雷ガ咲く花園デ   作:夢現図書館

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命を蝕む

 

 

 

 物見の悪魔達を悉く殲ぼした黒く変貌を遂げたレーキュ。その直後に眼前に青白い光の刀身を持つ長剣が地面に突き刺さった。

 

「……3秒、付き合え、『青鳴の魔剣』」

 

——3秒?たった、3秒で解決する気なのか⁉︎

 

 レーキュの黒く変色した髪の一部が意志を持つかの様に揺らめき蒼い魔剣の柄を掴んだ。その直後、レーキュは身を翻し後方に振り向き一閃。空間が布の如く斬り裂かれ裂け目が現れる。

 

「空間を、斬り裂いた⁉︎」

 

 そして魔剣を掴んだ髪が裂け目の中に突っ込まれ更にもう一度、自身の身体を弾き飛ばす勢いで一閃。裂け目から一瞬、爆発的な光が爆ぜた様に見えた。

 

「終わ、り……」

 

「え……?」

 

 何をしたのか分からなかった。見やれば空間の裂け目は既に閉じられており、レーキュは『終わった』と告げる。変色して居た髪の色も双眸も、腕に現れた鎖も元の姿に戻って居た。

 

——何をした? いや、本当に、何をしたんだ⁉︎

 

 サーゼクスは理解の範疇を超えた光景に言葉が出てこない。分かるのは、レーキュが何かをしたと言う事。そして、広間に横たわる悪魔の残骸を作りだした事。

 

「サーゼクス様‼︎ 此処に居られましたか‼︎」

 

「グレイフィア⁉︎ そんなに慌てて何が起きたんだ⁉︎」

 

「……それが、気温が徐々に下がり冥界の基本温度に戻りつつあるとの報告が各地から寄せられています。流石に枯れた湖が戻る訳ではありませんが異常気温の問題は解決に至るかと……‼︎」

 

「‼︎」

 

 それは、冥界の異常気象の『高温地帯』が消え去ったと言う事であった。流石に水不足や食糧難は即時に戻る訳では無いが、原因が消えたのは大きい。

 

「レーキュ……何をしたんだ?」

 

「原因、空間の、狭間、に、落とした、だけ。後は、自力で、如何にか、しろ。太陽は、地下に、沈み、焼いて、いた。それ、位、気付け、無能」

 

「……地下に、沈んでいたなんて」

 

 『劫魃』を引き起こしていた太陽。それはサーゼクス達が冥府に避難して居た隙に冥界の地下に沈み其処に留まり大地を熱していた。放置すれば大地全てが融解しそれこそ太陽と同じ恒星の姿へと変ずる。灼熱の終焉のシナリオ。

 

「レーキュ。その、さっきの姿は一体?」

 

「答える、理由、は、あるか? それ、より、無能、なら、周り、の、心配、は、どうなんだ?」

 

 レーキュは振り向かずにサーゼクスに周囲に倒れている悪魔達は如何するか告げた。蝕んでいた赤黒い靄は消え去っており、何時も通りの冥界の大気が包んでいる。

 

「助かるのか?」

 

「好きに、助ければ、良い。放置、して、殺すのも、勝手、死に、たけれ、ば、勝手に、死ねば、良い」

 

——助け、られる、なら。内臓、は、腐り、壊死、し、た。苦痛が、支配、する身体、を生かして、悦に、浸るか?

