雷ガ咲く花園デ   作:夢現図書館

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悪魔の終わりは悪夢の始まりに過ぎない

 駒王町で裏の住人達に広まるコカビエルとエクスカリバーの件で事態が蠢き始めているその頃、冥界では未だに狐花が引き起こした『劫魃』による傷跡が生々しく尾を引いていた。

 

 全てを融解させる『太陽』が消え去ったとは言え、その後の光景は筆舌に尽くし難い惨状が広がっている。魔物は死に絶え、植物は燃え尽き、大地は痩せ細り、湖は枯れ果てた。荒涼とした大地に吹き荒ぶ風が砂塵を舞わし柔らかい肉を保つ者を容赦なく傷付ける。大多数の悪魔は冥府に一時的に避難して事無きを得たが逃げ遅れた者や熱波に飲み込まれた者は容赦無く犠牲になった。

 『太陽』が消え去った後に冥界に戻って来た悪魔達が見たのは変わり果てた冥界の痛々しい迄の姿であった。その後もまた、苦難が続いたのだ。

 

 地獄、悪夢、絶望、その様な単語だけが冥界を支配している。食糧も水も全く足りていない状況。建物や町自体は幾らでも再建は出来たが食糧問題は全く解決出来ていない。

 植物が無ければ他所から持って来れば良い、そう考えた一部の貴族悪魔は人間界から森や山諸共、転移させようとしたが露骨過ぎた為か現地の裏の住人に発覚して更なる外交問題を引き起こして居たり、持ってきたは良いのだが冥界の気候とその森林に適する気候に合わず簡単に枯れてしまった。

 ならば冷やす魔法と考えたが得意で現存するシトリー家やセラフォルーが行ったが生み出された水流や氷は数分と保たずに蒸発し露と消え去った。何度試しても冥界の温度を冷やす事は叶わず深刻な温暖化が続いている。

 どうしようも無い状況が続く中で魔王達や領土を有する貴族達は知恵を出し合い、現況を打破する糸口を模索していた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェニックス家、ライザー領のライザー城の一室。その部屋で城の主人であるライザー・フェニックスは精魂尽き果てたかの如く執務机に突っ伏していた。机の片隅には『ヘンゼル製薬製・滅式胃腸薬』の空き箱が15箱程、転がっていた。

 

——……どうすれば良いんだ。この状況……‼︎

 

 『劫魃』の影響は冥界全体に広がったフェニックス領も例外なく被害を受けた。しかし其処で盲点たる弱点が露見したのだ。『劫魃』は熱の脅威。熱で火を討つ事は出来ない。つまり、炎を司る生命体は全くの影響を及ぼさない事が判明した。

 フェニックス家は炎と風を司る悪魔の一族、故にフェニックス家の者は何の影響も無かった。しかし、それはフェニックスの血筋故、領民や眷属悪魔はそうは行かなかった。領土は悉くが焼き払われ食糧難に陥った。如何にフェニックスの涙の生産で資本が潤沢であろうとコレだけで乗り切れる程甘い現況では無かった。

 

「ライザーお兄様。お疲れですわね……」

 

「レイヴェルか。ああ、只でさえ魔王様の依頼の件で頭が痛いと言うのに領土や領民達の深刻な状況故にどうしたモノかと思ってな……」

 

——食糧不足に加えて水不足。特に水不足が深刻だった。急激な環境変化により大地は熱せられ融解しドロドロになった溶岩と化して活火山になった地域もある。その為、俺達フェニックス家は何とも無いが領民達は違う。水が不足しているが故に水を求めてお互いの血を啜り合うと言う吸血鬼さながらの光景が散見される様になった……。フェニックス領以外の他の地域でも同様の光景が広がっていると聞く……。

 

 魔王(無能)からの『日本神話との和平交渉の段取り』や『離反組の子孫悪魔の交渉』と言う無理難題に割り込む形での熱波による領土、領民達への復興支援。正直な所、何方も片手間に出来る様な案件では無く、思わず投げ出したい位にくたばって居たのである。

 

「お兄様の眷属達も頑張っては居ますけれど、遺憾ながらどうする事も出来ないのが現状ですわ。何せ、私達は炎と風を司りますが水を生み出す事は叶いません。強いてあげればフェニックスの涙、なのですが……」

 

「ああ、確かにフェニックスの涙は傷付いた者を癒すが……人数が余りにも多過ぎるんだ」

 

 水不足以外にも深刻な事態は他にもある。それは医療崩壊である。熱波の影響で黒焦げ状態となって尚も辛うじて生存している者達も多く、尚且つ大幅な環境変貌による被害が相次ぎ首都リリスの医療機関であるセラフォルー記念病院に担ぎ込まれる悪魔が日に日に増えている。

