「部長。昨日、堕天使達が拠点にして居た廃教会跡地に今日になって日本屋敷が建っています」
「たった1日で、建物を建てるなんて真似……人間には無理ね。となると……」
「他にもその屋敷には破邪の結界が張られています。コレは日本神話か仏教の面々によるモノでしょう。かなり強力な結界で、真正面からでは打ち破る事は難しいでしょう」
「……日本神話? この国の神かしら?」
「部長は余り知らないのですよね。考えれば考える程、今まで日本神話の神々が何もしてこなかったのが不思議でなりません。仮にも日本の土地を悪魔が蠶食していると言うのに……」
「……日本神話の分際でこの私の領地に土足で踏み込み、剰え踏荒そうとするだなんて万死に値するわ‼︎ そんな連中は今日中に見つけ出して滅してやるわ‼︎」
——踏み荒らしているのは此方側な気がしますのだけど……リアスは止まりませんわね。しかし、あの結界はかなり強力……ソレこそ高位の神や仏によるモノ……近づくだけでも危険ですわね。
この駒王町を『領土』と見做し領主を名乗る悪魔。リアス・グレモリーは自分の領土の一部を乗っ取られた事に関して憤慨し首謀者を滅ぼす事を決める。その様子を見てリアスの側近であり『女王』である姫島 朱乃は人知れず嘆息する。元々は巫女の家系であったが故に『日本神話』の事ならばリアス眷属の中で1番良く理解している。
神々や仏が展開した結界は、それこそ三大勢力の『天使』陣営や教会の神聖なモノ……『聖水、聖剣、十字架』に匹敵する『破邪』の効力を持つ。悪魔は言うまでも無く『邪』の域に属する存在。
「……リアス。穏便に対応しましょう」
故に日本神話の『狂気』を察したのだ。悪魔社会故に傲慢になりがちな悪魔貴族。流石にリアスがそうだとは断言出来ないが、用心するに越した事は無いのだ。言い分としては向こうの方が上手となる。
「朱乃。どう言うつもり?」
「日本神話は他の神話と違って荒れる時は荒れますわ。コレが堕天使や天使陣営。以前は何者かに事前に仕留められましたが、はぐれ悪魔ならば滅殺で宜しいでしょう。しかし……この国の神々が相手となれば……話が変わりますわ」
「…………だからと言って私の管轄区域を好き勝手にされるのは黙っては居られないわ」
「だからこそ、此方から喧嘩を売る様な真似は相手に……日本神話に口実をあげてしまう様なモノですわ……‼︎」
——冥界の悪魔社会では日本神話はマイナーで力の弱い神々の集まりと言う風評が広まって居ますけれど……そんな甘いモノではありませんわ……遍く八百万は和魂と荒魂を持つ……全てが破壊を齎す神となり得る。
リアスの心情も理解は出来る。だからと言って此方から喧嘩を売る訳にも行かない。相手の思惑を探らねば口実を与える事になる。そもそも三大勢力の小競り合いが起きている矢先に、この大地の主に矛先を向けられるのはマズいからである。
「…………そうね。少し興奮していたわ……日本神話と言うのは私は余り知らないわ。ただマイナー神話である事、位ね」
「誰が来ているのか分からない以上、下手な真似はしない方が良いでしょう……少なくとも良い感情は持っていないと考えるべきですわ」
「……いきなりマイナスイメージは癪に障るわね……兎も角、取り敢えずは対話から試みましょうか」
朱乃の提言にリアスは釈然としないが理解を示して対話から試みる事から始める。確かに三大勢力の均衡が揺らぎ、堕天使との諍いが起きている矢先に日本神話との不和(グレモリーの領土は日本国にある)となり対立すれば、この駒王学園に通うのも難しくなる。リアスにとって日本の学園生活と言うのは代え難いモノである事も確か……戦争状態になれば無論、悪魔陣営が負ける事は無いのだが、原因が自分となると魔王にも迷惑が掛かるかも知れない。そう言う意味でも避けた方が良いだろう。
そして2人は気付いていない事が1つ、それは——。
五七が弩の超えた屋敷の構造に驚愕してから3時間後、二度寝を終えた狐花が目覚めて翌朝となり登校する。
「……澱んで居た空気が大分、晴れている」
『せやな。滞留して居た気が流れ出てスッキリしとらぁ、清々しいで〜。おーおー、分かる分かるで〜。細かい場所まで把握出来るレベルやで。前までは曖昧やったけど……今なら正確に把握出来らぁて』
