『……ま、……い……み……逃……』
「……何かあったな」
火の粉が舞う駒王町。溶岩に満たされ民家や建物が業火に犇く溶岩に沈み行く中、高い建物の屋上で周囲を見渡す狐花は無線機から途切れ途切れの通信を聞いて眼を細めた。
——堕天使が学園に布陣するのは見えて居た。そして、あのゴミ虫共が粋がって向かうのも読めていた。流石に其の儘、激突するかと思っていたが前哨戦が起きたから集まった所でタンクローリーをぶつけた。
リアス達がケルベロスと応戦している最中に大型タンクローリーを突入させて一網打尽にする計画だった。無論、コレで始末出来るならばそれに越した事は無かったが万が一の時もあった。それはアーシア達を伏兵として配置し動揺した隙に奇襲を仕掛けて仕留めると言う算段だった。
『……原因は
「……」
状況は混乱の一途を辿っていた。駒王学園の本校舎が突如として大爆発(狐花が仕掛けた訳では無い)に包まれた後、天地を揺るがす様な咆哮が響き渡った。
「何、アレ……?」
吹き荒れる黒煙、纏うかの様に燃え上がる業火。本校舎があった場所に悠然と聳え立つ巨大な存在。深夜に差し掛かるも大地を覆い尽くす溶岩の光に照らされて見えたのは黒光する無数の鱗と甲殻に覆われた胴体に人間の腕の様な造形の前腕、蛇の様に畝る長い首。無数の剣を重ねたような巨大な双翼。そして鉄仮面に覆われた頭部。それは異形な『ドラゴン』を彷彿させる姿であった。
『おぉぉぉぉぉォォォォォ‼︎‼︎』
再び咆哮が上がる。その咆哮に煽られたのか街中に犇く溶岩が爆ぜて噴き上がり溶岩の火柱が至る所で発生する。
「……あんなモノを注文したの、誰?」
『俺様が知るかいな⁉︎ と言うかあんな竜知らんぞ⁉︎ 何処の御伽噺の奴やねん⁉︎』
『……やっと、繋がった……‼︎ 狐花ちゃん、聞こえる⁉︎』
「ん、聞こえる。無事?」
そのタイミングで無線の通信が繋がった。
『……無事、とは言えないわね。タンクローリーの爆撃で分断して私とアーシア、静香の二手から奇襲を仕掛けたのは良いけど……その矢先に、突然校舎が爆発して』
「……変な形状のドラゴンが現れた、と」
『ええ。そんな所、ね』
「あの爆発。人間の身体だと即死する破壊力だ。アーシアと君は兎も角、静香は」
校舎全体を吹き飛ばす破壊力を有した大爆発。大型タンクローリーの爆発も大概ではあるのだが人間の肉体で耐え切れる様な爆発では無い。元人間からの元転生悪魔の静香も悪魔の身体では無くなった以上、
『……ええ、
アイラは静香は落命したと言葉を濁さず告げた。隠しても何時の日かはバレる。アーシアに関しては一旦、言い澱むがハッキリと告げた。
「…………そう。その割には」
『貴方の事だから、分かると思うんだけど……こう見えても……死と言うのは見慣れていたの。そう、去年までは、ね』
——そう言えばアイラは『亡命』希望って言っていた。
狐花の過去は五七により暴露されてしまったし、アーシアや静香の過去も粗方は知っている。しかし、アイラの過去は未だに不明なままだった。
「………………。うん、何となく察しは付いていた」
『そんな気がしていたわ。貴方の事だから……』
「生きるも一瞬、死ぬも一瞬。永遠なんて言葉は夢物語でしか無い。そうやって呆気なく死んでしまう人間は数えるのを止める程、何人も見て来た。劇的な死なんてモノはモノガタリの中でしか早々に起こり得ない」
死ぬ時は死ぬ。生き残る奴は生き残る。明日生きているなんて誰が確信を持って言えるのだろうか? 『今日は生きた、だから明日も生きている』なんて、誰一人として絶対的に保証なんてモノはされない。
——彼女達も何れはそう言う結末を辿る事を承知で来た。逃げても構わないと言った……故に彼女達が望んだ結末。
『…………遺品は何も残らなかったわ。文字通り、ね』
「そう、残ったとしてもアレでは、焼き尽くされてお終いだろうね」
『貴方なら、そう言うだろうと思った。大多数の死者を見て、そして自分も燼滅する側……幾重の『死』を見た』
狐花の反応は淡白。アイラはその反応を聞いて『やはりね』と言う心境を隠さず漏らした。常人ならば『心が無いのか』、『外道』、『イカれている』と言うだろう。
「うん。恐介や五七から聞いているよね。そんな
『……そっか。なら、良いかな』
「アイラ?」
『実は言うとね。私も限界かもね。だって、眼前に見える巨大な物体の足元に居るのよ。動けない状態だから、コレが動いたら、多分私は、巻き込まれによる圧死は確実……。狐花ちゃんから見て、距離的に間に合いそう?』
「……ごめん。無理かも」
『そっか……。じゃあ、さよならになるかな。不思議ね、出会って半年すら経って居ないのにこうも早くお別れの時が来ちゃうなんて……』
「出会って早々に死別する人も居るけどね」
『あはは。そうかもね……狐花ちゃん、ちゃんとご飯、食べなさいよ? 虫ばかり、食べるんじゃ無いからね』
「…………」
『ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい‼︎‼︎』
その言葉の直後、無線が途絶。見やれば咆哮を上げた『ドラゴン』が頭部を持ち上げ上空へ向けて火球を吐き出した。その火球は上空へと打ち上げられ花火の様に爆ぜ破片となった小さな火球が流星群の如く溶岩が犇く街中へと降り注いで行く。
「………切れた」
——……遺言にしてはお節介だと思う、でも……弔いはして置こう。要因は如何であれ、死で救われたのなら、それも良い。
『狐花……』
「……行こう。
仇は死、情は内。要因を放置する程、甘くは無い。
『……せやな。皆、死んでもうた……後は夜摩天様が如何にかしてくれるやろ……と、言いたいけど皆、外国人か西洋の尼僧やからなぁ』
「安心すると良い、どうせ……そう遠くない未来に逢えるだろうから。vulnerant omnes,ultima necat.」
——あの時は初めてだったから外れた。でも2度目は外さない。今度は後述詠唱で全てを吹っ飛ばす。終焉を鳴らす撃鉄を。
狐花は視界の先に聳え立つ『ドラゴン』を一撃で葬るべく最適な場所を探して移動を開始した。