『た、確かに……必ずや役に立つとは言ったが、コレは一体……?』
海老龍帝エビイグは困惑していた。狐花の住む皓咲屋敷の大きさにも『見事なモノだな』とある種の想いは抱いたが問題はその後であった。帰ってくるなり台所に向かったのである。
そして
アイラ達はまだ帰って来て居ない様だ。仕方ないので料理でも作って帰りを待つ事にした。
「んにー」
そして幼女であるが故の低身長。前回は五七に引っ張り上げて貰ったが今回は居ないので土台を持って来て対応する事にした。
「んにっ」
『おーい、何するつもりなんだ?』
台所の上には他にも、蝗、蜂、百足、蜘蛛と言った昆虫類がボウルにぶち込まれた状態で置かれておりエビイグは何が始まるのか戦々恐々としている。まさか伝説の(元)二天龍が幼女相手に慄く日が来ようとは思って居なかった。
「鍋」
『鍋』であった。鍋の中に色々放り込んで煮る、以上。と言うか具材のラインナップの時点で不穏な気がするのは気の所為では無い。
『えーと、鍋? 鍋とはスープと言った煮込み料理の事か……?』
エビイグの懸念は変な形に歪んでいく、海老と呼ばれた。それに鍋……そして昆虫類の山。もしや、と。
「んにんにっ」
エビイグの懸念を他所に狐花は準備を進めて行く。大型の鍋を用意して水を入れてガスを付ける。その間に海老龍帝の籠手を引っ掴み水道の水で洗い始める。
『おーい、洗ってくれるのは良いんだが……何か嫌な予感しかしないんだが……?』
ご丁寧に空洞となっている籠手の中にも水を突っ込んでいく。籠手の刺激と雖も元はドラゴン。水流なぞで慄く事は無い。
「ぽーん」
『って、鍋に突っ込まれたァァァ‼︎⁉︎』
そして洗い終わった直後、エビイグを鍋の中にぶち込んだ。よもや鍋料理の具材に使われる日が来ようとは夢でも見なかった事であった。沸騰した鍋の中に漬かる赤い刺々しい籠手。かなりシュールな光景である。
『うぉぉぉい⁉︎ まさかこの俺が鍋具材の一種に使われるだとォォォォ‼︎⁉︎』
「出汁」
『尚、性質が悪いわァァァ⁉︎』
狐花がエビイグを拾った理由。それは鍋料理の出汁に使う事であった。海老所か昆布や鰹節の様な扱い。コレにはエビイグも叫んだ。
『ま、まさか出汁扱いとは⁉︎ こんな扱いとは、俺も落ちぶれたァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎ 白いのが見たら笑われる‼︎』
「出汁龍帝、或いは鍋龍帝」
『ウォォォォォォん‼︎‼︎ コレなら普通に死んだ方がマシだァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎』
狐花が追い討ちを掛けた為に遂にエビイグは鍋の中で号泣した。何処の世界にドラゴンを鍋にぶち込む幼女が……いや、此処にいた。
「えーと、良い具合だから」
『待て待て待て待て⁉︎ 虫なんかと一緒に煮込むんじゃない‼︎ うおぉぉぉォォォ‼︎⁉︎ 止めろォォォォ‼︎⁉︎』
エビイグの叫び声は普通に無視され狐花は適当に鍋の中に百足やら蜂やら蝗やらを次々と放り込んで行く。もはや元士郎での惨劇を彷彿させる光景。鍋の中のエビイグの周りには昆虫が浮き沈みしグツグツと泡立って行き湯気が立ち昇る。
「甲殻類と昆虫類の合わせ鍋」
『ウォォォォォォん‼︎‼︎ 泣けるゥゥゥゥゥゥ‼︎‼︎』
虫なんかと同列扱いと言う事実にエビイグは号哭。更に続けて豆腐やら人参、白菜も放り込んで行き誰がどう見ようが完全に闇鍋同然の光景となっていた。
「あ、忘れてた」
『お、おい。今度は何する気だ……?』
狐花は土台から飛び降りて冷蔵庫の方の野菜室の扉を開けて何かを取り出した。それはパック詰めにされた赤黒い肉の様なモノ。蓋を開けて手頃な大きさに切られたそれを俎の上に広げる。鍋と言えば確かに肉類も欲しいが……。
『な、何の肉だ?見た所、鶏肉とか豚肉の肉では無さそうだが……?』
「んに。真羅 椿姫と言う転生悪魔の胸の脂肪の肉」
『』
その言葉にエビイグは絶句し、狐花はその肉を鍋の中にぶち込んで行く。以前、狐花達の溜まり場と化している美術室に乱入して来た悪魔『シトリー』率いる生徒会の面々を返り討ち、その際に静香が椿姫を討ち取った。
その後の騒動の後、狐花はシレッとその首から下の肉体を回収し解体し食べれそうな部分を切り分けて冷蔵庫に放り込んだ。折角なので使う事にしたのである。
「そろそろ出汁は良いかな」
