雷ガ咲く花園デ   作:夢現図書館

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鬱金、香りて子も絶える

 

 

 

 

 夜中遅くに屋敷を出た狐花。向かう先は廃墟と化した地区。浮浪者や表の人間社会から脱落した破落戸が屯する地域。夜にもなれば徘徊する者も増えてくる。

 

『相変わらず、薄気味悪い所やで。でも態々、夜に来る必要あるんかいな?』

 

 五七もくっ付いて来ている。放っておくと言う理由は彼には無いからである。

 

「昼間は仕入れ時期だから、開店して居ない。必然的に深夜にしか店やってない」

 

 裏社会のブツのルート故に表では出回らない代物を多く取り扱っている。日本じゃ売るに売れない代物ばかり……故に仕入れ先も秘匿されている為に昼間は閉店しているのである。

 

『……さよか』

 

 廃墟地区の外れの外れ。照明が点灯していない廃墟と化した大型スーパー。窓は割れ放題、買い物カートも倒れていたり壊れて居たりと散乱している。自動ドアも壊れて開きっぱなしと言う状態は相変わらず言えた。

 

「…………!」

 

『どないした?』

 

居る(・・)

 

——此処に出入りして居たか。ついでだ、葬る。

 

 狐花は気配を感じ取り臨戦する態勢で廃スーパーの店内へと入っていく。荒れ果てた陳列棚、物言わぬレジ。そして奥にボンヤリと光っている照明。陳列棚の影に隠れ足音を殺しながら奥へと進む。馬鹿正直に正面から戦ってやる道理は無い、殺す事が出来れば文句は無いから。

 

 

「えーと、他は」

 

 例の商人が店を構えている惣菜売り場には先客が居た。体躯は小学生程の身長であり、狐花と然程変わらない。拙い照明で分かりにくいが赤い髪をツインテールに纏め黒い衣を身に纏っている。

 

「ッ。誰⁉︎」

 

——チッ、相変わらず勘が良い悪魔だ。

 

 惣菜売り場に倒壊し放置された陳列棚の裏に隠れて居たが、どうやら先客に気付かれたらしく振り向いて周囲を見渡している。翡翠の双眸が一際、目につく。

 惣菜売り場に照明があるとは言え、照らされる範囲はその惣菜売り場だけでそれ以外は暗く視界が悪いが相手が悪魔である以上、夜目が効く為に然程障害にはなり得ない。

 

「この殺気。まさか……ああもう最悪、こんな所で出会す羽目になるなんて……‼︎ まだ買物も終わって居ないってのに‼︎」

 

——悪魔に買物なんて概念、必要無い‼︎

 

 狐花はレッグホルスターからFNを素早く弾き打つ。放たれた弾丸は赤髪ツインテールの悪魔の脳漿を——。

 

「ッ‼︎」

 

 穿ち砕く前に反射的な速度で弾丸は弾かれ弾頭が潰れた銃弾が天井近くに弾き飛ばされ床に落ちた。

 

毀れ逝くは地界の涙。穿ち、舞い、綻べ。亀裂は疼き、万物を呑む深淵の縁を刮目せしは破光の湧水。砕かれし天蓋よ、淵へと至れ‼︎

 

 弾かれる音と共に響くは詠唱。然も狐花よりも速い詠唱。危険を察知した狐花は遮蔽物として使用していた陳列棚から離脱した刹那、円錐形の岩石が次々と飛来し穿ち破壊し砂塵を舞わし岩石が周辺に次々と隆起し廃スーパー内の地形を一変させた。

 

『おいおい、こんな所で殺り合う必要は無いやろ⁉︎』

 

——チッ、気付かれた挙句あの一撃を逃した時点で失敗だった。

 

骨喰む凍空、震え祈るは竟眠の歌唱。静けさが風を凪いで逝く。皓が世界を覆う、絶望が世界を塗り手繰る。死が汝を掴み悪夢へと誘う。竟の章を此処に示す‼︎

 

 更に続けて別の詠唱。初夏の時期頃、其処に顕現したのは凍て刺す様な冷気かつ霜の霧。その容量は真っ白な濃霧と呼べる程の規模であった。

 

『うわぁ、対策されとんな。場所が屋内やから殊更、効果的やな』

 

 此処で熱量を伴う霊術を使えば熱膨張の末に大爆発を招く恐れがある。狐花本人だけなら本人は問題ないと宣うが場所が悪過ぎる。此処には闇の商売をする場所。当然、非合法の品で一杯であり火薬類もある。引火してしまえばこの地一帯は吹き飛びかねない。そうなれば物品の購入も出来なくなるので後々の事を考えると大きな痛手となる。

 その事を踏まえているかは不明ではあるがその点を差し引いても自分に対する対策と言えるやり方であった。更に濃霧を敷いて迂闊に狙撃させないと言う意味合いでも狐花の殺し方によるアンチテーゼとも呼べた。

 

——賢しい真似。本当にムカつくやり方だ。

 

 視界は真っ白。その癖、先程の岩石の群により地形が変化している為、以前の地形の狙撃は無謀。下手に跳弾して在らぬ方向に飛来する可能性がある。

 

「……逃亡された。岩石の射出と発生させたこの霜と霧は目眩し。あの悪魔も此処で戦うのは避けたか」

 

 戦うと見せ掛けて逃亡したらしい。有利な環境を構築して戦うと見せ掛けて逃げた。狐花が一瞬でも考慮する隙を縫って離脱する事に専念したようである。

 

