「……木場の奴、帰って来なかったな」
昼間に臨時ニュースが報道された同日の11時頃の深夜。兵藤家、イッセーの部屋にてイッセー自身がそう言葉を溢した。祐斗の復讐心、それは増大の一途を辿っておりその結果、リアス眷属から離叛しかねない程に増大し、同日に帰ってくる事は無かった。
「まさかとは思いたいけれど、単身でコカビエルの所に行ったんじゃ無いでしょうね……‼︎ 流石に無謀過ぎ……ッ‼︎」
その時、凄まじい迄のプレッシャーを感じた。重く、押し潰すかの様な迄に酷く暗い重圧感。
「堕天使……幹部級ね……‼︎ イッセー、出るわよ‼︎ 小猫達にも伝えて‼︎」
リアスはその重圧感の正体を悟り直ぐに学生服に着替え地下で寝泊まりする小猫達にも通達した後に家の外へと繰り出した。
「……何処から?」
「イッセー、上よ‼︎」
リアスの言葉に従い上空を見上げる。満月の夜。その満月を背景に男性の姿が浮かんでいた。広がる翼は10。装飾があるローブを纏った堕天使は苦笑を浮かべて居た。
「初めまして、と言っておこうか。グレモリーの小娘よ。その赤くて長い髪を見ると忌々しい兄を思い出して反吐が出そうだよ」
「ご機嫌よう。堕ちた堕天使、コカビエル。私はリアス・グレモリー、お見知り置きを。それと我らがグレモリー家と魔王様は遠く尊き存在。この場で政治的な意味合いでの接触は無意味だと言わせて貰うわ」
リアスの口調は丁寧だが冷淡な表情の上に顳顬が僅かに動いている。
「ふん、貴様らと政治的交渉? フハハハハ、笑わせる。陸に現地の者共と話し合いの場すら作れない小物と政治的なやり取りを期待するのが愚かな行為だ」
「何ですって⁉︎」
コカビエルの言動はまるでリアスが狐花達との会談が出来ずに沽券を潰された事を知っている様な言い方であった。リアスの激情を受け流したコカビエルはあるモノを投げ付けた。
「土産だ。焼くなり煮るなり殺すなり好きにするが良い」
投げ落とされたのは人間。いや、見覚えがあった。教会、天使陣営からの使者として現れた2人組の片割れであるイリナと呼ばれた少女であった。
「呼吸が荒い……傷だらけです……‼︎」
イリナを受け止めたのは小猫であった。見た目とは裏腹に怪力である彼女ならば受け止め支える事に造作は無い。
「丸腰の癖にノコノコと根城に乗り込んで来たのでな。少々、手荒に歓迎してやった。まぁ、1人は逃げたがな」
逮捕され警察署で勾留されていた時、爆破テロのドサクサに紛れて脱走して其の儘、コカビエルのアジトに乗り込んだ様である、丸腰で。
「サーゼクスや他の魔王共と交渉なんて馬鹿な真似はしない。そもそも奴等に交渉なんて高等技術が出来る程の知能は無いからな」
コカビエルは挑発気味に侮蔑の視線をリアスに向ける。対するリアスも侮蔑を込めた視線で相対する。
「魔王様を侮辱するのは万死に値するわよ?」
「事実だろう? まぁ、サーゼクスの妹である貴様を血祭りに上げて首都であるリリスに生首だけ晒してやればサーゼクスの激情が俺に向くやも知れんな。悪くないシナリオだろう?」
「巫山戯るのも大概にしたらどうかしら? 態々、そんなつまらない事を語りに来たのかしら?だとするなら3流役者も良い所よ? 貴方がこの町に来た理由としては実に小物ね」
リアスは負けじと煽る形で問い詰めた。
「口だけは達者だな、グレモリーの娘。貴様の根城である駒王学園だったか。其処を中心として暴れさせて貰おうか。そうすれば否応無しにサーゼクスが這い出てくるだろう」
「なっ⁉︎」
その言動にイッセーは驚愕の表情を浮かべる。駒王学園にはリアス以外にもソーナも居る。魔王の妹2人が居る。身内に甘い魔王は我慢ならない筈だ。
「そんな真似をすれば、戦争が起きるわよ⁉︎」