『色々とツッコミたいんだが……転生悪魔と言うか元人間さえも食うのか⁉︎ 色々とアウトな気がするんだが⁉︎』
出汁の役目は終わり。エビイグを鍋から取り出してその辺に放っておく。ドラゴンと雖も狐花の行動は色々とヤバいと認識するエビイグであった。
「そう? 共食いとか普通にあるでしょ」
『…………それはそうかも知れんが、いやいや、流石に、ちょっとどうかと思うんだが……?』
「?」
そんなこんなで煮込み終わり鍋料理『海老龍帝出汁の椿姫の肉風昆虫鍋』が完成する。見た目としては鍋の中から昆虫類が飛び出して椿姫の胸肉が浮き沈みしていると言うかなりグロテスクな見た目であった。
『……見た目が完全にゲテモノ料理にしか見えん。とても他人に見せられる料理じゃ無いな……』
出汁に使われたエビイグはその完成した鍋料理を見て呆れた声が出て来る。豆腐や野菜を除いた食材(?)が既にチョイスが可笑しいのでゲテモノ料理にしか思えない。
「料理が暴れ出す訳じゃないし……」
『日本は一体、どうなっているんだ⁉︎ 俺の中の日本のイメージを返してくれッ⁉︎』
狐花はそう言いながら箸で鍋の中身を食べて行く。前回の匙 元士郎の肝臓と右腕を使った鍋料理は見事な失敗作に終わったが、今回は食べられない事では無い。椿姫の胸肉もそれなりに柔らかいので食べ易かった。
「あ、エビイグも食べる? と言うか食べる所ある?」
『あー、意識があると言っても神器だからな。食事とかそう言うのは必要ないんだ。思えば今この瞬間、食事の必要が無いと言う事に感謝しか無いな。そんなモノ、願い下げたいからな』
「はい、籠手の中にも突っ込めば」
『待て待て待て⁉︎ 俺の話を、と言うか茹で上がった百足を籠手の中に頭から突っ込むんじゃなァァァァい‼︎⁉︎』
狐花はエビイグの絶叫を無視して籠手の内側に百足を頭から突っ込んだ。百足が籠手の中を住処と思って入り込んでいる様にしか見えない……。
「騒がしいと思ったら狐花ちゃんが帰ってた‼︎ もう、狐花ちゃん。急に飛び出すんだから心配したじゃないの‼︎」
『駒王町に狐花の気配が出て来たからなぁ。まぁ、生きとるやろと思っとって正解やな』
「あ、皆」
『お嬢。また無茶を為されて……と言うか食事中でしたか』
その時、アイラ達が皓咲屋敷に帰宅。五七や恐介ならば狐花が顕界に現れれば気付くと思っていた。その為、真っ直ぐ帰宅を選んだ様である。
「……長門さんから『周りの者の事を考えよ。もう、汝は独りでは無いのだ』と言う言伝を頂いていますわ。その言葉通りですので、私達からも言う事はありませんわ」
「んにー……」
『ま、狐花は過去が過去やし独断専行が常やったからな。コレばかりは、もう直らんわい』
狐花の狂気滲みたやり方はもはや、直らないと見ていた。そもそも人間ですら無いのだから人間のやり方を押し付けるのもまたお門違いであった。
「で? 狐花ちゃん、何して来たの?」
狐花は冥界でやった事をアイラ達に話した。
『あー、狐花。夜摩天様が過労で倒れるで……絶対』
『その前に、閻魔様は恐らく全員纏めて地獄行きにさせて終わらして居そうですね。タダでさえややこしい状態ですので……』
「やっちゃったモンは仕方ないもん。どの道、全員纏めて滅ぼせば手っ取り早いし」
シレッと狐花は開き直った。やったモノは仕方ないし、と言うか冥界なので悪魔以外に居ないのでどうでも良い。
「狐花ちゃん。もはや貴方は水素爆弾か原子爆弾と言った核兵器ね。凡ゆるモノを滅び去る……旱と言うレベルじゃない」
狐花は過去に『地球諸共、滅ぼせば手っ取り早い』とも言った事がある。その点を踏まえると……やりかねない。終末を迎える事になる。
『あー、冥界がどんな広さかは分からんけど、エラい事になってそうやな……あの『劫魃』やしな。大地が枯れ痩せてペンペン草さえも生えんやろ』
『……駒王町。いや、顕界でやらなかっただけマシでは? 仮に冥界が滅ぼうと顕界には影響はありません故に』
「そ、そう言う問題でしょうか……?」
『おーい、お前達盛り上がるのは良いが……この突っ込まれた百足をどうにかしてくれ……』
エビイグの心の嘆きで漸くアイラ達はその海老の存在に気付いた。狐花が頑なに海老と言う為にアイラ達もエビイグを海老と言う認識を持ってエビイグが号泣するのはまた別の話。
そして皓咲屋敷にエビイグ(出汁要員)が来て数日後。駒王学園の臨時休校期間が終わり登校再開となった……。
【真羅 椿姫】
胸の部分の肉は其処其処、美味しかった。茹でるのが1番、美味しいけど、焼くのもアリ。