夜は危険だ。何故なら周りが見えず意味の無い叫びが木霊しても無駄だからだ。
昼は安全だ。誰かが一部始終を見ているから何が起きても対応されて終わるからだ。
誰が決めたんだ? そんな世迷言の格言は? それならば、何故昼間に事件が発生するのだろうか?
「……此処に僕の打ち壊すべき聖剣がある筈だ」
祐斗は兵藤家から飛び出しその足で駒王署へと移動した。今朝のニュースでは少なくとも此処に聖剣が押収されている筈だ。聖剣の担い手諸共、打ち倒したい衝動に駆られるが……。
——僕のやろうとしている事は少なからず三大勢力に加えて日本神話のみならずこの国にも影響を与えるだろう。
そして、此処まで来た以上もう後戻りは出来ない。成否問わず、僕はお尋ね者だ。全てから逃げながら全ての聖剣を破壊する……言葉で言うのは簡単だけど、修羅で荊の道だろう。それでも止まらないと決めたんだ。今の僕は悪魔だ、悪魔らしく立ち塞がる者は切り伏せるのみ‼︎
悪魔陣営は表向きは人間達と共存共栄を図りたい意図がある事を祐斗は知っている。ましてや日本国の司法に喧嘩を売ると言う事は確実に全国の警察官を敵に回す事になるだろう。こうやって大っぴらに喧嘩を売る羽目となれば確実に悪魔も黙って見過ごしはしない……リアスにも何らかの処罰が下り、下手人の祐斗にも死の制裁が来るだろう。正しく裏と表から追われる過酷な選択と言える。
こと、この国に於いては悪魔を筆頭にする三大勢力に加えて日本の警察、そして狐花を始めとした日本神話陣営にも追われる事を意味している。誰が見ても無謀を通り越して自殺行為だと言わざるを得ないだろう。
「……押収された聖剣を破壊したい。と申し出ても拒否されるのは目に見えている。出来るならば担い手諸共、と行きたいがそうは行かないか」
——なら、侵入して破壊する。出来れば見つからずに行きたいが日本の警察機関の優秀さは世界から見ても随一だ。遅かれ早かれ見つかるだろう。でも、必ず破壊してみせる。此処には2本。ある筈だ、盗まれたのは3本。最後の担い手に期待する。
初めから無謀な状態で臨む事になる。覚悟はとうに決めて意気込んだその時、前方に立つ駒王署から爆音が響き渡った。同時に感じ取れたのは認識阻害の結界の発生。
「ッ⁉︎ 認識阻害の結界⁉︎」
——襲撃か? 或いはあの教会組の2人が暴れ出したか?いいや、何方でも構わない。勝手に認識阻害されてくれたのならば、派手に暴れられる。
この結界ならば部外者は気付かれる事は無い。流石にその後の事は保証は出来ないが、今の祐斗は気にする理由が見当たらない。
駆け足で結界をすり抜けて駒王署の建物の中へと突入した。
「コレは……ッ‼︎」
建物内の真正面、事務局。其処は既に凄惨な惨状と化していた。バラバラに切り刻まれた警察官の死体が幾つも転がっていた。大量の血飛沫が周辺に飛び散っており、殆ど抵抗する前に殺されたのだと分かる。
「こんな残虐な殺し方、大体、予想出来る」
——……ある意味有名な奴だ。無茶苦茶さで異端扱いされた元神父……‼︎
「フリード・セルゼン……‼︎」
呟いた名前。それは有名な『はぐれ』のエクソシスト。悪魔陣営でも警戒が必要な存在だと言われている。
「呼ばれて飛び出てエクスタシー‼︎‼︎ 誰ダァい⁉︎ 俺ッチの名前を呼んだのは何処の虫悪魔だぁぁい⁉︎」
その時、近くの壁を粉砕して神父服を身に纏った白髪少年が長剣を振り被り強襲を仕掛けて来た。
「ッ⁉︎」
——この気配、エクスカリバーかッ⁉︎
祐斗は反射で魔剣を創造し強襲の一撃を辛うじて去なす。刃と刃が打ち合うも祐斗の魔剣の方が保たず罅が走り砕けた瞬間に距離を取り新たな魔剣を創造する。今度は2振、二刀流だ。
「ッ、フリード・セルゼンかッ‼︎」
「おおっと、俺ッチも有名になったモンだねぇ⁉︎」
ヘラヘラとした笑いを浮かべた少年神父、フリードは手に携えたエクスカリバーの腹を舌で舐めて目の前の祐斗を見ている。来ないならば此方から仕掛け攻める。
