その頃の冥界では……。
灼熱の気温の問題が改善されたとしても冥界の惨状は途絶えた訳では無い。依然として食糧不足、水不足が慢性化して続いており未だに改善の見通しが立っていないのが現状であった。
「……サーゼクス様。冥界の食糧自給率に関してですが未だに全体の5%を超えません。やはり土地其の物が灼けた影響で作物が全く育たない痩せた土地と化しているのが原因の様です」
「ううむ。単純に水を与えても戻る訳では無い、か」
使い魔の森を始めとした自然環境は悉く灼けて滅び去り荒涼とした大地が広がっていた。セラフォルー達が水魔法や氷魔法で水を作り出しても、広大な悪魔領全域に行き届かせられず水が不足する地域ばかりであった。それから冥界自体、植物が育ち難い環境故に人間界から植物を持ち込んでも生育には至らないと言う現実問題にも直面している。
「……冥界の植物は長年掛けて適応した植物でしたから……最低でも数千年は必要になります」
膨大な寿命を持つが故に遠い目をしてこの切羽詰まった環境を過ごさざるを得ない。こうなれば水もない食糧も無い冥界を捨てて人間界へ亡命しようと考える悪魔も出て来るかも知れない。まぁ、やった所で悪魔狩りが横行している今、危険である事に変わりは無いのだが……。
「流石にその期間、皆に負担を強いる訳には行かないね。それからレーキュはどうしているんだい?」
無理強いしてレーキュが灼熱化した原因を排除して以降、研究所其の物が忽然と姿を消した。
「……行方知れず、ですね。元々、レーキュ様は余所者であり眷属ではありませんでした。悪魔自体に嫌気が差したのかも知れません」
「出来れば友好的でありたかったんだけどね」
どの面下げて言える言葉だろうか?
「サーゼクス様‼︎」
その時、サーゼクスの執務室に1匹の悪魔が現れる。早急の要件の様であった。
「たった今、リアス・グレモリーの『女王』から緊急の連絡が入りました‼︎ 何でも駒王町の縄張りにて堕天使幹部のコカビエルが何かしらの企てをしているとの事‼︎」
「コカビエル……。アザゼルは戦争に乗り気じゃないから恐らく独断だろうね」
サーゼクスは妹のリアスがコカビエルを相手に勝てる見込みは薄いと見ていた。可愛い妹とは言えまだまだ悪魔としては弱い。対するコカビエルは古から生きる堕天使の中でも生粋の武闘派の一角を似合う者。相手が悪過ぎる。
「如何いたしますか?」
「正直な所、コカビエル相手にリアスじゃ歯が立たない。かと言って割ける人員は居ないのが現状だ」
水不足、食糧不足に関して人員を割いている。はぐれ悪魔の討伐依頼も滞っているのが現状、はっきり言って余裕が無いのだ。
「随分、と、面白い、話を、している」
「「⁉︎」」
その時、聞き覚えのある声が聞こえた。それは上からだった。豪奢な絵が描かれた天井。その形象化された『太陽』が描かれた部分が腐蝕しボロボロになって腐り落ち、穴が開いた箇所から人影が落ちて来た。
「レーキュ……何処に居たんだい……‼︎」
「私が、何処で、何を、しよう、が、私の、勝手、だ。逐一、お前、の、意見、を、聞く、理由、は、無い」
現れたのは何時も通り、ダボダボな白衣を羽織ったレーキュであった。心無しが目付きが悪くなっている様にも見えるし、白衣自体にも裾付近に返り血が付着している。
「面白い、話を、していた、な?」
「……堕天使幹部であるコカビエルがリアスお嬢様の現在住む人間界の駒王町に現れる予告が来ています。現状、リアスお嬢様ではコカビエルには勝てないでしょう。故にどうするか思案しています」
