「まぁ、人の子がどんな存在を信じようが本人の勝手だ。俺も狂って荒ぶる荒神であろうと日本神話が一柱。別に信仰なぞ求めん。が、俺から見たら悪魔も天使も堕天使も同じ愚物に成り下がったゴミにしか見えん」
「貴様ッ‼︎」
異端。異教の神の罵倒の連続で遂に我慢がならなくなったのか青髪の少女は剣を抜いた。
「……これ以上、主を愚弄するとなればでこの『破壊の聖剣』を以って断罪するッ‼︎ 異教の悪魔め‼︎」
鞘から抜き放たれた刀身。聖なるオーラを纏い周辺の大気を浄化せんとするその貌。その刃を見た悪魔達は恐れ、畏怖、そして憎悪の面持ちで見ている。
「……ふん。悪魔、か。自分以外は愚かと信じて疑わんか……。良い、来い。人の子よ。お前の信じる信仰の力を見せてみろ」
畏れ多きも神に挑む。荒神である天魔雄様はその挑戦を快諾し『挑め』と言う体で青髪の少女を見据える。
「舐めるなッ‼︎」
青髪の少女は聖剣を構え、瞬時に間合いを詰め大上段から振り下ろした。少女は自身の手に携えられた聖剣の特性を理解している。故に最善、故に必殺、小手先技は不要。信仰の主の名の下に異端の屍のみ広がれば良い。
「2本」
——入った⁉︎
ソーナは青髪の少女が構える剣が悪魔にとって致命的な存在である事は即座に理解。その刃が天魔雄様は動かない事から入ったと見た。その刹那、その認識が誤りであると変貌した。
「……なっ⁉︎」
聖剣の刃、それは天魔雄様の眼前で止められた。左手の人差し指と中指の2本の指に挟み止められる形で。その光景に青髪の少女も目を見開いた。躱すなら分かる、得物で鍔迫り合うのも分かる。だが、この様な形で阻止されるのは生まれて初めての経験だった。
「動きも良い、弛まぬ鍛錬の太刀筋。だが、単調だ」
天魔雄様は悠々と聖剣の刃を止めた時、左腕を振るい上へ放り投げ柄を掴み青髪の少女から奪い取る。無手と得物。立場は瞬時に入れ替わった。青髪の少女もその剣の特性上、迂闊に踏み込めない。
「ふむ、『破壊の聖剣』。エクスカリバー、か。汝はエクスカリバーの
天魔雄様は聖剣の鋒を生徒会室の床に突き刺してそう問い掛ける。自身が振るうつもりは無いのか。
「何って、聖剣だ。教会が管理、保管する」
「可笑しな話では無いか? エクスカリバーのその最期は湖の乙女に返還された……。なのに何故、お前らの大戦に関わる? 正教会?カトリック?プロテスタント? 聖職者が何故、レガリアたるモノを管理する?
成程、ペンドラゴン家が動くのも頷ける」
天魔雄様は淡々とエクスカリバーの最後を告げる。それは叙事詩を知る者からすれば良く知られた最後の一節。エクスカリバーを持ちし本来の所有者であるアーサー王。彼は湖の乙女からエクスカリバーを授かり、そして最後に返還した。
「そもそもエクスカリバーは『
「……何だと⁉︎ いいや、そんな筈は無い‼︎ エクスカリバーは聖剣だ‼︎」
天魔雄様の説明に青髪の少女は愕然とするが意識を切り替えてその言葉を否定する。エクスカリバーは聖剣、それを信じて疑わず。
「……弁が立つと言うより日本神話の神の割に詳しいですね?」
其処にソーナが口を割り込む。会って2回目ではあるが『此処までは怒らない』と推測込みで疑問を呈した。
「
「……」
ソーナは奇妙な視線を向けざるを得なかった。最悪、天魔雄様の琴線に触れかねない真似ではあったが笑い飛ばされる形で終わった。
「さて、人の子よ。今一度、問おうか。エクスカリバーとは言うがイングランドの王の象徴と見做されるレガリアだ。お前は
「何を……⁉︎」
天魔雄様の問いに青髪の少女は理解出来ぬ顔で問い返す。
