「暴れ過ぎだ。隠蔽する方の身にもなれ」
某所。其処で1枚の壁を跨いで天魔雄様はある人物と言葉を交わしていた。
「そりゃ悪かった。喧嘩は買う主義でね」
「前回も扉を粉砕して部屋を壊しただろうが。2度も同じ真似すんじゃねぇ、クソガキ」
「アンタの教えの賜物だよ」
「責任転嫁するな。で、人形共と塵と、マリオネットがこの町に集る羽目になるとはな」
「……ババァは兎も角、狐花はどう動くかね? 色々と面倒臭くなって町諸共、融解させるんじゃねぇか?」
「以前、転生悪魔を4桁単位で葬って気が済んだ……とは言えんな。普通に滅ぼしかねん」
「その前に避難させた方が良いんじゃねぇか? 命あって物種だろう?」
命が無ければ無意味。
「……長引くとそれはそれで危険だ。市役所も不審がるだろう。最も厄介なのはあのチビ娘の癇癪が突発性である事。発狂したかの様な行動が多い」
「動きが読めん事に関しては否定はしない」
「手を打つか……。でも結構、疲れるんだよな、アレ」
「「「…………」」」
暴風雨が過ぎ去った後の生徒会室。扉や窓は粉砕され、天井にも穴が開き、生徒会室の向かいの廊下の壁際には衝突時の亀裂。余りにも生々しい傷跡が残される中、白い祭服を纏う青髪の少女、ゼノヴィアは口を開いた。
「
ソファには胸元に致命傷を受けたイリナが寝かせられている。間違いなく即死は免れない傷であったが奇跡的に息は残しており応急措置はしたが、油断は出来ない状態。病院に、と言う意見はあるが……出来ない理由がある。
「聖剣は、聖剣の因子が無ければ持つ事すら叶わないのに何故、あの日本神話の神は扱えた⁉︎」
ゼノヴィアは心底理解出来ないと言う顔で疑問を呈する。答える事が出来る者はこの場に居ないと言う事も承知の上である。
「分かれば苦労しませんよ。日本神話の一柱と言う事位です。日本神話は悪魔陣営を酷く嫌って居ますからね」
リアス眷属は王であるリアスを天井から引き抜いた後『後で経緯を教えてくれ』と言う事で生徒会室から退室した。理由としてはリアス本人が突き刺さって放置された所為か気絶しており、眷属の裕斗の様子が可笑しかった件が合わさりこれ以上、留まるのは危険と『女王』である朱乃が判断した為であった。
「異教の神が……」
「……説明する前に日本神話の神が現れたので理解したでしょう? 知らないでしょうから言っておきますが、日本神話はこの国の如何なるモノにも神が宿ります。ええ、壁や机、雲や木、道路は愚か土にも宿り、見ています。貴方方、命幾つ消されますかね?」
「お前達こそ、平気なのか?」
「戦々恐々となって居ますよ。ええ、直ぐ近くに日常諸共、滅ぼしに掛かる方が居られますので……未関係な者とか、情報統制とか、そんなモノを全て無視して滅ぼしに来ます。怖いと言うレベルではありません」
日本神話の神は何処にでも居る。子の生徒会室にも日本神話の神が多数、存在し見ている事だろう。手は出さないだけで衆人環視に晒される事を自覚した時の圧迫感は計り知れないプレッシャーとなる。
「さて、非常に長い横槍が来ましたが……交渉の会談を続けましょうか」
「……っ」
ソーナはこの状態で本来の要件であった教会組、天界陣営との交渉の再開を告げた。そもそも言い出しはゼノヴィア達。まだ理解を示した訳では無い。ソーナ達にはまだ切り込む口が、ゼノヴィア達はイリナが生死を彷徨う負傷と言う弱った状態。
「その前にお仲間が死に体では気が気で無いでしょう」
ソーナは其処であるモノを取り出した。雫型の小さな容器に収められた透明で少量の溶液。それは『フェニックスの涙』と言う希少な霊薬。瀕死の者さえも忽ち癒やすと言うモノ。ソーナ自身としてはおいそれと調達出来るモノでは無く正式なレーティング・ゲームにまで取っておきたいが今、使い自身にとって事を優位に運ぶ事に使う事にした。
「……どう言うつもりだ?」
「『フェニックスの涙』は人間にも効果はあります。つまり、『貸し』です。貴方のお仲間の命を人間のまま救う代わりに此方の要求を聞く、とでも言いましょうか」
「…………」