『……よっぽど避けられてんなぁ。因みに勝算は?』

 

「無いなら退く」

 

『やな』

 

——やはり最初に脳漿を粉砕出来て居れば良かった。ゴミ虫の分際で、逃げ足が速い……。

 

 霜や霧の持続時間は然程長くは無く徐々に霧散して行き隆起した岩石もボロボロになって崩れ去り残されたのは穴だらけになった廃スーパーの陳列スペースであった。

 

「イッヒッヒ。騒がしくなったと思えば……暴れるのならば他所でやって頂きたいモノですね」

 

 其処へ例の上半身裸の怪しさ100%の商人が惣菜売り場の奥から現れた。確かに商売人からしたらあの手合いの暴れ客は勘弁願いたいモノであった。

 

「反射みたいなモノ。謝る気は無い」

 

「イッヒッヒ……相変わらずですねぇ。自分が正義だと?」

 

「思った事は1度も無い。あの人の願いを叶えるだけ、それ以外の理由は無い。正義も悪も現実には必要の無い概念。人間は叡智を得た事により分けただけだ」

 

「悲しい生き方ですねぇ。文明人よりも終末世界の方が似合って居ますよ? 貴方の生き方は」

 

「好きに言えば良い」

 

——目的が達成されれば、私は顕界にも高天ヶ原でも存在其の物が必要なくなる。役目を終えたモノは疾く消えるのみ。残りの余生など、必要無い。

 

「長生きする理由も無い。目的さえ果たせるなら大悪党でも構いはしない」

 

——祟り神とか陰で言っているんだ。なら、その通りに祟ってやる。それに死にたいんだろ? 苦痛、絶望、不安。死は救いだ。全員纏めて殺せば目的達成に近付く……無理にでも生かす必要は、無い。悪魔は癌に等しい、転生悪魔も転移し繁殖した癌だ。癌は切除するのが最適解。

 

「……現代の方々とは相容れませんねぇ。貴方の命、貴方の思うがままに生きるのが常の如く。他者が他人の人生に口出しするのは野暮と言うモノ。それでは、ご用件は何ですか?」

 

タンクローリー(・・・・・・・)5台、 L118が25台。L16 81mm 迫撃砲が25台。ダムダム弾150発」

 

「……お客さん。戦争でも始めるつもりですかい?」

 

 明らかに買物と言う概念の範疇を遥かに超過している。そのラインナップを聞いて商人も素面でそう聞き返した。量もそうだが内容は既に殲滅する気全開であった。

 

「ん、そう」

 

「……お買い上げ金額につきましては少々値がはりますよ?」

 

「構わない。金なんて死ねば無用の長物」

 

「……お買い上げ有り難う御座います。物品自体が嵩張りますので指定された場所にお届けする形になりますが宜しいですね?」

 

「ん、出来れば翌日中に済ませてくれると助かる」

 

「分かりました。ではでは、他にもご要望が有ればご贔屓に〜」

 

——……残ったら別の悪魔を滅ぼすのに使う。無駄が無い先行投資……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう‼︎ 一瞬、心臓が止まるかと思ったわ。何でこんなタイミングでアイツが現れるのよ⁉︎」

 

『恐らく彼女も勘付いて準備を始めたからだろうね』

 

 某所。狐花と戦うと見せ掛けて逃亡した赤髪ツインテールの悪魔の少女は物陰に隠れて連絡を取っていた。例の商人との買物途中で中断して逃げる事態となった。

 

「遅かれ早かれ発覚するのは分かって居たけど、タイミング悪過ぎよ……‼︎」

 

『ペンドラゴン家が1時間前に彼女と接触した見たいなんだ』

 

「それで知った、と言う訳ね。はぁ、上手く行かないわね、何事も。事前に認識されるとコッチも動き辛いっての」

 

『堕天使に関しては無視される可能性が高い。問題はグレモリー達がどれだけ彼女達の注意を引きつけられるか、だ』

 

 狐花は悪魔嫌い。堕天使に関しては然程、興味を持っていない為に彼女の邪魔をしない限り無視される可能性が高いと見ていた。

 

「町諸共、破壊する様な真似されたら最悪よ?」

 

『其処なんだよね。何分、彼女の精神は不安定で其処が懸念事項だ。事前の仕込みはしたとは言え……何処まで効果が出ているかどうか、不安要素が多いのも事実だ』

 

「ペンドラゴンだっけ? 其方の点も考慮しなきゃ行けないんでしょ?」

 

『うん。其方はシノア達に任せる形になるかな。かと言ってグレモリーが釘付けになるとは言え彼女には絶対気付かれる……』

 

 そうなれば即死級の横槍が飛来して来るのは容易に想像出来る。

 

「確実に乱戦ね。無茶はしない形で足止めするわ。何分保つか分からないけど、私とブラン達で何とかしてみる」

 

『……他にも嫌な予感がするんだよね』

 

「アイツがいる以上の嫌な予感ってあるの?」

 

『うん。表現は難しいけれど、凄く嫌な予感がする。何かは分からないけれど……』

 

「分からない事にビクビク怯えても始まらないわ。そのコカビエルってのが動かないと何も始まらないでしょ?」

 

 赤髪ツインテールの悪魔の少女は通話を切り拠点として居る場所へと闇に紛れながら帰還するのであった。

 

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