その頃——?
「……コレは如何なっているんだ」
目の前に見えるは無数の人集り。そして、避難誘導を行い右へ左へ走り回る警察官の姿。遠く見えるは火災により赤く燃える夜空。此処は駒王町の隣にある町であった。警察署でフリード達と対峙していた祐斗は逃亡したフリード達を追った。その先は駒王町の隣町だった、其処で見失った為に夜になっても駆け回って捜索したが成果は得られなかった。
「駒王町全体が火事だって」
「放火にしては規模が尋常じゃないって言っていたぞ」
「県外からの消防車も来ているそうだ」
「避難した人々の滞在場所としての市民ホールに毛布や物資の追加手配を急げ‼︎」
人集りで聞こえてくるそんな声。駒王町で大規模な火災が発生し住民達は町の外に避難していると言う。
——駒王町で火災だと……? まさか、遂にあの皓咲と言う少女が暴れ出したのか……‼︎
駒王町での大規模な火災と聞いて祐斗はいの一番に狐花の存在を思い浮かべた。初対面でいきなり業火で葬り去ろうとした事から可能性としては充分、あり得る。寧ろ、他に思い当たる要素が現時点では考えられない。他にあるとすればコカビエル。
「……」
——部長は、いや……僕はもう、『はぐれ』認定されている可能性が高い。理由がどうであれ部長の元から去った事に変わりは無い。ただ、コカビエルが駒王町で何かをしようとしている事は分かる。もしや、その影響か? だとするなら其処に聖剣が……?
隣町にまで来ても収穫が無かった。駒王町に異変が起きたと言うのならば行ってみる価値はある。祐斗は駒王町に向けて移動した。しかし、駒王町の眼前付近では立ち入り禁止のテープが道端に敷かれ、多数の消防車や消防隊員による賢明な消火活動が行われている光景を目の当たりにする。
「……くそ‼︎ 火の勢いが全然衰えないぞ‼︎」
「まだ取り残された人が居るかも知れない‼︎ 兎に角消火するんだ‼︎」
「弱ったな……あの中で突っ切ると止められそうだ」
——認識阻害を瞬時に張って目眩し、と言う使い方は出来ないし……この様子だと、他の場所も消防車で埋まって居そうだ。如何するか……。
「質問。汝は復讐を肯定するか?」
その時、世界が止まった様な感覚を覚え後方から声が聞こえた。振り向けば其処には猫耳を彷彿させる頭頂部の形状を加えた長い黒髪を靡かせる少女が立っていた。その顔立ちは狐花と良く似ているウィキッドであった。
「ッ⁉︎ し、皓咲 狐花⁉︎」
「否定。私はウィキッド。その者とは全く別の存在。他人の空似だ」
「…………」
狐花ならば目の前のウィキッドの様に佩刀していない。その為、別人だと理解して構えを解いたが警戒は続ける。
「質問。汝は復讐を肯定するか?」
「復讐を、肯定? 何故、そんな事を聞くんだ?」
——目の前の少女も剣士か……? そもそも何者なんだ?
