「へへへ、虫悪魔の分際で俺ッチに傷を創るたぁねぇ?だが、軽いし足りないねぇ?」
確かに一撃を見舞う事は出来た。袈裟斬りだった。しかし、フリードはヘラヘラした笑みを崩さずに神父服が裂かれて出来た傷に指を摩る。
「何……?」
「情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ、後は……憎悪が足りねぇなぁ? 悪魔くんの憎悪はその程度かい?」
フリードは祐斗の一撃が軽いと見做していた。速さを乗せた一撃ではあったが浅い傷だった様だ。
「ッ‼︎ そんな筈はある」
「それから、速さも足りねぇなぁ⁉︎」
フリードは腕を振るうエクスカリバーの姿が消えた。否、エクスカリバーの姿が視認出来ない程の速度域に達し、祐斗に襲い掛かる。咄嗟の反応は防御の姿勢を取っていた。
「くっ⁉︎」
何度目かの魔剣が砕け散る音が響き渡る。既にフリードは祐斗の眼前へと肉薄していた。
「其処其処、楽しめたぜぇ⁉︎ お仲間の下へと昇天しちまいな‼︎」
今度は真下からエクスカリバーの刃が迫り上がる様に振り上げられる。再び甲高い破砕音が響き渡る。
「こんな、所で死んで堪るかッ‼︎」
魔剣の刃を地面から数本、創造し刃が達する迄の僅かな猶予を生み即座に後方へと跳び退いた。フリードの振るう剣速は不可視のレベルに達しており反応が遅れれば即死だ。
「おーおー、頑張るねぇ。後、何本、魔剣を砕かれたら気が済むのかねぇ。魔剣ちゃんも剣使いが荒いと不憫で不憫で、同情しちゃうね‼︎」
——巫山戯ているが、実力はある。カウンターも効かないだろう。それに人間の身でありながら『騎士の駒』の速度に余裕で着いて来れる……‼︎
「ほう、『魔剣創造』か。使い手の技量次第で強くとも弱くともなり得る。天稟たる者であれば無類の強さとなる神器か」
その時、フリードの後方から第三者の声が聞こえて来た。神父服を纏い丸い眼鏡を掛けた初老の男性。その姿を見た時、祐斗の心の奥底から凄まじい憎悪が膨れ上がる。
「バルパーのじいさん‼︎」
——バルパー・ガリレイッ‼︎
祐斗は憎しみに満ちた視線で睨む。倒すべき存在、屠るべき存在。祐斗が激しく憎むエクスカリバーを用いた『聖剣計画』の主任者。
「フリードよ、目的は達成した。もう此処に要件は無い」
「つー事は、押収されたエクスカリバーちゃんは見つけたって事で良いんすね?」
バルパーはこの駒王署に押収された聖剣エクスカリバーを回収したと口にする。
「うむ。して、この場所は悪い、連携のある組織故に認識阻害があろうとも異変に気付くだろう。この国の警察機構の捜索は厄介故に爆破してコレを躱す。退くぞ」
——爆破だって⁉︎
バルパーは日本警察の追手は厄介だと見做し、駒王署自体を爆破して追撃を躱すと告げた。
「さっすがコカビーの旦那。やるなら派手ってねぇ‼︎ そう言う訳だ、悪魔くぅぅぅん⁉︎ 逃げさせて貰うぜぇい‼︎」
「ま、待て‼︎」
フリードは懐から発煙弾を取り出し床に投げて炸裂させた。濃密な煙幕が展開され祐斗の視界を遮る。
「ギャハハはッ‼︎ 次はもっと憎悪パワァァァァを高めておけよ、悪魔くぅぅぅぅん‼︎‼︎」
煙幕の向こう側からフリードの煽る様な捨て台詞が聞こえて来る。何処までも巫山戯た態度を崩さなかった。
「くっ、逃してなるものかッ‼︎」
その時、バルパーが告げた建物の爆破と言う攪乱工作の爆発音が彼方此方から響き渡る。長居は危険、此の儘だと生き埋めになりかねない。
——逃しはしないぞ、バルパー・ガリレイッ‼︎‼︎
『臨時ニュースです。駒王署にて爆発事故が発生しました。同建物は全壊し死亡者、行方不明者、重軽傷者の人数は未だ確認されて居ません。駒王署では爆発発生より数十分前から一切連絡が取れなかった事が判明しています。