人が精神的に弱っている時に説得する。悪魔的思想と言えた。断ればイリナの命は保障出来ない。まだ目的を果たして居ないのに落命と言うのは余りにも無惨であった。
「……何を要求するつもりだ?」
「簡単な事です。この問題は天界や堕天使の問題では収まりません。この地の日本神話からも看過は出来ないでしょう。何せお互いが無関係な地での争いです。其処に申し出無く事を起こせば……分かりますよね?」
今度は天界と日本神話との戦争の引き金を引く事になる。その時、自分が生きている保障は無いのだが……。
「勝てますか? あの神は遊びの認識すら持たれて居ませんよ? 私なら、相手したくありませんね」
聖剣を指2本で止めた。あんなのが他にも居ないとは限らない。神と言うのが無数に存在する混沌とした世界。
「正式に日本神話の方にも話を通すのが筋です。具体的にはこの駒王町にある一際、大きな日本屋敷に皓咲 狐花さんが居ます。その方が日本神話に属し日本神話との対談が出来る方です」
ソーナは自分達に要求を通すより先に日本神話に話をしろと説明した。そもそも日本神話は天魔雄様を除き、殆どの場合交渉の場に出て来ない。消去法で1番面倒な人しか残らないのである。狐花が話が通じない可能性がある事は伝えない。
「……それが要求か」
「その通りです。仮にそれをせずに今回の事を進めた場合……確実に戦争に陥るでしょう。そのとばっちりで私達も殲滅されるでしょう、この町諸共……それは避けねばなりません」
コカビエルに蹂躙される前に狐花に燼滅されると言う本末転倒な羽目に陥りかねない、駒王町が。
ソーナは『天使と堕天使の諍い事でとばっちりはゴメンだ』と言いたいのだ。そうでなくても相手はコカビエルと言う古兵。格が違う存在。
「他所の家に上がり込むのに家主に挨拶無しとは、聖職者云々の前に人として礼儀に欠けると思いますが?」
「…………」
人間としての礼儀に欠ける。そう言われて無視は不作法だろう。
「分かった、その要求を呑もう」
「交渉成立ですね。対価として傷を治してあげます」
ソーナは瀕死のイリナにフェニックスの涙を使用した。破壊の聖剣により付けられた傷は忽ち治癒された。
「あ、アレ……私?」
「イリナ。説明は道中でするから出発するぞ」
「え?ちょ、何⁉︎ ちゃんと説明して‼︎」
「コレから異教の日本神話に属する者と交渉する。流石に先程の戦いと言うには粗末過ぎるが、正面からぶつかるのは得策では無い」
「え、もうちょっと経緯を⁉︎」
ゼノヴィアは説明する時間が惜しいと言わんばかりにイリナを引っ張り生徒会室を後にした。
「……匙。使い魔を放ち尾行を」
「は、はい。会長……それで、どう言う意図を?」
元士郎の疑問は最もだった。交渉とは言うが、ソーナがやったのは『自分じゃなくて別の者に言え』と言っただけである。その為だけに希少なフェニックスの涙を使ったのだ。
「……皓咲さんには私達では会話になりません。それは彼女が私達、悪魔を常軌を逸するレベルで嫌悪しているからです。ならば天使の傀儡とは言え人間に交渉させて、皓咲さんの情報を探る為です。日本神話との交渉も停滞状態が続いている中、此の儘私達が駒王町に居続ける事が出来るか定かではありません。少しでも交渉の糸口を見つけねばなりません」
悪魔陣営としても日本神話との会談は諦めていない。と言うか自分の知らない所で既に別の貴族悪魔辺りが余計な真似を仕出かしている事実がある以上、此の儘では外交上危険であった。
「だから、利用する形で向かわせたんですね」
「これ以上、眷属を死なせる訳には行きません。彼女達とは便宜上……敵同士。横死しても構いません」
形振り構って居られない。ソーナは日本神話との3度の交渉は失敗しその都度、眷属を失っている。狐花の視界に入る以上、眷属は増やせない。
「コカビエルの件も気掛かりですが、実際に私達ではどうにか出来る相手ではありません。かと言って魔王様に仰いで動ける余力があるか……」
「ままならん話ですね。俺達もボロボロで冥界もボロボロだと……」
「…………」
既に時刻は夜を指していた。
駒王町『もうダメだぁ……おしまいだぁ……』
この町、ヤバい奴集まり過ぎでは……?