人工的か或いは偶然か分からないがその龍穴の『蓋』が破壊された事により駒王町に滞留して居た瘴気が晴れた事により、気配の感知が容易となった。そして、伊弉諾尊様が建設した狐花の家の周囲には神気が滞留しており、自然なる結界が発生している。
悪魔や堕天使の類はそう言う神聖なる気は嫌うので容易には近付けないだろう。それが主神クラスの気ならば尚更である。逆を言えば……。
『が、派手にやっとるから……本格的にバレたと言っても過言やないで?昨日は偶々、来おへんかったやも知れへんが、今日は流石にバレたやろ。何せ、無茶苦茶な乱れた気がとっぱられたんやらからな』
「ん、分かっている……」
悪魔の気配も容易に探れる状態。そして、悪魔が嫌う気配も向こう側からも容易に感じ取れる状態になっている。どう言うリアクションを取るかは分からないが挑発している状態になっている事は容易だろう。
「それに、穢れた空気が無くなったから身体が軽い……」
『まぁ、帰ったらまずは水垢離やな。昨日はドタバタしとってそないな余裕無かったからな』
滞留して居た気が禊がれた事により狐花の体重が多少、軽くなった。瘴気は狐花にとっても害悪。定期的に禊ぐ必要がある。今は時間が無いのでまた後でと言う事になる。
『で、仕掛けんか?』
「……今は放置。戦力が分からないのに飛び込むのは愚の骨頂。邪魔なモノが消えたから事前調査をしてからの方が堅実」
『やな……悪魔共が変にやったんかは知らんが龍脈の乱れによって発生した瘴気が消えたからな。コレなら、普段通りにやれるわ。それで、調査は任しとき〜、ああ……わっとると思うけど日中は大人しくしときや。人様に迷惑かけんやないで?』
「ん、分かってる……」
『斯様な所に居ましたか、お嬢さん』
『あん?あ゛ッ‼︎ て、テメェは⁉︎』
その時、狐花の耳に五七では無い者の声が届いた。道路脇、住宅の敷地と遊歩道を隔てる塀の上に一羽の烏が止まっていた。だが、脚は3本ある三足烏……或いは金烏。分かりやすく言えば八咫烏。その姿を見た五七は驚きの声を上げ——。
『誰や?』
『酷い‼︎ この私をお忘れになるとは⁉︎ お嬢、お嬢はこの私の事をお覚えでありますよね⁉︎』
盛大に忘れていた。その言葉に八咫烏は悲鳴沁みた声をあげて助け舟をお嬢と呼ぶ狐花に求める。
「誰だっけ?」
『( ゚д゚)』
『アホ面、晒すなボケェ。烏の癖に豆鉄砲食らった面構えすんなや、鬱陶しい』
狐花も忘れていた。その言葉に八咫烏は今度こそ硬直して、倒れ込みそうになるも辛うじて持ち直す。
『私ですよ、私‼︎ 八百万の神々が遣いの恐介ですよ‼︎』
『そないな名前やったな、ついさっきまで忘れとったわ。最近、ボケが激しくてな』
『酷過ぎやしませんかッ⁉︎ 此方は大変だったと言うのに‼︎』
『アレやろ?伊弉冉尊様が、高天原をまたぶっ壊したんやろ?よー生きてんな、お前』
『死にかけましたよ⁉︎ いや、本当に死ぬかと思いましたよ‼︎ あのお方、『伊弉諾の新作?じゃあ、壊すね』の一言で落雷、溶岩噴出、津波、挙句の果てに流星群を纏めて引き起こすんですよ⁉︎ 逃げ場が無いですよ⁉︎ あのお方、何、軽い気持ちで天変地異を起こすんですか⁉︎ 暫く高天原に帰りたくありません‼︎ と言うか、本当に誰でも良いですからあのお方を止めて下さい‼︎ 出来れば穏便に‼︎ 喜んでも周りを破壊するし、悲しんでも周りを破壊するし‼︎』
『伊弉冉尊様を止めれるの、溟涬而含牙の以降、何処にも居らへんて……』
狐花の頭の上に飛び乗った恐介は五七と言い争いを続ける。と言うか愚痴だった。そんな事、確実にその相手にとても言えない内容の愚痴であった。
『で?何の用で来たんや?つーか、何しに来たんや、ヤキトリ』
『お黙りなさい‼︎ イヌっコロ‼︎』
『黙れ、トリ』
そして本格的に言い争いを始める烏と狐。その時、両者の首に狐花の手が伸ばされ握り掴み取られる。
「2人とも、うっさい……‼︎」
『『は、はい……(ご、ゴミを見るような目……‼︎)』』
狐花に水より冷たい視線を向けられ恐介と五七は完全に黙り込むのであった……。