「……あ、あの‼︎ 狐花さん、誰か来たみたいですよ⁉︎」
「んに? 誰かって、誰?」
「あれ? 何か頼んで居たっけ? この前、狐花ちゃんの身体を借りてAm◯zo◯で注文したゲームのメアリスケルターが届く配達日はまだだった筈だけど……」
「貴方ねぇ……完全に顕界でエンジョイして居ますね……‼︎ と言うかゲーマーと言う噂は本当でしたか⁉︎」
「「「…………」」」
「えーと、どうする?」
特に心当たりは無い。それにこんな夜中に訪ねてくる人間など、何かあると考えた方が賢明である。
「んに。この屋敷にインターホンとかは無い。正門の様子を映すカメラも無い」
正門にも裏門にもインターホンと呼ばれる機能は無い。其れ以前の問題として招く客など限られている。特に人間を招く機会など無いに等しく、来たのならば配達業者位である(注文するのは天照大御神様くらい)。其れ以外の者は皆無だ。
「……正直な所、こんな夜更けに来ると言うのは後めたい内容と思えますね。或いは押し売りの類かも知れませんね」
「……ヤーちゃん、今時押し売りと言う表現は無いよ〜。敢えて言うならセールスマンかな。まぁ、夜中に来るのはちょっと頂けないかな〜?」
天照大御神様と夜摩天様も夜中に訪ね人と言うのは些か無粋なモノだと感じていた様である。
「ぶぶ漬けでも仕掛ければ? 夜摩天様の」
『ぶぶ漬け』とは京言葉の中で有名なモノで『帰れ』と言う意訳が含まれている。因みにぶぶ漬けとは茶漬けの事でもある。
『いや、狐花……夜摩天様のぶぶ漬けやと、確実に駒王町が壊滅すんで? 何が産まれるか分かったモンやない』
「ひ、酷くないですか⁉︎ た、確かに私の料理は酷いモノだと自覚はしていますけど、壊滅的被害など決して」
『夜摩天様……以前、等活地獄で夜摩天様の懐石料理が大角を振り回して大暴れしている光景を拝見致しましたが……?』
「側から見たら料理が暴れているって表現は中々、理解し難いわね」
何処の世界に料理が自我を持って暴れ出すのだろうか?
『兎も角、招かれざる客の姿を確認して参ります。それからでも遅くはありません』
「扉でもぶつけた方が早いと思うけど……?」
「と、扉……?」
「学校で教師が扉をひっぺ剥がして天井に投げ付けて突き刺したから」
「あ、そ、それで床から扉が突き出したのですね……」
如何やら扉が突き刺さった教室はアーシアのクラスでもあった様だ。突然、床から扉が生えてくる光景は仰天モノだろう。
「狐花ちゃん。誰でも彼でも即座に殺せば良いと言う訳ではありませんよ? 裏幕府に一時期居た弊害でしょうね……付喪神と雖も戦時中の感性……玉砕精神が培われてしまった」
「何故? 敵が消えれば自ずと問題は無くなる。援軍も増援も全て潰す。殲滅こそ、安全な理論」
「狐花ちゃんに足りないのは」
「感情だよ。つまり心」
夜摩天様が言う前に天照大御神様が割り込む形で答えを告げた。
「……目的が無ければ前に進めない。理屈が無ければ筋道が立たない。そして感情が無ければ、壊れるだけ。三っちゃんが『付喪神』だから、分からないかも知れないけれど……」
「……?」
「理屈だけじゃ理解されないって事よ。人間ってのは理屈ばかり並べても理解されないのよ。だって人間は明確に感情を表現する生き物だから」
狐花にも感情はある。が、それは興奮した時に発現するのが殆どであり普段は無表情である事が多い。
目的の為に行動する、其処は理解出来るがその為に悪魔や人間を須く殲滅する。その過程で全くの無関係な筈の人間まで憎み滅ぼそうとする。コレは理解されない。アイラ達も理解しないししたくない。夜摩天様も『やり過ぎ』と言い、五七や恐介も必死に止める。
「考えてみれば狐花ちゃん、合理主義なのね。ちょっと度が超えているけど……或いはスキゾイドね……」
合理主義。アイラは狐花の根源の性格をそう判断して締め括った。そう考えると狐花の行動には頷ける点が多々あった。
町諸共、潰す(纏めて潰せば時間が省ける)
鍋料理を好む(余計な手間が無い)
先手で必殺(即座に葬れば無駄がない)
初志貫徹(途方が無い目標でもやると言う固い意志がある)
拠点諸共、爆破(繁殖地を破壊すれば絶対数が減る)
悪魔を食べる(抹殺と食事を纏めて行うので無駄が省ける)
味方が居ないと考える(全員敵なので殲滅すれば問題無い)
物が少ない(銃火器の類しか無く、家財にも家にも興味が無い)
他にもあるだろうが少なくとも狐花は無駄な労力を無視って結果を出す事を好んでいる様にも見える。
「……オーちゃんも皆も下手だった。三っちゃんの性格を理解し切れなかった。だから、目的だけが先行しちゃってそれ以外の事に殆ど関心が向かなくなっちゃってるの。それ以外、必要無いからってね」
「「「…………」」」
天照大御神様が狐花が幼いながらも異常な性格である理由を明かした。狐花の行動を理解した日本神話の八百万の神々は後押しする教育をした、が、養育が下手くそであった為に人間で見れば実力主義の環境だった。悪い意味で作用し、悪魔を絶対屠ると言う思考回路で埋まってしまった。
何かが触れれば少しは反応があるだけまだマシ。
『お嬢、皆様方、確認……何ですか?この変な空気は……?』
その時、確認の為に出払って居た恐介が戻ってくるも居間の中の何とも言えない状態を見て首を傾げている。
「狐花ちゃんの人格矯正の問題で皆さん、凹んでしまって……」
『ああ、狐花お嬢様が堅物レベルの合理主義に手を焼いていた、と。仕方ありません、狐花お嬢様には悪魔と人間を屠る事でしか喜べないのですから』
「そう簡単に切り捨てて良い事じゃないと思うのだけど」
『これ以上、その話は虚しいだけです。して、確認して参りました所……』
合理主義者による世界構築はきっと生存性が確立された世界であろう。