「たぁぁぁぁ‼︎‼︎」
その時、扉をぶつけられて生徒会室から突き落とされた橙色の髪の少女が天魔雄様の背後から剣を構えて斬り掛かる。だが、天魔雄様は突き刺した破壊の聖剣を抜き振り向き様に斬り払う。その一撃は重く斬りかかって来た少女を水平に吹き飛ばし向こう側の壁に叩き付けた。
「せ、聖剣の因子が無いのに、いや、そもそも異教の神が聖剣を扱うなど……⁉︎」
異教の神が聖剣を振るった。その光景に青髪の少女は信じられない顔でその光景を見ていた。
「奇襲するなら無言で来ると良い。それに、ゴミ共は突っ立っているだけか?」
敵である連中が眼前で暴れている。隙を突いて強襲するタイミングは幾らでもある。漁夫の利を得ると言う行為も狙うならば狙うべきだ。
「貴方に勝てる算段がありませんので……それに教会陣営と肩を並べる理由は今はありません。勝手に斃れてくれるならばその方が良いと判断しています。最も生徒会室で暴れられるのは困りますが」
今にも飛び出しそうなイッセーは元士郎に抑えられている。ソーナは此処で武力的乱入は下策と判断して傍観を選択した。
「ほう、其処の抜け殻蛇と違う様だな」
「恐縮です」
「おい、抜け殻ってのは俺の事か⁉︎」
「良いからテメェはもう黙ってろ‼︎」
ソーナは素直に返答する。これ以上、場を荒らされる訳には行かない。イッセーは未だに抑えられている。今にも飛び出しかねないが今、割り込まれては更に状況が悪化する。
「……この‼︎ 主よ、私に……ィ⁉︎」
壁に叩きつけられ立ちあがろうとした橙色の髪の少女の言葉はそれより先には続かなかった。何故ならその胸元に『破壊の聖剣』が深々と突き刺さっていたからだ。
「……か、は……ッ‼︎⁉︎」
「い、イリナッ⁉︎」
喀血し、苦悶の声と共に廊下へ血反吐が吐き零された。聖剣により致命傷を負う、それは強力な武器は時には自らも傷付ける事になる皮肉。
「……それに『破壊の聖剣』は破壊力が武器。なのに、不発……?」
「……せ、聖剣、聖剣が、……私、に……さ、刺、っ……⁉︎」
「さて、伴天連よ。汝の信仰、『神の救い』とやらでその人の子を救って見せろ」
「貴様ッ⁉︎ もしや、わざとか⁉︎」
青髪の少女はこれまでのやり取りが茶番だと考え、倒れたイリナと言う少女を庇いながら吠える。
「言った筈だ。信仰の力とやらを見せてみろ、と。どんな手段で救うのか、をな。未知の概念は恐怖を伴うモノ、既知とならば理解に及ぶ」
「…………ッ‼︎」
知らないから恐怖する。分からないから自然に敵意を抱く。人間ならば誰しも思い浮かぶ感情だ。
「生憎と、俺は直に見ないと納得しない性質でな……。信仰が力に変ずるかに関して訝しみがある」
「神の奇跡はおいそれと」
「そうか、ならこれ以上は平行線だな。人形共がどんな傲慢かも確認出来た。それにそらそろこれ以上、居るとババァに俺が居る事がバレるだろうしな」
天魔雄様は『時間だ』と言いたげな顔になり引き退った。もう興味は無いと言わんばかりの対応。
「おい、茄子女の妹」
「……何でしょう?」
ソーナは自分が茄子女と言われる事に関して諦めに近い感情が芽生えて来た。何を言っても聞きやしないだろうとも。
「そのゴミ共がやった事に関してどう言う理由か、ゴミの王の言葉を持って来い。宣戦布告のつもりなら、受けてやるとな」
「……確と伝えておきます」
天魔雄様は場を荒らし暴れるだけ暴れて生徒会室を後にした。残るのは天井に突き刺さり放置されているリアスと、完全に蚊帳の外にされたリアス眷属。そして適当に去なされた教会組の2人。残された傷跡は凄まじく正に暴風雨の様な存在だった……。