悪魔達が蠢きを見せているその頃、皓咲屋敷の一室。
「はーい、もう1回。集中して」
「んにー……‼︎」
砂利が敷かれた室内の枯山水の様な部屋。其処では天照大御神様が狐花の特訓を行なっていた。
「磐裂き、根裂き、咎を経津、破邪を讃えし霊華は遍く逢魔を祓いて解き放たん‼︎ 赤手、赤腕、粗金を握りて。地に鎬、天に刃。刹那、雲耀、即ち孤剣なりや‼︎」
「「……」」
しかし、何も起こらない……。
「うー……」
「うーん。最初は成功したみたいけれど、その後は失敗続きね〜」
『悪魔の駒』を直接破壊する霊術。暫定的に使えるのは狐花だけ、なのだが……その霊術自体の難度が高く、霊術に関して天稟である狐花であっても容易に扱いこなせて居ないのが現実であった。
「えーと、そんなに難しい霊術なのですか?」
後学としてアーシア達も狐花の訓練の様子を見学していた。アイラは兎も角、アーシアと静香は霊術を使用するが故に発見があると言う認識でもあった。
「……うーん、霊術とかもそうだけど他の神話とか御伽噺とかの魔法って言う類はイメージ。『自分の世界』をどう構築出来るかって言う事に視点があるんだよ」
「芸術も同じ観点ね。如何にどう言う形で表現出来るか? に重点される」
表現力、そして自身のセカイを持つ事が重要だと言う。端的に言えば妄想。
「そう言う認識で良いかな? 直に見た限り逆のイメージに固まっちゃってるみたい。だから失敗しちゃうんだね」
天照大御神様は狐花が失敗する霊術の失敗する原因を自分の目で見てハッキリと認識した。
「えーと、具体的には……?」
「滅殺。圧殺。抹殺。惨殺。燼殺。鏖殺。完殺……要するに刹那的で破滅させるイメージ頭に浮かばない出来ないみたい。だから刹那の命しか保てない霊術しか使おうとしないのね。広義的に見てアーちゃんが対極の霊術でしょ?」
「あー。うん、納得出来るわ……。つまり炎や熱と言ったモノは分子運動に該当するから冷気や氷も狐花ちゃんは使えると言う事?」
「うーん、そうだけど。ほら、三っちゃんって焼き殺す方が好きだし、跡形も無く消えろって言うイメージが強いから」
「……確かに悪魔は消滅させた方が良いですもんね」
「……要するに本人の精神面が大きく反映されるって事な訳ね……。それで、進歩の程はまだまだって事?」
「そうねぇ〜。三っちゃんの心の在り方が変わらない限り、継続させても平行線な気がして来たわね〜」
狐花の憎悪が余りにも強過ぎる為に意固地となり破壊力が全面に押し出されてしまっている。
「此の儘じゃ『悪魔の駒』の被害者達を救えないわ〜。これじゃあ漸く十王達の踊る会議で終着したのに、企画倒れも良い所ね〜」
長い間、拮抗状態のまま続いていた十王達の『悪魔の駒』に関係する会議。それが漸く終わりとなり決着が着いた。それは本人の意思に問わず『悪魔の駒』の完全除去。罪咎は人間であった頃と転生悪魔であった頃とを並行して参照して決める事となった。
「常に思っていたけど他に使える人は居ないのかしら? 1人や2人位は居るんじゃないの?」
「うーん。三っちゃんレベル、とは行かなくても次点で出来そうな子は居るは居るわ。でも、その霊術自体の難度もそうなんだけど……皆が皆、『悪魔を助けたい』と思っていないのが現実なの……。あ、コレはアーちゃんやシズちゃんも一緒」
「……2人は現役シスターだし、悪魔は根絶‼︎ だからね……其処は、うーん、宗教家じゃないし専門外だから何とも言えないけど、何故?」
——大体、予想は出来るんだけど……一応。
「悪魔のやって来た事を考えれば至極当然の事だと思うんじゃない?」
質問に対しての回答は至極自然な返答であった。悪魔陣営が色々な意味で影響を及ぼしてしまったのは紛れもない事実だ。
「……霊術の才覚がある子には共通点があってね。その殆どが絶望する現実を目の当たりにしたと言う事。その現実を否定したい『想い』が現実に干渉する形となるの。人の子や付喪神と言った超常であっても変わらない。そんな『想い』の発現が霊術なの」
「…………」
想いが強くなればなる程、強力になる。狐花の過剰過ぎる破壊力は即ち『憎悪』の象徴。故に上手く行かないのである。
「反比例と言う訳ね。お互い共存は出来ない。不倶戴天、と言う事……」
「ですが何故、今になりその特訓をしているのですか?」
「それは、あの子には幸せになって欲しいから。今、この街で渦巻いている環境を見て、此の儘だと、確実にあの子は完全に振り切っちゃう」
それとコレがどう言う風に結びつくのだろうか?
