まさかの伝説の二天龍が海老扱い。
『俺はドライグ。伝説の二天龍の片割れの赤龍帝だ』
駒王町の北側にはある小高い山。其処にポツンと落とし物の如く放ったらかしにされた赤い装甲の籠手があった。
『……何故、こうなったのか分からん』
時折、籠手の甲の部分に嵌め込まれた緑色の宝玉が明滅している。その原理を理解出来るモノは此処に居ようか。
『紆余曲折を経て『神滅具』と呼ばれるモノに封印されて来た。そして幾重にも宿主に宿り戦い死してまた宿り戦い死んで移り変わって来た』
『こと、神器や神滅具は所有者が死ねばまた別の者に宿り移る……それが今迄の常識であった。なのに、この様な』
ドライグの独り言は突如、視界の外から猛スピードで突っ込んできたモノレール車輌により物理的に撥ね飛ばされる形で終了。そのモノレール車輌はレールから飛び出し猛スピードによる惰性で前方の山林の木々を薙ぎ倒しながら爆走を続ける。
『な、何が起きたと言うのだ⁉︎』
特大級の横槍に殴り込まれて赤龍帝の籠手は放物線を描きながら上空を吹っ飛んで行く。そして飛んでいった先にある崖の岩盤に激突、跳ね返されて地面に落下。そして同じ方向に爆走して居たモノレール車輌も崖の根元に真正面から激突、減り込む形で漸く停車。
『ぶ、物理的に吹き飛ばされるなど、初めての体験だぞ……』
「んにーッ‼︎ 着いたー‼︎」
そのモノレール車輌の最後列車輌の扉を融解させて狐花が飛び出して来た。
冥界グレモリー領でモノレールを発見した狐花。運転方法なぞへったくれも無く、適当に弄り回してフルスロットルの状態で暴走させた。奇しくもそのモノレールは冥界グレモリー領と駒王町を繋ぐ『門』の役割を担って居た。その為、狐花は無事に顕界に帰還する事が出来たのであった。
——龍脈の流れの特徴から……丁度、駒王町の近くみたい。あ、アイラ達に断り無く行っちゃったし……恐介も居ないから連絡しようがない、どうしよ。
無事に帰って来れたは良いが、あの時に皆を放置してしまっていた。多分、長門が説明してくれて居そうな気がするが……かと言って美術館の位置は狐花は良く知らないし今から行った所で変に擦れ違う恐れもある。
『お、おい。其処の娘‼︎ 聞こえるか⁉︎』
「んに?(っ・w・)?」
——何か声が聞こえた。浮遊霊か地縛霊? 或いは流れ着いた怨霊?
魂を送る仕事をしている為、唐突に聞こえる声に対して特に驚きはしない。
『こっちだ‼︎ そっちじゃない‼︎』
「……ナニコレ。海老?」
視界を広げて見やると崖の壁面にブッ刺さるモノレール車輌の近くで赤い籠手が転がって居た。声はその手の甲の緑色の宝玉から聞こえてくる。
『俺は赤龍帝ドライグ。大半の連中は二天龍と呼ぶ。諸事情あって今は神器と呼ばれる物に封印され意識だけの状態だ』
——海老が喋ってる。
ドライグと名乗る存在に対して狐花は海老と認識していた。赤いし尻尾っぽいからそう見えたのだろう。
『娘。お前は、あの時に町諸共、滅ぼそうとしただろう?』
「んに? あの時?」
——何回かあったから覚えて居ない。と言うか海老の霊の知り合い居ないし……。
『駒王町で、お前が骸骨の兵士を出した時だ‼︎』
——あ、ベンニーアと初めて会った時だ。
「居たっけ?」
『……厳密にはあの悪魔の下僕のクソガキ宿って居た神器だ。あのクソガキの名は兵藤 一誠だったか?』
「……あ、あの性犯罪者の」
——神器ね。へー、神煉具以外でも意識あるんだ……うん、大体読めて来た。
『そうだ‼︎ あのクソガキに宿ってしまったのは歴代の龍生の中で最悪級の汚点だ‼︎ 何だあの小僧は⁉︎ 平然と素知らぬ顔かつ堂々と他のクソガキ共と一緒に女子達の着替えを覗く行為を繰り返す上に、女子達の前で大声で卑猥な話をする‼︎ あんな外道が今回の赤龍帝だと断じて認めてなるモノか‼︎ 他にも色々と文句を垂れたい事はウンザリする程、挙げられるがこの際は最悪の一言で充分だ‼︎ この有様では歴代の赤龍帝達の怨念にすら同情される始末‼︎ 本当に最悪だ‼ こんな屈辱、生まれて初めての経験だ‼︎ あんなのでは白いのに瞬殺されるわ‼︎』
「へー」
