「…………分かった、話は聞く」
——……何処まで知っている?
狐花は警戒心を抱きながら目の前に現れた少女、エリザベス・ペンドラゴンの瞳を見た。相手が何者なのかは全く知らない。しかし、相手は自分の事を知っている。油断は、出来ない。
「感謝致しますわ。少々、込み入った話になりますわ」
エリザベス・ペンドラゴンが狐花に話した内容。それはグレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国にとってレガリアでありアーティファクトである『エクスカリバー』がこの町に持ち込まれたと言う。
「……本来エクスカリバーはペンドラゴン家が本来の持主に返還した遺物。しかしながら、正教会……いいえ、まどろっこしい言い方は止めましょう。貴方ならば『天使陣営』と言えば良いでしょう、その者達が窃盗し破壊した挙句、改造を施しました。その上、『堕天使陣営』に強奪される始末。しかしながら好機と見做し我々はこの件に乗じて奪還する為にこの地に参りましたわ」
——『エクスカリバー』……ペンドラゴン。子孫が先祖由来の遺物を奪還する為に動いている。それに木偶人形の事も知っている、裏か。
故人の為に動く思想。それは狐花にも通ずるモノはあった。
「……何故、私の所に来た?」
「貴方は大変気難しい方だと
『何や、狐花も偉い有名になったモンやな』
如何やら狐花の暴走ぶり(悪名とも言う)は海を大陸を越えてグレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国の女王陛下の御耳にも行き届いてしまっている様である。それに狐花の癇癪も知られている様だ。
「……良く知ってる。MI6?」
「それは別の機関ですわ。ですが、諜報は私達にも得意分野ですの」
——成程、裏の諜報機関。事、ゴミ虫共と言った手合い相手。見る限り人間に見えるけど、異能を持った人間と言った所か。また、面倒臭い連中が現れたモノだね。
「で、エクスカリバーとやらの奪還に協力しろ、と?」
「流石に其処までは言いませんわ。ただ、調べた結果。堕天使陣営のエクスカリバー強奪犯は聖書に記され有数の存在であり左翼派、武闘派と言われるコカビエルと判明、どうやら彼はこの町である実験を行うつもりの様です」
——実験? 悪魔諸共潰れてくれるて手間が省けるから楽で良いけど。堕天使の巣窟は研究所染みて居たな。その延長か。
「……実験、ね」
「エクスカリバーは天使陣営の不手際で破壊。其処まではまだ許せますが、下法により量産されました。その数7本。この町でエクスカリバーの統合を行い本来のエクスカリバーへと再生を測るつもりです」
「統合……ッ‼︎ 」
——龍脈の龍穴‼︎ 丁度、この駒王町には龍穴がある。その力を利用する算段か‼︎
「……何か心当たりがお有りの様ですわね」
「この町には龍穴がある。それも強力なモノ……多少の不備があっても目論見は達成される可能性が高まる。成程、態々、冥界に戻らずにこの町に来るのも自明の理」
「パワースポット、と呼ばれる地でもありましたか。それは初耳ですわね。となれば、この地にコカビエル一派が来た理由が分かりましたわ」
「で、何でエクスカリバーを盗んだ? そのコカインビエルは単なる蒐集癖?」
「いいえ、そんな酔狂な理由ではありませんわ。目的は天使陣営と悪魔陣営、そして堕天使陣営の三つ巴の戦争を勃発させる。エクスカリバーを盗んだのも天使陣営が奪還の為に兵を差し向けさせ為。この地を選んだのもこの地には悪魔陣営の中でも有権者の身内が居ますので危害を加えれば自ずと動く可能性が高い。他にも貴方方、日本神話の存在も居られます。悪魔のみならず日本神話にも喧嘩を売る絶好の機会として双方纏めて戦争を吹っかけるつもりなのでしょう」
都合が良い。その一言に尽きた。駒王町には悪魔に加えて狐花達も居る。戦争を起こしたい戦闘狂ならばお誂え向きの要素が一通りそろっている。エクスカリバーを盗んだのも『起点』に過ぎない。