簡潔にグレイフィアが寄せられた報告の説明をレーキュに話した。変にゴネると後々が大変な事になる。それはサーゼクスの対応の仕方がヘタクソ過ぎる上に頼み方が悪いと言うのもあった。故にグレイフィアが機転を生かして簡潔に説明して伝えた方がまだマシと判断したのだ。
「コカビエル? ふぅん。双剣の、所に、居そうな、名前、だ」
「……双剣が何を意味するかは分かりませんが、リアスお嬢様達ではコカビエルに対して勝ち目は御座いません。しかしながら現在の冥界はご覧の通り逼迫した財政状況の上に人員が不足気味。援軍を送りたい所ではありますが、とても手が回りません」
「……堕天使、か。人間臭い、悪魔、や、魔物、意外にも、堕天使、の類、も、肉体、として、存在、するか。面白い」
レーキュは口元を三日月に歪める。興味が湧いてきた様である。しかしサーゼクスやグレイフィアから見ればその『興味』の意味が異質に見えており陸な感性では済まない。
「丁度、良かった」
「丁度良かった……?」
「……
レーキュは自分の世界に入っており譫言に近い言葉の羅列を並べる。解釈する限りレーキュは何かしらの試作品を作ったらしくその試運転を行いたい様である。
「試作品、とは?」
サーゼクスは僅かな冷や汗を流して質問をぶつける。あの時見せた、未知の力。研究者と言う側面からどんな代物か一切、予測出来ない。ましてや其処にはリアス達も居る。今迄のレーキュの反応から周りを巻き込む事を厭わないだろう。
「実に、面、白い、モノ、が、出来た。実に、実に、興味、深い。アレ、だけ、で、あ、んな、モノが、出来、る、とは、余程、強い、『観念』か。薄っ、ぺら、い、自我、の、人間、とは、格が、違う、ね。認めて、良い、見事、だって、ね」
サーゼクスの質問に答える気があるのか無いのか……誰に告げているか分からない言葉を並べるレーキュ。精神的に興奮すると、発声が乱れる傾向があるらしく非常に聞き取り難い辿々しさが見受けられる。
「冥界、じゃ、文句、だろ? それ以外、なら、文句は、ある、まい。それに、人間、達、ならば、『あの程度』、の、悪夢、は、生き、残れる。死に、物狂い、で、生きる、人間、達、だ。問題、無い」
レーキュはそう言いサーゼクス達の前から立ち去ろうとしている。その言動からレーキュは冥界、悪魔であるサーゼクス達に対してとんでもない爆弾を投げ付けさせる羽目になる。
「ま、待て‼︎ 待ってくれ‼︎ い、今」
「文句、だの、何だの、多い、な。人間界、と言う、事は、悪魔に、影響、無い、だろう? そろそろ、死ぬか、無能?」
「違う‼︎ 今、日本では、日本神話と言うのが存在して、私達冥界との関係が冷え込んでいる‼︎ 大きな騒ぎを起こせば戦争に」
「戦争? 何を、可笑しな、事を、争う、から、こそ、生命、は、前へ、生きる、事、が、出来る。真なる、平和、は、停滞、死、ある、だけ、の、理念、だ」
レーキュの人生は何かしら争いしか見て来なかった。争いが肯定される世界しか見た事が無いが故の言葉。争うからこそ文明が発展する、それが彼の哲学でもあった。
「……戦争を知らないから言える言葉だ」
「生存、競争、なら、見た、けど、ね。人間と、化物……メルヒェン、達と、の、終わらない、生存、競争の、戦争、をね」
「くだらない、話は、要ら、ない。早速、その、コカビエル、とやら、に、試作、品、をぶつけて、やる。まぁ、巻き添え、で、死んだら、生きる、努力、が、足り、なかった、として、死に、絶えれ、ば、良い」
レーキュは今度こそサーゼクスの静止の声を無視して眼前から姿を消した。駒王町で始まる聖剣争奪戦と言う名の混沌まで、残り——。
ある意味、災悪な奴がログインしようとしています。