——サーゼクス、の、間抜け、が来た。
研究室の中でレーキュは心の中でそう愚痴た。要件は恐らく冥界に広まる気温の異常上昇の気象問題だろう。
くだらない問題ではあるが放置は鬱陶しいので入所を許可した。研究所と言っても然程、広い訳では無い。文字通り玄関と研究室、後は保管室くらいしか存在しない簡素な造り。故に迷う理由が無い。
最も何処でも研究する為に必要最低限のモノが有れば事足りると言う事情もある。そしてレーキュは『研究の内容は頭の中に留め、形あるモノとして残さない』のである。故に他の研究者はレーキュの資料を見る事は出来ない。
「やぁ、レーキュ。忙……んなッ⁉︎」
数秒後、レーキュの研究室にサーゼクスが入室して来た直後に目を見開き思わず眼を背けた。
「ああ、コレ? 大した、発見は、無かった」
サーゼクスが目を背けた理由。研究室には試験管やシャーレと言った多数の実験用具の他に薬品棚や机、顕微鏡などの器具がある。その内、部屋の中央にある大机の上に肉体が横たわっていた。だが、その胴体はバックリと切り開かれ中身である骨や筋肉が外部に露出し生暖かい鮮血が机の上で海を作っている。内臓部位の一部が食い千切られていたり欠損もしている。頭部に至ってはバラバラになっており眼球があるべき部位は空洞化し頭蓋骨も砕かれ脳髄が垂れ流しの状態となっていた。
「そ、それは……?」
「見れば、分かる。処分も、兼ねて、
——内臓、部位の、特徴の、確認も、兼ねて。
「食べッ⁉︎」
レーキュは淡々と食べて処分していると告げた。その言葉にサーゼクスは絶句する。
——美味しい、モノ、では、無い。悪魔、の、味は、パサ、付いて、調理、に、向かない。単純に、言えばマズい。やはり、メルヒェン、の様に、は行かない、様だ。彼方は、少なく、とも、食べれ、ない事は、無い。でも、普通の、人間が、食べれば、知能、低下、凶暴化、と言う重篤、な作用、が出る、けど。
調査、の限り、悪魔化の、プロセスと、既知の、変貌プロセス、は別種、の概念、と判明、した。
「何を、驚く、必要が? はぐれ、悪魔、と言う、者だ。生かす、必要、無い、の、だろう? 問題、は、無い」
「…………」
はぐれ悪魔。悪魔としての力に溺れ主を裏切り離反した転生悪魔の総称。現悪魔政府としては殺処分の対象と見做している。だが、それでも捕食する行為は絶句モノ。こと、見た目こそは幼女と差し支えない容姿ならば尚更であった。
——外見、上は、平凡、な人類種と、変わらない。しかし、見た目、は、同じ、と、雖も、異質な点、は、相応に、ある。
「肉体、の強度、及び、対衝的な、身体、能力、は、兎も角、内臓の、耐久性、は、平凡な、人類種、と、大差無い。肺の、循環、機能は、この世界、の大気、元素、の、適応、している、と、見るか。また、胃酸の」
「す、ストップストップ‼︎ そう言う話はまた別の機会にしてくれ‼︎」
レーキュの考察が止まりそうに無い。この緊急事態にサーゼクスはその長くなりそうな話を聞いて居られない為に話の腰を圧し折った。
「あ、そ。で、何?」
レーキュは心底つまらなさそう(無表情な儘ではあるが)に解体したはぐれ悪魔の胸部の肉を素手で引き千切ってその筋肉筋を口に含む。マズいと言いながらも食べる姿勢。食べれる時に食べるのが常であったからだ。暇が無いからである。
「……今、冥界は危機に直面している」
「擬似、太陽、による、気温、上昇、及び大旱、違う?」
「あ、ああ。理解しているなら話は早い」
「で?」
だが、レーキュのその先の言葉は『それで?』と言うモノであった。正直な所、だからどうしたと言う言動であった。
「で……って、未曾有の危機だ‼︎」
「冥界での、周期的に、発生する自然、現象、では、無いと? 台風、地震、落雷、とは違う、と?」
「ああ……アジュカやセラフォルーが何とかしようとしているが芳しくは無い。もしかしたら君と同じ異界からの者による現象かも知れないんだ」
「…………然程、珍しい、光景、じゃない。やろうと、思えば、出来る者は、居る。膨大な、熱量、を、収束、させ、る」
——言う、のは、簡単。でも、何処ぞの、心底、気に、入らない、
一時的、なら、親指姫、人魚姫、とか……ハート、辺り、魔術が、得意な血式、なら、容易く、出来る。此処で、シルヴィア、に、ソックリ、な奴、に、会い、たく、ない。
「……しかし、規模は尋常じゃない。此の儘、行けば冥界全体に熱波が達してしまうだろう」
猶予は然程、多くは無い。対抗策が立たなければ首都リリスに到達するのも時間の問題。至急、逃げ遅れた悪魔の避難を進めているがそれでも犠牲は出てしまうだろう。
「防御魔法も氷の魔法も全く歯が立たない。僕達の手に余る事態であると重く見ている。その事を前提として異界の者であり未知の力を持つ君の助けを借りたい」
サーゼクスから見てもレーキュの能力は正しく未知数。白衣を羽織った幼女と言う風体ではあるがその実力は未だに隠されたまま。強いて言えば研究者気質で好奇心旺盛な子供と言った所である。
彼女に限らず神器所持者や神滅具持ち、果ては希少能力を持ちながら公の場(三大勢力から見て)に現れて頭角を現していない者もいる。
「いくら?」
「え?」
レーキュはサーゼクスの依頼に短くそう告げサーゼクスは思わず聞き返した。予想外の反応だとも思えたからだ。
「対価。何事、にも、代償、が伴う、のは、君達が、悪魔で、ある、以上、理解、して、いる筈。
「……」
何事にも代償が必要となる。
「まさか、対価も、無しに、動け、と?」
レーキュは腕を突っ込み今度は肺臓を抉り出して齧る。やはり美味しくない。
「冥界の危機だし……」
「君達に、とって、は、ね。滅び、は、何れ、は、来る。僕に、とって、は、当然、の、光景」
——流星雨、テオフィル……自分も、滅び、と、随分と、縁が、ある様だ、嬉しく、無いけど。
冥界が滅ぼうと構わない。こと、『この世界で起きる現象』、ならばその世界の者達が立ち向かうべきである。レーキュは定住するつもりは無い。いつの日か去る日が来る。それ以前に研究は何処でも出来るから冥界に拘る理由も無い。故にサーゼクスの必死さは伝わらない。何故なら、『他人事』でしか無いからだ。
暴走列車はこの後、どうなる?
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その辺に居た匙 元士郎を轢き飛ばす
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潜伏するコカビエルの頭を禿げさせる
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落ちていたドライグ(籠手)を跳ね飛ばす