風と雷は気侭に赴く。天気屋には言葉は届かないのだ。
「……君は、何がしたいんだ?」
——想像だにしない剣術。そして『悪魔の駒』だけを斬り捨てた技量。堕天使陣営に属すると名乗る彼女の行動の意図が分からない。何故、僕に接触してそんな行動を起こすんだ?
『悪魔の駒』を両断された事により祐斗はリアス・グレモリーの眷属悪魔でも転生悪魔ですら無くなった。唯の1人の人間へと元に戻った。何故、そんな行動を起こした意図を祐斗は問い掛ける。
「回答。唯の気紛れ。目の前で優柔不断の愚か者の背中を押しただけ」
ウィキッドは祐斗の質問に対して唯の気紛れだと答えた。別に無視しても良かったとも言える。偶々、目に留まったと言おうか。
「復讐したい。けど、要らぬ立場が邪魔をする。然とて、周りも邪魔もする。要らぬ障害は廃しただけ。うん、簡単に言うよ」
——……彼女の口調。不規則に乱れている。まるで人格が2つあるかの様に……。
理由を答えるウィキッドの口調は違和感があった。最初は厳かで老成した言動だったのに今は年相応の少女の様な言動。ウィキッドの中に2人の性格が混ざっている様に見えた。
「君の復讐劇を見たくなったんだよ。知ってる? 君が転生悪魔のままだと君の復讐は完遂出来ないんだよ。何故かって? それはBureizā Shainingu Oa Dākunesu Burēdo the Hagesaleが悪魔、天使、堕天使間での和平を画策しているから。そうなれば、君の復讐相手である天使の聖剣に対して攻撃出来なくなる。下っ端も良い所の君じゃあ行動に移す前に上位悪魔に潰されて終わりになるからね」
「……‼︎」
前半の演劇を見る様な態度は兎も角、後半の内容は衝撃を受けた。祐斗が復讐したい聖剣エクスカリバーはほぼ天使陣営に属してある。今回の件でのエクスカリバー全てが此処に集っている訳では無い。全てのエクスカリバーを粉砕する決意である以上、いつの日か天使陣営に殴り込む必要も出て来るだろう。
だが、和平と言う単語。即ち同盟とも受け取れ同盟同士が争うなどあってはならない。転生悪魔であった祐斗が天使陣営のエクスカリバーを破壊しようと動けば魔王達も無視はしないだろう。
「……分からない。君には何のメリットも無い筈だ。ただ、僕の復讐劇が見たいと言うのがメリットだと言うのか⁉︎」
「私にもメリットはあるよ。君の『悪魔の駒』を壊す事は別に労力にはならないしね」
抜刀して斬った、それだけである。
「それは善意の押し付けじゃないのか?」
「悪魔に戻りたいの? 別に君の生き方に文句は言わないけど、
「…………」
ウィキッドの行動は祐斗にとって迷惑と言える。しかし現実問題はそう甘くは無い。目下の理由は皓咲 狐花。悪魔と言う理由だけで問答無用に鏖殺しに来る。それ以外にも悪魔を狩ろうとする者達が日本の彼方此方に居るらしい。それに日本神話からの印象は最悪であり、何時でも何処でも見られている。成程、考えれば確かに悪魔である事にメリットよりもデメリットの方が大きく感じ取れた。
「いや、考えれば君の言う通りかも知れない。それと僕の復讐劇なんて見応えある様なモノじゃ無いよ?」
「君は戦いをエンターテイメントだと思っているの?」
ウィキッドは祐斗の複雑な心境に刀剣を突き刺した。悪魔陣営ならば避けては通れない『批判』の声であった。
「何れ悪魔は思い知るだろうね。そのやり方が、受け入れられないと言う現実を。最も、人間の君には知った事じゃないだろう?」
「……君の行動は本当に理解出来ないよ。でも、今の僕にとって悪魔と言う立場は不利益が多いと言う事は理解出来ていた。その点は礼を言おうか」
——終わった事に文句を言っても返っては来ない。いや、はぐれ悪魔として逃げながら聖剣を狙うのは危険か。特に皓咲 狐花から逃げ切れる自信が無い。生徒会長の眷属は全滅間近にまで追い込まれている。恐らく元部長の眷属も全滅は必至だろう。それに悪魔らしく生きろとは言うが自分の意思の生き方をしよう。
「受諾。その言葉を受け取ろう」
その直後、目の前に裂け目が現れた。斬れ方から袈裟斬りに斬られたのだろう。その裂け目からは身を灼き焦がすかの様な熱風が溢れ出し祐斗の身体に容赦無く吹き付ける。
「ッ⁉︎」
——また、『見えない斬撃』ッ‼︎
そして裂け目から見えるのは赤く燃える溶岩の濁流に飲み込まれつつある民家。それに降り注ぐは燃え上がる火山弾の雨。地獄と言う他に無い光景が視界に映った。
「どうやら、天変地異が起きている様だ。流石は『祟り神』と言おうか」
ウィキッドの口調は厳かな傲然とした口調に戻っていた。彼女の本来の目的は『偽りの駒王町』に攻め込んだコカビエルの回収。祐斗への接触は完全に気紛れであった。
故に其方の要件は切り上げ、本来の目的へと行動を移しその裂け目の先へと飛び込んで行った。
——この先には恐らく元部長やイッセー君達も居るだろう。もう僕は転生悪魔じゃない……。
また、眷属となるのだろうか? そう考えた自分が居る。
「…………いや、鞘には戻らない。戻る訳には行かない」
——自分から出て行った以上、裏切りに等しい。表立って戦う必要性は無いが、僕には僕の生きる理由がある。
祐斗は覚悟を決めた。復讐者には幸福は訪れない事は承知の上。こんな未来もあったのだろう。ならば、自分の目的の為に突き進むだけと、『偽りの駒王町』が見える裂け目へと飛び込んだ。