 

 レーキュはそう言い捨てて歩き出して行く。要件は終わった。ならば、早々に退散する。この場に留まる理由は無い。

 

「ま、待ってくれ‼︎ さっきの力は、一体……それに、アレは異世界の神器なのか……?」

 

 レーキュの赤黒い靄を操る能力。変貌する姿。そして、空間諸共、斬り裂いた青い魔剣。未知であったレーキュの力の一端、それを目の当たりにした。強い力を持つ者を眷属にして悪魔の行末の再起を図る方針を立てているサーゼクスは聞きたい事が沢山出てきた。

 

「……『人は、死すべき、もので、あるから、こそ、生きる、喜びを、謳歌、すべき、である』永遠、の命、など、人間の、身に、余る。世の、正乱は、人意、に、ある。化け物、が、英雄、を気取る、か?」

 

 サーゼクスの質問に対してレーキュそう告げた後、留まる事無く歩き出して行った。答える気は無い、暗にそう告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——やはり、無理が、祟った、か。

 

 ルシファードから退散したレーキュは郊外の『劫魃』の影響で廃墟と化した都市部にある燃え尽きずに焼け残った建物の一室にて、そう愚痴る。部屋の殆どが黒焦げており、使えそうなモノは無いに等しいが、特に気にする事は無く壁に凭れる。

 

「適合、無しの、純煌式。ジェノ、サイド、であっても、この、為体……無理、が、あった」

 

 黒焦げた床に滴り落ちる血。それは喀血、レーキュも確証が無い上に保険を掛けた上に素手で持たずに3秒だけと言う制約の元に行使した。それでもこの重体たるダメージを帯びた。その姿をサーゼクスに見せたくなかったから早々に立ち去ったのである。

 

——……ウザい、から、他の手、を、捨てた、のが、間違い、だった。

 

「……さて、どうする、か」

 

 喀血し濡れた口元を素手で拭う。手の甲には自身の血潮の筋が残るが気にしない。放って置けば摩擦熱と共に零れ落ちるからだ。

 

——……この時、程、ジャックが、羨ま、しく、思える。呆れた、自分、が、嫉妬、する、なんて……それ、も、良い。

 

「……邪魔、が、来た」

 

 雑踏から離れた世界。研究者と雖も、最期に頼れるは己のみ。故に気配の察知も当然の素質である。

 

——……全く、アルセーヌ、の、真似事か。彼が、知れば、『死ね』と、言う、かな。

 

 立て付けが悪く、今にも壊れそうな部屋の扉。黒炭の砂塵を立てながら倒れ1人の中年の年代と思わしき男が現れる。特徴は既に把握している。人外か、人間か、或いは人間に擬態した怪物か、の区別は出来る。目の前の男は悪魔だ。

 

「小娘にしては貴様は見所が」

 

「邪魔」

 

 中年悪魔の言葉が言い終わる前にレーキュの背中から噴出される様に現れた赤黒い煙。それが巨大な腕となって現れ、悪魔はその腕に握り潰される様に飲み込まれ形容し難い断末魔の悲鳴が響き渡る。言動は愚か興味すらも持たないゴミに要件は無かった。

 

——……大方、遠くから、様子見、して、居た、んだ、ろう。やれ、眷属、だの、鬱陶、しい。

 

 握り潰された後、煙の隙間から腐臭が立ち込めて漂って行く。全身が腐蝕して行きその煙が霧散した直後、その悪魔の最期は骨だけがバラバラとなって床に散乱していった。命を蝕まれ、最期には力尽きる。

 いい加減、冥界の連中も鬱陶しく思えて来た。別に冥界に拘る理由は無い。研究ならば何処でも出来るから。

 

——……永遠の、命。それは、命の腐蝕。求めて、も、得られる、事は、無い。人間、には、命の、謳歌を、する、べき、だから。

 

 生きるからこそ、必死になれる。生きるからこそ、前を向けれる。永遠の世界は、求めたくはなろうが、レーキュからすればそれは悍ましい光景だと断言する。確かに永遠な命は尊く、誰もが求めるだろう。しかし、それは……絶望を意味する言葉でもあったからだ。

 

——研究所を、移動、させる。無能、ばかり、相手、なぞ、して、居られる、か。

 

 

 

 

 

 

 

 






 人間は化け物に屠られる。
 化け物は英雄に倒される。
 英雄は人間に惨殺される。

 ならば、英雄が化け物なら?
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