を書いている為に結構酷い字面となった。

 

「……? 何?悪魔とか人間はさっさと死ねば良いと思うけれど、それ以外は興味無いんだけど?」

 

 手帳を閉じた狐花は視線に気付いた。しかし振り向かない。振り向く理由が無い。単純な理由で悪魔は鏖殺滅殺完殺。人間も基本的には嫌いだからさっさと死ねば良い。それ以外は特に興味が無い。その視線の主は人間や悪魔では無い。

 

コレ(・・)の環境の中で存在を維持出来るのは同じ観念、つまりそう言う事」

 

「…………」

 

 狐花の背後にあるモノ。それは日輪、HALOと呼ばれるモノ。一言で言えば天使が頭上に浮かべている天の輪であった。それだけが浮かんでいる。色は天使の輪に在りがちな白では無く、青色と言う事が異質である事を鮮明に告げている。

 

「……何しに来たの? 姫舞」

 

不満(ふきげん)精神(あいかわらず)

 

 興味は無かったが狐花は改めて向き直ると、其処には1人の姿が現れて居た。

 

 煌々たる皓銀の長髪は櫛も通されず伸び切って跳ね捲り、その雑さな髪に対して燦爛と煌めく蒼い双眸の少女の姿。その華奢な身に纏うは豪奢なドレス。フィッシュテールスカート型であり胸元が露出し脇腹付近には縦方向に切り取られ病的な迄に皓い肌が見えると言う奇妙な構造。それだけならば『アルビノの人』が変わった形状のドレスを着ている、だけで終わる。しかし彼女のその姿を見た者は須く絶句する。

 下半身(・・・)たる両脚(・・)が無いのである。

 代わりに頭上には蒼い王冠の様な形状をした立体的なHALOが浮かんでおり後ろ腰から蒼く結晶化した双翼が生えていた。

 

 一言で言えば上半身しか存在しない天使と言えば良かろうか。だが、天使の姿をしているが天使の様な雰囲気とは思えない異質な様に見える。

 

「……もう一度聞く、何しに来たの?」

 

——コイツ。表情が変わらないから何考えているのか分からない。

 

旧友(きみがあばれて)悦楽(いるときいたから)

 

「……知っている癖に良く言う」

 

疑問(ところで)火産霊(わかなと)黒猫(うぃきっどは)不明(いないのか?)快楽(いそうなきはする)

 

 無表情のまま姫舞と呼ばれた少女はそう尋ねる。2人とも『神煉具』の誓約者。そして姫舞も『神煉具』の誓約した者であるが故に動向が気になったのだろう。

 

「知らないし興味は無い。天使は天使らしく木偶人形の人形劇でもすれば良い」

 

機嫌(いやなこと)険悪(あった?)

 

「……減らず口は相変わらず……‼︎」

 

 狐花は苛々し始める。姫舞の相手は調子が狂って来る。なまじ姫舞は感情を理解しない為、無自覚に逆撫でする事がある。

 

帰還(かえる)偶然(みかけたから)確認(こえをかけただけ)

 

 姫舞はそう告げた直後、青いHALOを残して消滅した。そのHALOも遅れる形で大気中に霧散した。

 

「本当に何しに来た……?」

 

——何考えてるのか全く分からない……。『神煉具』の事だから、姫舞は『メタトロン』に乗っ取られているんだろうけど。

 

 考えても仕方がないとして意識を割くのを止めた。どうせ答えは出て来ないし関わりたくない。狐花でも関わりたくない相手は居る。変態とか悪魔とか性犯罪者とか。

 

「……あ」

 

 その時、狐花はある事に気付いた。

 

 

——どうやって、顕界に帰ろう?黄泉の門は送るだけだから通過には使えないし、地獄の門からだと絶対、夜摩天様から説教(説教嫌い……)されるからヤだし……うー、他に手段は。

 

 夜摩天様から『転生悪魔を殺す時は確認してから‼︎』と何度も何度も言われていた。今回の劫魃で恐らく大量の元日本人の転生悪魔が地獄の庁に雪崩れ込むのは明白で、夜摩天様が頭を抱える事は容易に想像出来る。その為、地獄を経由して顕界に帰ると言うルートは避けたかった。

 

——何とか、他の帰還方法を見つけよう。うん、其方は最終手段にしよ。

 

 取り敢えず『やっちゃったモンは仕方ない』精神で狐花は灼け逝き屍が積み重なって行く冥界を歩いて行った。

 

 

 

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