「答えろ」
有無を問わずの詰問。少なくとも目の前の少女は普通の人間とは思えない。寧ろ三大勢力の様な裏側の住人だ。
「ああ、するよ。僕は聖剣に復讐する為に生きている」
「そうか。だが、結果はどうだ? 汝の主を名乗る愚物は汝に何を齎した? 生きる意味? それは理解しよう。だが、利己の為に遠ざけていたのではないか?」
——悪魔は強い神器や珍しい種族の転生悪魔を欲していると言うのは何度も聞いた。僕の神器もレアな物だと言う事も。
「…………そうだね。聖剣が駒王町に持ち込まれた時も部長は『動くな』と言った。僕の生きる理由を知ってて遮ろうとした‼︎ まぁ、今じゃ僕は『はぐれ悪魔』だろう。あんな形で飛び出したんだ、もう戻れはしないだろう」
祐斗は既に自分が『はぐれ悪魔』認定を受けるのは時間の問題だと確信していた。既に日本の警察署の爆破事件に関与してしまっている。表向きは人間達と友好的でありたい悪魔政府としては誤解であろうと無視はしないだろう。
「成程」
「……そもそも君は何者で何故、僕に接触を図った?その意図は何だ?」
「回答。汝の事ばかりでは不公平か。私は
「コカビエルの回収、か」
目の前の人物が堕天使側の存在。その事実を聞いても祐斗は特に敵対心を抱かなかった。悪魔に取っては敵対勢力だが今の自分が表立って喧嘩を売る理由が無い。最も聖剣を持っているなら話は変わって来るのだが。
「現在。汝の言う駒王町は複製されている」
「複製? 如何言う意味なんだい?」
「町自体は本物だが、今回の件の当事者達は複製された駒王町共々、異空間に飛ばされている。言わば『偽物の駒王町』が目の前の駒王町と次元が僅かに重なる形で存在している」
「空間を重ねる? そんな事が可能なのか?」
悪魔でも使い捨ての空間を作り出す事は可能だ。レーティング・ゲームもゲーム会場として専用の空間を作成して其処で行われている。だが、重ねると言う行為は聞いた事が無かった。
「回答。可能だ。今回の件、参加者が駒王町に出揃った、そして民間人が駒王町から追い出されたタイミングで日本神話の第六天魔王が駒王町其の物丸ごとコピーした。そして、僅かにズラす形で当事者達を偽物の町にズラした。そうすれば空間跳躍のズレは無く本人達も自覚無く移動させる事が可能だ。そして偽物と本物の空間境界は違う為にお互い物理的な干渉が断たれている」
つまり『偽物の駒王町』でどれだけ派手に暴れても本物の駒王町には被害は及ばないと言う事である。街全体を覆う溶岩の存在も複製された後の偽物の駒王町で発生している為、此方には影響は及ぼさない。
「……ならば、あの火災は?」
「回答。火災は意図的。言わば邪魔者達を自主的に立ち退かせる為であろう。複製故に複製前に起きた火災は其の儘、残る。最も規模が想像以上に大きい様だ」
しかし、事前に引き起こした火災に関しては此方でも残っている。その後始末として消防署は県外の面子も動員している事から傍迷惑ぶりでは狐花も充分、やり過ぎである。
「空間の座標自体、ズレている為に転移魔法ではその空間に赴く事は出来ない様になっている。座標を知らない君では如何足掻いても戦場となる『偽物の駒王町』には到達出来ない」
「何故、そんな事を僕に伝えるんだ? 目的あれど僕は転生悪魔であり悪魔陣営の存在だ。敵同士の筈だ……‼︎」
「形式上、敵だから誰でも憎む必要はあるのが? お前とは敵同士である必要性は、私には無い」
その時、アスファルトに何か軽いモノが落ちて跳ねたかの様な音が響いた、気がした。視線を落とせば其処には縦に両断された『騎士の駒』が落ちていた。
「こ、コレは……⁉︎」
「斬った。お前の中に巣食う『悪魔の駒』。コレでお前は悪魔じゃなくなり敵対する理由は失われる」
——『悪魔の駒』だけ斬るだなんて……然も抜刀は愚か振るった事さえ、そして納刀した所も認識出来なかった……‼︎
刹那。本当の意味での刹那の抜刀。会話の最中で刃を振るい、肉体を斬らずに概念である『悪魔の駒』だけを斬り捨てた。
「一体、何の、……いや、神器か……?」
自分が全く知らない神業を目の当たりにし祐斗は高速の神器だと推察する。余りにも早過ぎる為に並の神器とは思えないと考えた。
「ただの人間技だよ。身のこなしも伴えば足捌きも雲耀に至る」
「人間技……だって⁉︎」
——速過ぎる……‼︎ 抜いた事も納めた事も認識出来なかった。それが、ただの人間技だなんて‼︎
剣士として衝撃であった。魔剣を使うと雖も根管は振るう刃。届かねば話にならないのである。
「……君は、何がしたいんだ?」
だが分からない事と言えば何故、自分に会いに来たのか。それが未だに分からなかった。