「それにぃ、魔剣を複数持ってって、事ぁ、『魔剣創造』ですかぁい? わーお、随分とまぁレアな『神器』を持っているとは中々、罪深い悪魔くんですねぇぇぇぇ?」
フリードの持つ長剣のエクスカリバーに対して祐斗が創造したのはフリードの持つエクスカリバーよりも小振で取り回し易い短めな魔剣。密着し切り結んだ時、小振りな方が優位に立ち回れる。だが、フリードは果敢に攻める祐斗に対して余裕で切り結んで居た。
「しかししかししかぁし‼︎ 俺ッチの聖剣エクスカリバーちゃんは、君の様な虫悪魔の魔剣じゃあ」
不意に振るう流れを急転させ、一瞬で2振共々、砕き折った。
「相手にはなりゃあ、しやせんって事ですぜ?あ、コレ、テストに出るから復習しやがりやって‼︎」
「チッ‼︎」
——何処までも巫山戯た奴だ‼︎
真っ二つに砕かれた魔剣を捨て新たに別の魔剣を創造し構え直す。フリードの振るうエクスカリバーの聖なるオーラは強力なモノらしく魔剣を容易く砕く様だ。
「アヒャヒャヒャ‼︎‼︎ エクスカリバーちゃんを見る目が怖い怖い。もしかしてぇ、話に聞くぅ『聖剣計画』の脱走者って奴ぅ〜? アヒャヒャヒャ‼︎‼︎ コレはコレは感動的な再会劇ですねぇ〜? 感動的過ぎて俺っチ、涙流れそう〜」
煽る様に貶す様にフリードが口にした『聖剣計画』と言う言葉に祐斗の衝動が爆ぜた。
「その言葉を、口にするなァ‼︎」
憎悪が膨れ上がり感情に震え音速に迫る勢いで肉薄し魔剣を振るった。受け止めるのは危険、ならば相手より早い速度で斬り伏せる他に道は無い。『悪魔の駒』、その騎士の駒は速度を授ける。故に出来る芸当であった。
「単・調、断・腸、丸・分・かり、でぇす‼︎」
だが、勢い任せの一撃はフリードの振るうエクスカリバーに容易く受け止められ逆に振るい払われ砕け散り祐斗本人は吹き飛ばされ署内の廊下を転がる。
「くっ、ダメかッ‼︎」
2、3回転がった後、再び上体を起こし新たな魔剣を創造する。受け止めるのも駄目、速度も駄目となって来た。なら他に手はあるか?
「ハハハッ‼︎ 速度勝負かい?でも、良いのかなぁ?エクスカリバーに斬られちまうと、悪魔くんはTEH・END‼︎ 残念無念道半ばで消滅証明QED‼︎ 死んじゃう?死んじゃうよ?死んじゃうぞ?死んじまえよ‼︎」
今度はフリードが砲弾の様な勢いで祐斗に肉薄しエクスカリバーを振り下ろす。祐斗はこの体勢から即座に避けるのは無理だと判断し魔剣を構えて受け止める。
「無・駄・♪」
「どうかなッ‼︎」
馬鹿正直に受け止めても砕かれる。何度も砕かれる光景は見た、それならば受け流す。正面からでは圧し折られる。フリードの振るう刃の勢いは速い、受け止める面をやや平行、斜めの方向に構えれば襲い来る衝撃を分散、逸らす事が出来、剣自体へのダメージも幾許か軽減出来る。
——無論、聖剣のオーラは強力。僕の魔剣では敵わない。砕かれるのは分かっている……だが。
「……防御は逆撃‼︎」
——フリードは受け止める事前提、防御毎粉砕するつもりだった筈だ。だが、勢いの方向性を逸らされた今、フリードは前傾体勢。死角が出来る‼︎ 『速度』は何も脚だけじゃない‼︎
『魔剣創造』の利点。それは自分の意思で魔剣を生み出せる。防御に使った魔剣から手を離し腕を振いながら鞘なき居合い抜きの動きをしながら魔剣を創造しフリードの視線の外から魔剣の斬撃を浴びせた。勢いに乗っていた為に体勢が崩れて祐斗の後方へと頭から飛び込み転がった。
「チィ⁉︎ ちょこざいな真似をしやがりますねぇ‼︎」
想定外の斬撃により神父服が袈裟斬りに斬られて赤く染まって尚もフリードの表情に疲れは見えない。
「前に、似た様な事があったのでね……‼︎」
祐斗は暴風雨の嵐の中、黒い霜刃を振るう小柄な少女剣士の姿を脳裏に浮かべた。
—— 一撃は届いた。だが、次は上手く行くかは分からない。必ず警戒する筈だ。その聖剣共々、倒させて貰う、フリード‼︎