『劫魃』による熱波の脅威。触れた地域は融解し生命は灼熱の大気により自然発火し黒焦げる。その熱波が通り過ぎた後も壮絶な燥きに侵され地獄絵図と化した。
その惨劇の様が悪魔社会の政を司る四大魔王の筆頭であるサーゼクス・ルシファーの耳に届くのはそう遅くは無かった。いや、もう既に2000人以上の純血、転生、はぐれ問わずの悪魔が被害に遭っている時点で遅過ぎるとも呼べたのだが。
「状況はどうなっている?」
首都リリス。四大魔王の政務が執り行われる魔王城が四方に聳え立つ現在の悪魔の首都、ルシファー城のサーゼクスの執務室にてサーゼクスは現況の報告を受けていた。
「グラシャボラス領の先端部に到達‼︎ 既に冥界の悪魔領の3割が火災に覆われています‼︎」
3割。手付かずや余り切り、放置気味の領土が非常に多いとは言えこの状況では決して無視出来る状況では無い。何故なら熱波到達前の地域も既に高温の温度を観測しており湖も急速に蒸発し枯れる寸前となっている。冷涼な地域なのだが既に人間界で言う砂漠地帯の温度に近い状態と化している(因みに首都リリスの現在の気温は48度を記録している)。
「アジュカ様主導による防衛魔法陣の構築。セラフォルー様主導による温度の低下させる魔法陣の構築を進めていますが……何方も進展は遅々として進んでいません」
アジュカを主導にした防衛魔法の連合魔法陣による抵抗を嘲笑うかの様に熱波は魔法陣諸共、融解させて進行を続けている。セラフォルーの氷魔法で気温を下げる為に冷却しようにも一向に下がる気配が無く、双方共に全く効果が見られない。
「避難状況は?」
最悪の場合、冥界が灼熱地獄に変貌する可能性も否定出来ない。その可能性が徐々に高まって来ていたサーゼクスは速やかに冥界外へ避難を冥界中に勧告した。だが、問題は避難先は何処になるのか?
日本? 現時点では現実的ではない。まだ日本神話との和平は愚か対談すら実現できていない以上、大勢で向かうとなると警戒心を引き上げ其の儘、戦争に突入しかねずリアス達に危険が及ぶ為、その真似は出来ない。
かと言って他の地域の神話体系とも和平は出来て居ない為に確実にイザコザが起こる。欧州地域は天使陣営と敵対状態なので確実に揉めるだろう。その状態で苦渋の案として冥界の下にある冥府となった。無論、冥府の神であるハデスは難色を示すがこの際、仕方がない。
「若手悪魔を有する純血悪魔の家系は概ね避難は完了していますが、下級悪魔……自力で転移魔法陣を構築出来ない平民階級の悪魔の避難は遅々として進んで居ません。特に地方在住の民は取り残されている状態の場所も散見されています‼︎」
「出来うる限り避難させてくれ‼︎ これ以上の犠牲を出すな‼︎」
「ハッ‼︎」
各悪魔の領土に住む下級悪魔と言った平民階級の悪魔。他に転生悪魔の避難は進んでいない。貴族悪魔は自分達はさっさと避難してそれ以外の者は放置と言う杜撰な対応。恐らく下僕にした悪魔が死んでも代わりの者を下僕にすれば良いと考える思考があるからだろう。或いは下僕として転生悪魔にしたは良いが逃げられたり、見込み違いとして捨てられ放置してあわよくば今回の件で処分しようと画策している可能性も充分あるからだ。
ベリアル家を筆頭とした一部の貴族悪魔は領民達を引き連れ避難が完了しているとの報告は来ている。
——……猶予は然程多くは無い。助けられるだけ助けたい。
「サーゼクス様、只今戻りました」
「グレイフィア。リーア達は?」
「使い魔の森より駒王町へ避難を促し見届けました。其方の件は問題無いでしょう。旦那様方も領民を連れ冥府へ避難致しました」
「有り難う。して、此方の状況は芳しく無くてね。最悪、僕達も『打つ手なし』として避難せざるを得ないかも知れない」
城や建物なら魔法で幾らでも建て直せる。そう言う意味では人間界の様に町の復興に莫大な予算や何年も掛かる点とは違うので不安要素は少ないが……悪魔の命だけは如何しても取り返しが付かない要素。生命あって物種とは良く言った言葉である。
「……やはり、自然発生した現象では無いのでしょうか?」
冥界に突如として『太陽』が現れ冥界の大地を根絶やしにせんと猛威を振るう。単純に『人為的な行為だ』と決め付けるのは簡単ではあるがならばその現象に対して魔王や悪魔を以ってして如何する事も出来ない(=悪魔になど歯牙に掛けぬ存在)と言うのは悪魔にとっては屈辱的なモノと受け取れる。それを認めたくない者も多数出て来るだろう。
「セラフォルーやアジュカを以ってしても対処出来ないと言う事は、僕らの人知を超えた現象。或いは——」
サーゼクスは心当たりがあった。アジュカの異世界とこの冥界を繋げる実験。その結果、レーキュと言う異界の者が現れた。ひょっとしたらレーキュ以外にもその時の実験が原因で異界からの来訪者が居た可能性も否定は出来なかった。
「レーキュは何処に?彼女にも意見を聞いてみよう。何か知っているかも知れない」
この現象が『異界の術の一種』であるのならば何かしら知っているかも知れない。面と向かって話をする機会は少ないがそれでも彼女は高位の存在と見受け出来た。白衣と言う装いに魔王や異世界の概念を相手に全く物怖じしない、研究者気質……となれば研究知識は自分達より上手と言える。聞く価値はあった。
「此処まで見て居ませんので、恐らくは研究所かと」
「分かった。グレイフィア、済まないが僕が席を外している間、頼む」
「畏まりました」
一時的に現状況の統制の指揮をグレイフィアに委ねたサーゼクスは転移魔法陣でレーキュが屯する場所へと向かった。
レーキュは行動力が高くその気になれば自力で研究対象を確保しに行動するし『何処でも研究出来る』と豪語し何処へでも行く。サーゼクスが交渉しなければレーキュにより多数の悪魔が解体されていた事も否定出来ず、危険と言えた。交渉の結果、魔王ルシファー領の一角に在住を認めて建物を有する事を認めた。
「さて、何か知っていれば良いのだが……‼︎」
転移した場所。其処には冥界では珍しい近代風の建築物が立って居た。無機質な研究所と言うイメージが付くその建物はサーゼクス達が用意したモノでは無くレーキュが自力で用意した建物。たった1人で造り上げる技術力は侮れない。
「……レーキュ。話が聞きたいから入っても良いかい?」
建物の玄関口にはインターフォンと言う外部と内部の音声を繋ぐ装置がある。コレも冥界には無い機能だった。無論、人間界では浸透している為、いつの日かは冥界の一般家庭にも導入したいと考えている(技術的な問題でまだ実装されていない)。
『好き、に、すれば、良い』
その声がインターフォン越しに聞こえ玄関口の扉が自動で開かれ通路を塞いでいた茨らしきモノが天井付近に引っ込んで行った。二重構造の防犯システム。警戒心が意外と強いらしい。
「…………」
——現状の解明の一手になれば良いのだが。
暴走列車はこの後、どうなる?
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その辺に居た匙 元士郎を轢き飛ばす
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潜伏するコカビエルの頭を禿げさせる
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落ちていたドライグ(籠手)を跳ね飛ばす