『聞けェェェェェェ‼︎⁉︎ ポリポリとその辺の蝗を食うんじゃない‼︎』
狐花は途中から興味を無くしたのかその辺に居た蝗を捕獲して齧っている。何が悲しくて性犯罪者の生態レポートを聞かなければならないのか。
『……頭の中は胸やら猥褻行為で一杯一杯。コレが今回の赤龍帝とは嘆いても嘆き切れなかった。そんなある日、良く分からんが日本神話の死神があの小僧を地獄とやらに連れていった。日本の地獄は死者の世界。つまり死ぬと言う意味だろう』
「ふーん」
狐花は今度はその辺に居た雀蜂を素手で捕獲して炙り焼きにしてポリポリと齧り始める。適当に聞き流している様だ。
『本来、神器と言うのは魂に宿るモノだ。媒介となる所有者が死ねばその神器の機能は一時的に停止する。そして次代のその力を宿せる人間が生まれてくるまでこの世に霊魂を漂わせる……だが、今回の俺の様に人間に宿り顕現化された姿であるこの状態のままで放り出されたのは永い間過ごして来て初めての経験だ。故に自力で動く事が敵わん』
——ふーん。性犯罪者に宿っていたのがこの海老の神器で、チセが性犯罪者を地獄に引き摺り込んだ影響かな。
「うん、埋葬しよう。土葬と火葬、嫌な方を選ばせてあげる」
狐花は眼下に落ちている海老の神器を埋める事にした。そして態々、嫌な方を選ばせると言う悪意も添えて。
『いや、待て待て待て待て待てェェェ‼︎⁉︎ 今の話を聞いて、何故そんな即座に葬り去ろうとするんだ⁉︎』
「……卒塔婆には『海老龍帝エビイグ、此処に眠る』と書いておく」
『海老龍帝⁉︎ しかもエビイグ⁉︎ 海老と俺の名前を組み合わせて斬新な名前を作るんじゃない⁉︎』
然も海老とドライグを組み合わせて斬新な名称を付けられてしまったエビイグ。そしてしれっと埋葬されそうになっている。
『ま、待て‼︎ 想像だにしない自体であの小僧から分離出来たのは僥倖ではあるのだが、何分、この状態では動く事すらままならん‼︎ 恥を偲んで頼む‼︎ 俺を持って行ってくれ‼︎ 見た時から並の人間では無いと言うのは見ただけで分かる‼︎ 願わくば宿主になってくれたらと思ったが、お前は人間のミックスですら無い‼︎ 神器は前提として人間の血を流す者にしか宿らない‼︎ 無論、何らかの形で剥がして後天的に宿す事も不可能では無いが』
「んにー(ーwー)」
『だぁぁぁぁぁぁ‼︎⁉︎ だから俺の話を聞けェェェ‼︎ 俺の話はそんなにつまらんと言うのかァァァァ‼︎⁉︎』
エビイグの話が長いのか狐花は又しても聞く気を無くしている。エビイグは泣きたくなった。此処まで話を聞こうとしない奴が居ると言う事に。
『か、必ずや役に立つ‼︎ だから、連れて行ってくれ‼︎』
「海老がまだ喋ってる。水底に沈めた方が良いかも」
『断じて海老では無い‼︎ 俺は赤い龍‼︎ ドラゴンだ‼︎ 海老と一緒にするなッ⁉︎』
「……海老ドラゴン?シードラゴン?」
『な、何が何でも俺を魚介類扱いしたいのか……‼︎』
「んー……‼︎」
狐花はある事を思い付いた。
「んにー、分かった。持っていく」
『本当か⁉︎』
「役に立つんでしょ?」
『ああ。あの時はあのクソガキが俺の力に耐えれる程の強さは無かったから片鱗すらも見せれなかったが、俺は伝説の二天龍。その気になれば神や魔王も捩じ伏せれる力がある』
「いや、それは誇大誇張。海老龍帝エビイグって自意識過剰なの?」
エビイグが自信満々に告げるが狐花は割と真面目にその鼻を圧し折りに掛かる。
『いや、普通に事実しか言わんぞ』
「だって、ドラゴンを常食する種族が扶桑にわんさか居るし……」
——代表的なのが天狗。神話とか想像上の存在は、土着的な意味で色々な解釈が為される。妖として伝わり神として伝わる事もままある。一方では神としてもう一方は悪しき妖として……二面性を持つのは変わらない。
そして天狗は迦楼羅が変じた存在と言う説話もある。迦楼羅は煩悩の象徴と言う悪龍を喰らうと言う。そう言う訳だから天狗も龍を喰らうと言う解釈が生まれて伝わる可能性も否定出来ない。
『え?
その話にエビイグは慄いた。龍殺しの存在は割と良く聞く話ではあるが龍喰らいの話はエビイグでさえ聞いた事が無かった。
そんな空気の中、狐花はエビイグの