雷ガ咲く花園デ   作:夢現図書館

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エリザベス・ペンドラゴン

 

 

『ああ、狐花お嬢様が堅物レベルの合理主義に手を焼いていた、と。仕方ありません、狐花お嬢様には悪魔と人間を屠る事でしか喜べないのですから』

 

「そう簡単に切り捨てて良い事じゃないと思うのだけど」

 

『これ以上、その話は虚しいだけです。して、確認して参りました所。確認出来たのは10代の少女と初老の男性の2人組でした。身形からして……所謂、貴族の令嬢とその執事と見受けられます』

 

——ナニソレ?

 

 如何にもな組み合わせを聞いて狐花は首を傾げた。貴族と言うのもアレなのだが、こんな夜間かつ辺鄙な町で此処に来るのも違和感しか感じ取れない。

 

『……狐花にそないな知り合いおったか?』

 

「居ない」

 

 五七は狐花の知人にそんな面子は居たかと尋ねるが、知らないと答える。その時、風を切る音と共に大机に一本のナイフが突き刺さった。居間の庭園側の襖は開け放たれており其処から飛来して来た様である。そのナイフには1通の紙が結び付けられていた。矢文ならぬ刃文であった。

 

「……」

 

『今時、矢文とか……随分と粋な真似すんなぁ』

 

 狐花はそのナイフに付けられた手紙を開いて読んでみる。

 

 皓咲 雷花(・・)殿。貴殿との面会を求めます。女王陛下に誓い危害は一切加えません。

 

エリザベス・ペンドラゴン

 

——……コイツ……⁉︎

 

『呼び出し鈴が無い上に何故、お嬢様の本名を……?』

 

「……何処で知った?」

 

——……。

 

 狐花の警戒心が跳ね上がった。本名を知っている。その名前を知っているのは1人と2匹である。後者は予想外の理由でバレた。

 

「……問い正す。無視は出来ない」

 

 狐花は静かにそして目を細めてそう告げる。つまる所、面会に応じると言う事であった。其処に居たのは幼女の狐花では無かった。

 

「私達は邪魔になりますね」

 

「うん。神々はお邪魔だよね。じゃあ、宜しくね」

 

 夜摩天様は皓咲屋敷から姿を消し、天照大御神様は狐花の中に戻って行く。

 

『屋敷の大広間に誘導させましょう。宜しいですね?』

 

「ん。アイラ、案内して来て。静香達は奥で控えてて、不穏な動きを見せたら連中の頭蓋を砕いて」

 

「え、ええ。分かったわ」

 

「……気乗りはしませんね……」

 

「は、はい……」

 

——……その挑発。乗ってやる。

 

 狐花の髪の毛の先が揺れ陽炎が刺す。相手がどんな手で来ようと構わない。手管、手練を用いて燼滅させる。コレまでも、コレからも、変わらない。

 尚、悪魔相手では無いので静香とアーシアは『もしもの時』は乗り気では無かった。その時は自分で殺るから一応、問題は無いと判断した。

 

 

 

 皓咲屋敷の大広間。伊弉諾尊様が作った屋敷ではあるのだが狐花は大半の部屋を寝る以外の用途が思い付かなかった為に殆どが放置。この大広間もその一つであり、過去にギリシャ神話のハデスを迎えての日本神話との対談が行われたきり放置されていた。

 

「……」

 

 その大広間の奥の上座中央、其処に狐花は座っていた。一応、客人(招いた覚えは無い)との面会。普段着の白衣と緋袴姿で瞑目している。その隣には五七が控えていた。宛ら、謁見の間の様であった。

 

『お嬢、アイラお嬢さんが客人をお連れしました』

 

 恐介が狐花の前に現れて招かれざる客が来た事を告げる。恐介が再び飛び立ち狐花の座左に降り立つ。その直後に狐花から見て最も遠い場所、即ち入口の襖が開かれて洋服を身に纏った二人組の人間が狐花の視界に現れる。

 

 1人は10代でアイラ達と同年代に見える少女。青と黒を基調としたドレスを身に包んでいる。もう1人は初老かつ筋肉質の男性。見るからに腕っ節の強い執事の印象を受ける。

 

「お初目に掛かりますわ。私はエリザベス・ペンドラゴンと申します。本日は夜中に尋ねる形となって申し訳ありません。ライアン」

 

「はい。お嬢様」

 

 少女はそう名乗り、執事に指示を出した。ライアンと呼ばれた男性は一歩前に出て手に持って居たトランクケースを開けて中身を見せた。

 

「夜分及びアポイントメント無しの訪問。誠に申し訳ございません。して、手土産として此方をお納め下さい」

 

「ッ‼︎」

 

『うわ、マジか。完全に狐花の好みを理解してらぁ……‼︎』

 

 ライアンが開けて狐花に見せたモノ。それはグレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国で最も有名なお菓子である『スコーン』であった。狐花は調味料の類は余り好まず素の状態で食べる事が多い(敢えて言うなら塩味は及第点)。そして、お菓子は好きだが甘いのは嫌いと言う面倒臭い嗜好をしていた。その点で言えばスコーンは最適解と言える。然も王室御用達の高級品と言うオマケ付きだった。

 

「……お気に召して何よりですわ。お話を聞いて頂けますか?」

 

 エリザベスは狐花の反応を見て踏み込んだ。初対面相手に手土産を持って来るのはマナーの1つ。然も、好みを理解してその物を持って来る。

 

「…………分かった、話は聞く」

 

——……何処まで知っている?

 

 狐花は警戒心を抱きながら目の前に現れた少女、エリザベス・ペンドラゴンの瞳を見た。相手が何者なのかは全く知らない。しかし、相手は自分の事を知っている。油断は、出来ない。

 

「感謝致しますわ。少々、込み入った話になりますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初にあった私が言うのもアレだけど、空気は重いわね」

 

「ハラハラします……‼︎」

 

 大広間の奥の襖の向こう側でアイラとアーシアは隙間から様子を見ていた。狐花にお土産を見せて話を聞く姿勢を引き出した客人達。しかし、まだまだ油断出来ない状態が続いている。何せ、初めから狐花は相手を警戒しているからである。

 

「……彼女もそうだけど控えている執事も明らかに普通の執事じゃ無さそうね。姿勢が違う」

 

「分かるのですか?」

 

「んまぁ、経験、かな。素人じゃ無くて軍人に近いね……あの執事の人」

 

 相手が何者かまだ分からない。衝突する事になれば戦う事になる羽目になる。悪魔ならば兎も角、人間同士の争いは心境としては避けたい。

 そりゃあ、昔から人間同士で戦争なぞして来たから殺し合う可能性は無い訳では無いが、狐花の場合、誰でも彼でも喧嘩を売りそうな性格が問題なのだ。悪魔も人間も燼滅させる……彼女にとって目に映るモノ、全てが敵だと根本精神が固まってしまっている。今は辛うじて静止しているが止めるモノが消えれば死ぬまで殺し回る事になるだろう、それは悲痛な光景だ。

 

「頼むから穏便に事が過ぎて……本当にこの町が壊滅しちゃうかも知れないから……」

 

 アイラの微かな願い。それは狐花の反応と客人達の面会理由によって決まるだろう。

 

 

 





 エリザベス・ペンドラゴン カウンターサイド

 ライアン・フェリエー カウンターサイド
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