また、昨日に銃刀法、恐喝罪の罪で現行犯逮捕されたカルト宗教者の関係者による報復による爆弾を用いたテロでは無いかとして警視庁は捜査を拡大し進めています。
他にも駒王町ではキリスト教と言った宗教法人団体の殺害事件が相次いでいる為に、近隣署は今回のテロと何らかの関連性があると見て緊急で対策本部を設置、また駒王町や周辺地域の町内の住人に注意を呼び掛けています。小中学校にも——』
「……随分とまぁ、大事になって来たわね」
『耶蘇教やらは信仰がとで暴走しますからね。此処まで行くと流石に隠し切れないでしょうね』
お昼頃、皓咲屋敷の居間でアイラは恐介と共にTVで流される臨時ニュースを見ていた。内容は駒王署で爆破テロがあったらしく、また駒王町でも神父と言った宗教関連の人間が殺害される事件が相次いでいた。
「宗教って言ったら、巫女とかも狙われるのかも知れないわね。他にも静香やアーシアはシスターだし……」
『現状で駒王町に居る巫女と言えばお嬢達位でしょう』
——……まぁ、簡単に殺される様な真似は早々、無いと思うけど、狐花ちゃんの場合、本末転倒で町諸共、葬り去りそうな気もする。
「……エクスカリバーとか言い、堕天使と言い……トラブルが絶えないわね。狐花ちゃんもまた物騒なモノを買って来ちゃったし」
——何処にタンクローリーやら迫撃砲を爆買いする幼女が居るのよ……。オマケに使用禁止されているダムダム弾まで……。
『恐らく便乗して悪魔を集中的に潰す算段でしょうね。お嬢は悪魔が嫌いですし、それ以外は二の次なのでしょう』
「出来るなら穏便に、と言いたいけど無理でしょうね。彼処まで派手なモノを用意したら……確実に町の何処かは消炭確定ね」
『可能ならば学園内に収めて欲しい所です。あの学園は悪魔が秘密裏に支配している様ですからね……』
「そんな上手く行くかしら? 堕天使のコカビエルだっけ? 態々、学園内で何かの実験を行う理由があるのかしら?」
『……或いは別の目的かも知れません。判断材料が少ない為に、これ以上の推察は難しいでしょう』
『……分からん以上、あれこれ考えても仕方あるまい』
「……貴方、何ナチュラルに会話に加わって来ているの……?」
其処に第三者の声が割り込んでいた。気付けば机の上に赤いトゲトゲした海老龍帝ことエビイグが乗っかっていた。朝に味噌と一緒に煮込まれて涙を流して居た光景をアイラは目撃していた。
『……ある意味、退屈なのだよ。今迄は宿主である人間の精神に宿って白いのと殺し合ってばっかだったからな。こう言う……鍋に放り込まれる日々ばかりだと暇になる。当初は動けんかったが、この状態が長く続いた故に漸く動ける様になったのだ』
エビイグはそう言いながら籠手の指を多脚で歩くかの様ににカサカサと動き机の上を歩き回る。片手が蜘蛛の様に歩いている光景はホラーな光景である。
「……初見だとドン引きな光景ね。狐花ちゃんが見たら『海老じゃなくて蜘蛛だったの?』って言われるわよ」
『海老扱いの上に既に鍋物の出汁扱いだ。今更、言われようが大して変わるまい‼︎』
『……開き直って居ますね。この赤蛇』
悲しい開き直り方であった。もはや龍ですら無くなっているので、精神に支障を来している事だろう。
『慣れると案外、この状態も悪くないな。籠手のままではあるが宿主無しで自由に動き回れると言うのは、代え難い現実だ』
「トゲトゲした籠手が指を使って歩き回る光景はホラーだと思うわよ」
『まぁ、そう固い事を言うな。今は歩き回るだけだが、その内に真価を見せてやるさ。赤龍帝の力って奴をよ』
『……その前にお嬢に煮込まれていると思いますがね』
『言うな……。古今東西で後にも先にも鍋で煮込まれるなど合って堪るか』
「ドラゴンを出汁扱いって何気に凄い真似するわね、狐花ちゃんって……」