 熱波によるダメージは即死級や瀕死級レベルの深刻な為に『フェニックスの涙』が欲しくはなるが貴族悪魔でもそう数は揃えられない貴重品。多くても数える程が限界。かと言い需要が高まる中で供給を増やそうにもフェニックスの涙の生成は大変気を使わなければならず無闇矢鱈に生成出来るモノでは無かった。最も資本は更に潤沢にはなるが金で命は買えない……いや、他の貴族悪魔は金で命を弄んでいる気もするのだが。

 

「ライザー様‼︎ 領民達より陳情が」

 

「ライザー様。魔王様より交渉の首尾は如何程かの通達書が届いています‼︎」

 

 次々とライザーへと持ち込まれる問題事。何から手を付ければ良いか分からず一層の事、全て投げ出したくなる程の状況であった。

 

—— 一層の事、領土とか全部売っ払って冥界からトンズラしてェェェェ‼︎‼︎ 悪魔とか三大勢力とか、影響の無い長閑な場所で暮らしたくなるわァァァァァァァ‼︎‼︎ 思えば分家とか離反組の連中の気持ち、何となく分かって来た‼︎

 

「ら、ライザー様⁉︎ お気を確かに⁉︎ 確かにこんな状況、誰であっても投げ出したくなりますがお気を確かに⁉︎」

 

「……俺達も如何にかして移住しないか? 日本の片隅で良いからさ。一層の事、誰も居ない無人島でも良いし、土地代も一括払いで払うし購入してのんびり過ごさね?」

 

「ライザー様⁉︎ 無茶振りの連続で遂に頭がショートなされたのですか⁉︎」

 

——いやだって無理だよ。無理過ぎる。無理・オブ・無理‼︎ どうすりゃあ良いんだよ、植林しても美南風が言うには森林が出来るまで数十年掛かるって言うし、水魔法も効果は見られないし、割と真面目に考えて打つ手無いじゃないか⁉︎

 

 立て続けの無理難題の案件にライザーは発狂を通り越して真顔でそんな事を言い放った。もう何もかも捨てたくなるレベルの瀬戸際だった。

 

「こう言う時、自由に行動出来る分家とかアンドランス家の者達が羨ましく思える。命の危険は有ろうが家の柵とか無さそうだしなぁ……」

 

——元々、領民とか領土とか持っていないから気を配る理由も無さそうだし……なぁ。

 

「お兄様、すっかり落ち込んでしまいましたわ。流石に私でもこの状況は打つ手が見つかりませんもの……無理もありませんわ」

 

「ですがレイヴェル様。此の儘、手を拱いて居るのも状況の悪化の一途かと」

 

「ですのよねぇ」

 

 完全に頽れて口から魂が飛び出しかねないライザーを見ながら妹のレイヴェルとユーベルーナは頭を悩ませていた。有効打を打つ事が出来ないし、此の儘では悪化の一途。何とか打開策を立てなければならないのに、これと言った案が思い浮かばない。

 

「……ライザー様。失礼致しますわ」

 

「美南風か。ああ、良いぞ……」

 

 其処へ美南風がライザーの執務室に入ってくる。当のライザー本人は八方塞がりの中故に対応する態度も覇気が無い。

 

「ライザー様……大変、お疲れのご様子ですね」

 

「ああ、何処から手を付ければ良いのか全く分からん状況だ。一発逆転の手じゃなくても良いから一歩前進出来る一手が欲しい……」

 

——心底そう願う。完全に手詰まり状態だ。大半の悪魔は他所から現況を打破出来る人材とか攫って眷属化させてどうこうしようと考えるだろうが……確実に他所の神話形態から白眼視されているよな。つーか、現在進行形で。

 

「率直に申しまして『四面楚歌』ですね。悪魔陣営が好き放題誘拐して眷属化させて居ますから何処の神話からも正しく非難囂囂。援助なども望む事も出来ません」

 

 ちょっとやそっとじゃ今の冥界の惨状を如何にか出来ない。それこそ、世界変革レベルの規模で無ければ不可能だ。他の神話ならばポセイドンと言った水を司る神が存在するが、現状の悪魔陣営の振る舞いから手を差し伸べてくれる者は居ないだろう。

 

「此の儘、滅ぶしか無いのか……?」

 

「ライザー様……‼︎」

 

「お兄様、諦めるのはまだ早いですわッ‼︎」

 

 諦めムードに陥りライザーは意気消沈する。誰も助けて来れないと言う状況、自力で如何にかしろとも言うが限界がある。此の儘、黙して滅ぶ他に道は無いのかと嘆きが入る。

 

「……民達の心境も推して測るべきだろうな。この状況が続くと全体的に評判が下がるだろう」

 

 『魔王なら何とかしてくれる』『ならなかったら、どうするんだ』『水を、食糧を‼︎』『この地獄をどうにかしてくれ‼︎』

 各地でそんな悲鳴が響いて居るのが脳裏に容易に想像出来た。それはこの惨劇を引き起こした狐花の『見て来た光景』と全く同じ状況だった……。

 

 

 

 

 




 やられたらやり返す、合理的な判断。相手を絶滅させれば連鎖復讐の様なイタチごっこにはなりません。
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