——何、コレ?
皓咲屋敷の居間にて、アイラは困惑した顔でその光景を眺めていた。服装はと言うと白衣に緋袴と言う屋敷内では馴染んできた巫女さんスタイル(絵描き故にインクが時々、白衣に付着している時がある)。
「うりうり、可愛い〜。ぷにぷに〜」
「むにー(o ー w<o)」
デカい。一言で言えばデカい。アイラもそれなりに身長が高いが目の前で女性は更に高身長。その癖、はちきれんばかりの爆乳と言う色々とデカい。
長い黒檀の様な黒髪を靡かせ同じ様に白衣に緋袴と言う巫女さんスタイルの彼女は狐花を抱えて頬を突っついている。
——いや、誰⁉︎
いつの間に現れたのかとか、何処から現れたのかとか、それに狐花を弄り倒して平気なのか(反撃が怖い為)と色々、言いたいが困惑する他無い。
「プニプニしてて、柔らか〜い」
「んにー \(>w<)/」
「え、えーと、何方様なのでしょうか……?」
この突然現れ狐花の頬を突いて弄り倒している女性に疑問を呈するアーシア。金髪に巫女服姿も板に付いて来た。
「少なくとも狐花ちゃんは嫌がって居ませんね……」
『何や、騒が……えぇ⁉︎』
騒ぎを聞き付けて五七が現れる。そしてその女性を見て驚愕の声を上げた。
『嘘やろ。何で、天照大御神様が此処に居られるねん……‼︎』
呆れにも近い言葉。その相手は天照大御神。日本神話が頂点、太陽を司りし神。主宰神が其処に居た。
「取り敢えず初めまして〜。天照大御神だよ〜」
狐花を膝に座らせた天照大御神様。先程の視線に気付いたのかアイラ達と机を挟んで相対する形で座る。知らぬ間に現れた女性がまさかの天照大御神様とは露と知らなかった。アイラ達は高天ヶ原に赴いた事があるがその時には拝謁していない。
「……あ、天照大御神、様……?」
この中で日本人である静香。長崎出身であり礼拝堂に居たシスターであってもその名は知っている。日本人ならば知らぬ者は居ない。
「……い、イメージが……壊れちゃいます……‼︎」
アーシアも困惑していた。何せ、こんなポワポワした感じの人格とは思っても居なかった。近いと言えば隣に座る静香の様な性格か。
「あれ〜? 何で困るの〜?」
『あー、2人とも修道女やし、会った事のある神サンが真面目かジジィやから困惑しとんやろ。然も主宰神がこんなええ加減なのとは予想外やて』
「がーんッ‼︎ 酷ーい‼︎ うわーん‼︎ 三っちゃん‼︎ 狐がお姉ちゃんを虐めるゥゥ‼︎‼︎ 。・°°・(>_<)・°°・。」
「や、止めい⁉︎ 狐花に言ったら」
「五七。タランチュラを5分で75匹、完食」
『ぐわぁぁぁぁぁ‼︎⁉︎ 拷問に等しい所業やァァァァァァァ‼︎⁉︎ つーか、扶桑にタランチュラなんて居るかァァァ⁉︎』
目の前で繰り広げられる日本神話コントを前にアイラ達は只々、困惑する他に無い。天照大御神が泣き虫で狐花に頼る有様で何方が姉か分かったモノでは無い。
『天照大御神様は引き篭もりで尚且つ泣き虫で甘えん坊な性格な方なのです。長女なのに、末っ子気質なのです。その為、主神としてはてんで駄目なお方でして……まるで駄目な大神様。略してマダオ』
其処へアイラの肩に止まった恐介が呆れ気味や口調で天照大御神様の事を紹介する。内容からとても良い内容には聴こえて来ない……。と言うか後半、罵倒である。2匹揃って酷い言種であった。
——えーと、色々と何処から突っ込んだら良いのかしら?