「……皆は五七から三っちゃんの過去は聞いたわよね?」
「はい。酷く悲しい過去でした」
「……付喪神は想いが成就すれば、消滅しちゃう……即ち死ぬと言う事。それは呪われた付喪神でも例外じゃないの。つまり三っちゃんは自分から死へ急ぎ行くように生きているの。悪魔を殺し続ける限り生きているけど、殺戮し切ったらその時、消滅するわ。
貴方達のお陰で何とか人の子への憎悪の執着は薄れて悪魔の方へと傾いては居るけれど、逆に阻害をしちゃっている」
「彼方が立てば此方が立たず……ですか。上手く行かないモノなのですね」
「うん。凡ゆるモノは滅ぶべく存在している。なら、死ぬのなら幸せになってから旅立って欲しいの。只々、殺す道だけじゃなく生かす道を見つけて欲しいの。難しい事なのは分かっている……付喪神で固執する事も分かっててやってる」
殺伐よりも平穏の方が望ましい。そう考えた故であった。
「神様が其処までやるなんてね」
「……コレでも天照大御神だもん」
「答えになっていないと思いますよ……。でも、それとコレに何の因果関係があるんでしょうか?」
「……三っちゃんは自分の事、絶対に話そうとしないもん。だったら別の方法じゃないと確信出来ない。あの霊術が成功したと言う事は即ち見つけたと言う証明になるの」
「成程……。様子を見る限り少なくともその道は遠そうだけどね」
「諦めないよ。絶対に……‼︎」
——接すれば接する程、この神様は神と言うよりも妹に甲斐甲斐しく世話し心配して気に掛ける姉の様な印象を受ける。対する狐花ちゃんは、全く気付いて居ないか或いは気にも留めて居ないか……。
「…………」
『何や、こないな所におったか。狐花』
「……何?」
その頃、狐花は皓咲屋敷の屋根の上に居た。夜風が髪を頬を撫でる様に吹く。
『特訓、上手く行かなかったってな。やっぱりアレっきりやったか?』
「うっさい」
『まぁまぁ、そない拗ねんなや。誰かて得手不得手はあるっちゅーもんやて』
「……」
『で? 何、考えとんや?』
「命の選択ってどう思う?」
狐花は振り向かず夜の街を眺めながら五七に問い掛けた。
「……私は常に思う。命の価値と言うモノを。何故、悪魔となった元人間を救う理由があるのかって……悪魔は悪魔。滅ぼした方が良い。
人間は愛されている内に死んだ方が良い。化物は皆から憎まれている内に死んだ方が良い」
『……つまり?』
「私を
『まーだ、諦めて無いんかいワレぇ。まぁ、好きにしたらええわ。全て滅ぼすんやったら滅ぼしたらええ、人間ってのはそんな事でくたばる程、柔な連中やないんやで? なんで、人間が天変地異やら戦争が起こってでも生き延びられるか知ってっか?』
「……?」
『何よりも『生きる』っちゅー努力をしているからや。祟り神? ハッ、笑わせるわそんな世迷言。狐花、テメェ1個で滅ぼせるんなら滅ぼして見ろや。つまりや、お前が滅ぼして生き残った奴が生き残る価値があると見てやったらええ。生き残れへん奴は死ぬだけや……簡単やろ?』
「…………確かに」
『悩むんやったら悩んだらええ。それも生きるっちゅー事や。何も全部救えとは釈迦でもあるめぇし無理な話や。狐花は何様や? 高々、田舎の神楽鈴や。救えるモンは救えるし救えれへんモンは救われへん』
「ん……」
『……と、そないな事言っとる間に、奴さん来よったみたいやで?』
「……みたいだ。大物の気配、堕天使と同じ」
『おいでなすった様やな。どうするんや?』
「準備を始める。死にたがりだけ参加すれば良い。嫌なら逃げれば良い。戦場なんてモノ、死に損ないの溜まり場だから」