「願ったり叶ったりだ‼︎ エクスカリバーを盗めばミカエル辺りが軍勢を嗾けて来るかと思えば、腑抜けて動かん。代わりに来たのが雑魚共では話にならん。ああ、つまらん。実につまらん」
「……天界や冥界のみならず日本神話も巻き込むつもり⁉︎ それこそ、三大勢力自体が滅亡するわ⁉︎」
そして最悪な事に日本神話でも災厄級の狐花までこの町に居る。もはやこの駒王町自体の行末が絶望的な迄に悲惨な未来しか見えない。
「ククク、クハハハ‼︎ アーハッハッハッハッハ‼︎‼︎ 日本神話? それも悪くは無い。貴様ら悪魔は弱小などと蔑むだろうが、奴等は強い。ああ、強い。素戔嗚や他化自在天辺りが出て来れば最高の時間になる。だが、貴様の予想は外れよう」
「……如何言う、意味よ?」
「分からないか? 貴様らの根城の町だ。日本神話共からすればこの町は敵地、ならば殲滅も辞さん。奴らからすれば『勝手に潰し合え』とでも思って居よう。まぁ、介入するならばそれはそれで構わんがな。戦争の規模が大きくなるならば寧ろ参戦を歓迎しよう‼︎」
「この、戦争狂め‼︎」
コカビエルの狂気ぶりを見てリアスは忌々しく吐き捨てる。
「戦争狂?ああ、認めよう‼︎ 俺は三つ巴の戦争が終わった後、退屈で退屈で仕方が無かったさ。アザゼルの奴もシェムハザも次の戦争に消極的だった。それよりも神器などと言うつまらん玩具を集めて研究なんて始めやがった。そんな下らないモノが俺達の決定打になるとは限らん。最も神煉具や、其処の小僧が持つ『赤龍帝の籠手』の様な神滅具ならば話が変わるがな」
其処でコカビエルの視線がリアスの斜め後ろに位置するイッセーへと向けられた。
「……お前は俺の神器がご所望って言うのかよ?」
「少なくとも俺は興味が無い。が、アザゼルの奴は欲しがるだろうよ。アイツの蒐集癖は異常だからな」
「……さぁ、真なる戦争の前哨戦を始めようでは無いか。魔王サーゼクス・ルシファーの妹、リアス・グレモリー‼︎ 駒王学園で待っているぞ‼︎」
コカビエルは高らかに宣戦布告をした後、一瞬で飛び去って行った。向かった先は勿論、駒王学園だった。
「……コカビエル……‼︎ 皆、今すぐ学園へ向かうわよ‼︎」
「「「はい‼︎」」」
「……動いた。コカビエルと思われる堕天使が」
『真打ち登場って訳かいな。で、如何すんや?』
「三千大千世界に轟かせし兵達よ‼︎ 兵は城、兵は石垣、兵は軍、事かくあれよ。燼滅されし戦場の夢想の梦の彼方より、今一度、現の界に再演を。業火と黒屍に刻まれしその記憶を、此処に解き放たん。
瞬き、息飲み、見惚れるな。闃寂を、寂寥を、静寂を、頽廃が汝らの世界ぞ。果てよ、潰えよ、絶えよ、壊れよ。解脱されし魂の宴は終わらぬ、遍く戦場は此処にありや。鮮血、流血、失血、鬱血、舞い踊らせて天上天下を赫く染め上げよ。混沌の坩堝、汝らの生きる意味を此処に解き放て‼︎《/I》
この高揚は、この躍動に、この歓喜が、この自由の、この幸福を、遍く命に分け与えよ‼︎ 殺戮こそが甘美なる美酒、今宵、開かれるは戦場の宴なり‼︎」
五七が問い掛けるよりも先に狐花は詠唱し青白い炎を纏う骸骨の足軽を召喚。指示を出す迄も無く歩き出して移動を始める。一部は狐花が購入したタンクローリーの方へと向かっていた。
狐花自身も屋根の上から飛び降りる。飛び降りた先の近くではアイラ達が町の空気が変わった異変に気付いたのか狐花を探していたらしい。
「狐花ちゃん、気付いているみたいね」
「ん。エリザベス何ちゃらの行動に便乗する形で悪魔を葬る。今回は大細工を用意した……かなり派手にやるから命が惜しけりゃ駒王町の外、県外に逃げても良い」
「逃げませんわ。悪魔を滅ぼす使命を果たすまでです」
「そ、好きにしたら良い」
「狐花さん。その、具体的な作戦は?」
「駒王町を焦土に変える」