『その上、伊奘冉様の教育方法も的外れ過ぎて何時もの様に天岩戸に引き篭もって居た所、引っ張り出そうとした伊奘冉様により天岩戸諸共、身体を粉微塵に粉砕されまして』
「こ、粉微塵ッ⁉︎」
恐らく伊奘冉様は『冬場に布団に篭って中々出て来ない娘を引き摺り出す』感覚で破壊したのだろう。流石、神様。スケールが違い過ぎる。
『その後、御霊の状態で降臨し狐花お嬢様を依代として取り憑いたのです。所謂、神口の逆バージョンですね。お嬢様が眠ると天照大御神様の性格が表に出ていました』
肉体が滅んでも存在出来る。格も違い過ぎる。
『して、天照大御神様』
「んー? ああ、言いたい事は分かるよー。三っちゃんの身体で回復したから、こうして再構築出来たんだよ〜。でも、まだ霊体だから完全な復活には程遠いかな〜」
天照大御神様は恐介の言葉を完全に先回りして聞かんとする内容を完璧に言い当てた。確かに良く良く見れば天照大御神様の長い髪や纏う衣の裾は薄く透けている様に見える。
「あはは。其方のアーちゃんは触れるか気になる見たいだけど、残念だけど三っちゃん以外は触られないの〜」
「え、え⁉︎ どうして私の名前を知っているんですか⁉︎」
「私は天照大御神だよ?」
アーシアが驚くが天照大御神様は片目を瞑り試す様な言動でそう告げた。
「んにー。天照坐皇大御神様」
天照大御神様の膝に座る狐花が頭の上に爆乳を乗せた天照大御神様に尋ねる。
「ん〜? 言いたい事は分かるよ〜。それはね〜」
「狐花ちゃん‼︎ 本当に貴方と言う人は‼︎ 突然、元人間の死者が爆増して経緯を浄玻璃の鏡で見たら……‼︎ 案の定、貴方ですかッ⁉︎」
「ち」
——舌打ちが聞こえた⁉︎
天照大御神様が言葉を繋げようとした時、居間の襖を開け放ち夜摩天様が怒り心頭と言った風体でこの場に現れた。その様子に天照大御神様は舌打ちした。
「……誰でも彼でも鏖殺すれば良いモノでは無いと何度も言っているじゃないですか⁉︎ って、貴方は……‼︎」
「やほー、ヤーちゃん」
「……天照……。何処に雲隠れしたと思えばこの様な所に居たとは、では無くて⁉︎」
「末葉、歎き生命を毀つ。末葉、有涯せす千歳を斷つ。陽を持ちて流浪す穢れ御霊に妣國へと。(*1)
三っちゃんは、するべき事をしただけ」
「しかし……‼︎」
殺す事が救いとは限らない。そう言いたかった。死ぬ時は死ぬ、『運命』は変えるべきでは無い。
「穢れ慨れし生命を憂し生命を毀つ。生の千歳なりや? 有涯ありや。其は不祥よ。(*2)」
「ですがッ‼︎」
「三っちゃんはまだ、使い熟せない。使い方が上手いだけで使い熟せてない。あの時は御霊が平静だったから上手く行っただけ。次は上手く行かない」
「……ッ」
狐花を挟んでの神と仏の会話。人間であるアイラ達には全く分からないやり取り。天照大御神様の先程までの様子とは打って変わり厳かで真面目な雰囲気が感じられる。何方が本来か分からない程の切り替えの早さは狐花の普段時と悪魔と対峙した時の切り替えの早さを彷彿させる。
「……ヤーちゃんが白黒ハッキリ裁き救いたいのは分かるよ? でも、性急、直球、焦り過ぎ。三っちゃんはまだ幼いんだよ?」
「……」
「……皆、グダグダだもん。そんなんだから、拗れに拗れちゃうんだもん。タダでさえ荒御魂寄りなのに刺激したら余計に悪化させるだけじゃないの。そんなんだから、子育てヘタクソって言われるんだよ」
「「「ッ‼︎」」」
『うわぁ……マダオから言われると痛烈やな』
『駄目な方から言われると、心に来ますね……』
「……天照。貴方は何をするつもりなんですか?」
「んーとね〜。三っちゃんを『斎王』にするの」