エリザベス達はその最中、奪還を試みるつもりなのだと言う。中々の無茶な真似と言えるが彼女達にも策はあるのだろう。不確定要素と言えば目の前の狐花。何を仕出かすか分からない、いや、分かるが敵味方関係なく葬りに来る、予測可能回避不可能と言う攻撃は厄介過ぎた。
「……ゴミ虫と木偶人形が勝手に潰し合って共倒れになってくれるならば放置で良かったのだけど」
——勝手に死に絶えてくれるのならば余計な手間が減る。別の理由でくたばってくれても構わない。
「……貴方は別に構わないと?」
「んに。ゴミ虫共が勝手に潰し合うなら手間が省ける。エクスカリバーの件は好きにすれば良いしエクスカリバーに興味無い。だが、此方も此方でその争いに興味がある。お互い邪魔しなければ問題無い」
——騒動に紛れてゴミ虫共を駆除するのも一興。1発の銃弾で戦況はあっという間に覆る事もある。それに八百万はこんなつまらない事に首を突っ込む理由は無いだろうし、勝手にやらせて貰う。
「……成程。貴方にも目的があるのは承知ですわ。ならば私達も貴方の行動を妨害しない様に立ち回るだけです」
「んに」
双方の意見は衝突する事無く、面談は終わりを迎えた。お互い並行して今回の『エクスカリバー争奪戦』に介入する。お互いの行動がお互いにどの様な影響を及ぼすか分からないが少なくとも敵対する必要は無さそうであった。
「……少しヒヤヒヤしましたわ。何時、狐花ちゃんが怒り出すか心配でした」
エリザベス達が退室し皓咲屋敷から立ち去った後、大広間の奥から静香達が入ってくる。有事の際は此処が血の海に変わる所であったが故に。
「む、心外」
『いや、普段の行動から理解せぇや。しっかし、面白面倒な事になって来たなぁ。コカビエルやと? 堕天使の輩やろうな』
「……天使、とも聞こえましたが」
「天使陣営。つまり教会の連中も関与している模様。耶蘇教の事だろうね。まぁ、唯一神を崇めて自分が絶対だと信じて疑わない強硬集団にしか見えないけどね」
「「……」」
尼僧である2人は顔を見合わせた。つまり今回の件には三大勢力、全てが関与する事態となった。
「静香とアーシアは無理に動かなくて良い。2人ともキリスト教でしょ?」
場合によっては天使陣営も屠りに掛かる可能性が高い。静香とアーシアは尼僧、思わない訳では無いだろうと判断した。
「……いえ、私達も戦いますわ。コレも神の齎した試練です。後、勘違いしていらっしゃる様ですが……修道女と聖職者は厳密には違いますよ?」
「……そなの?」
「はい。神は私の中に居ます。私の信じる神を信じています。孤児院も悪魔に焼かれ私は狐花ちゃんと出会わなければ穢れし悪魔として死んだ事でしょう。そうでなくても、私は異端だと見る事でしょう」
「…………」
「アーシアちゃんにも事情があります」
「……好きにしたら良いよ。結局は自分が悩み答えを見つけるモノだから。自分の信ずる道を歩んで行けば良い」
——組織である以上、必ず異なる思想が芽生える。誰も彼もが同じ認識とは限らない、いいや必ず異なる行動を齎す者が現れる。
「……狐花ちゃん、こんな時間に何処に行くの?」
「買物。準備が必要になってくるだろうから、用意はしておく。今度と言う今度こそゴミ虫共を抹殺してやる……‼︎」
——ゴミ虫も木偶人形諸共、消してやる。数ヶ月も生きたからそろそろ死んでも未練は無いだろ。
「え、えーと、出来れば町が壊れない程度にしてよね……?」
「それは保証出来ない。そのコカインビエルがどんな耐久力をしているか分からないから、準備は万全にするのが理想」
コカビエルが暴れるよりも狐花が暴れた時の方の被害が大きいのでは?とアイラが密かに不安を覚えるも、そんな不安を他所に狐花は争奪戦に託けて悪魔『グレモリー』達を葬るべく例の世捨て人の商人が店を構える廃墟地区へと向かうのであった。