「…………」
書架と書籍が埋め尽くしている部屋。天井から吊るされた色褪せたシャンデリアと天蓋の窓から差し込む褪せた光がこの図書館と呼ぶべき部屋の中を照らしている。
その図書館のほぼ中央、長方形のテーブルの上に複数の駒が置かれていた。
真っ新な紙面の上に置かれた駒。紙には円が描かれており、その中に現代では余り見られないチェスの駒も複数類置かれていた。
「リアス・グレモリーは本人を除いて全滅状態。それは皓咲 狐花も同様」
円形の中に置かれていたジャマルの駒。その周囲にあったポーン、ナイト、クイーンの駒が倒されて取り除かれる。円形の遠回り気味の外に置かれていたダッバーダの駒の周囲に置かれていたビショップ、ルフ、フィルズの駒も取り除かれる。
「堕天使の連中はコカビエルを除き全滅、と」
ジャマルに相対して離れた位置に置かれていたキングの駒。その近くに置かれていたナイトとタリアの駒も除かれた。
「乱入して来た英国と人外連中は目的押さえて離脱、と」
円形の外、周辺に置かれていた複数のポーン、キング、クイーン、ナイト、ワズィールの駒が多数、取り除かれる。
「で、新たに現れたのは……ドラゴン擬き」
円形の中にキングの駒が新たに置かれる。
「更に追加で他の面子も現れた」
円形の外、其処にナイトの駒とダッバーダの駒を置いた。コレで紙面の上にはジャマル、キング、ダッバーダ、ナイトの駒がある事になっていた。
「で、招かれざる客は動く気配が無い、か」
そして駒の中で最も遠くに置かれた駒。その動きが殆ど無い為に違和感を感じざるを得ない。だが、観測者からすれば如何動くか予想出来ない為に楽しむ価値が生まれる。
「さて、如何動くか見物だな……。誰が生き残り誰がくたばる、か。をな」
紙面の上に置かれた駒の配置を見ている存在はそう呟き今回の一件の行末を見届けていた。
「この辺りなら充分、狙える筈」
溶岩に沈み行く駒王町。殆どの民家が焼け爛れ溶岩に沈んで行き足場が消えつつある中、狐花は新たに現れた『ドラゴン』を屠るべく最適な狙撃のポイントを見つけた。駒王町の中で比較的高い建物。しかし、溶岩の荒波に晒されて下位階は既に融解し沈みつつある。早急に離脱せねばこの建物も溶岩に飲み込まれてしまうだろう。
『揺れるやさかい。狙えるんか?』
「誤差の範囲。問題ない」
今も徐々に沈んでいる。その状態であっても狐花は『当てる』と言い切った。現在地点から例の『ドラゴン』の距離まで約1km程。狐花の絶対半径の半分程の距離、的が大きいとは言え悪環境。確実とは言い切れない筈である。
「……」
屋上の低い塀を銃架代わりに狐花は伏せて愛用のボーイズ対戦車ライフルを構えて伏せ撃ちの体勢を取る。
『お前はんの起こした溶融現象で上昇気流が彼方此方で起きとる。確実に煽られんで』
「分かっている」
——狙いは頭部。どんな生物でも頭部は急所。脳漿が砕かれれば命は無い。
狙うは『ドラゴン』の頭部。鉄仮面により頭部は覆われては居るが、破壊力を求めた弾丸ならば撃ち砕く事は不可能では無い。
『やたらと暴れてんな。爆ぜる溶岩の音に紛れて爆炎が見えんな。ツー事は、まだ生き残ってんやも知れへんな』
「知るか、そんな事」
恐らく学園では悪魔『グレモリー』とコカビエル一派が激突していた時に校舎を破壊しつつあの『ドラゴン』が現れた。その余波でアイラ達が絶命した。グレモリーのゴミ眷属も道連れになったか分からないし肝心の首魁の悪魔『グレモリー』が健在かどうかも不明のままであるが今の狐花にとっては如何でも良い事であった。
標的である『ドラゴン』は首が蛇の如く長い為に頭が揺れ動きその口から火球を吐き出して眼下に落としている。あの様子から未だにしぶとく生き残ったゴミが居る様である。
「チ、注意を引くのは良いけれど……引き付けた方がヘタクソだ」
『胴体にした方がええんちゃう? 先ずは当たらな話にならんやろ?』
『ドラゴン』は巨体の割には頭部は小さめに見える。そう考えるのならば胴体を先に狙い動きを鈍らせてから狙うのも一計とも言える。また先に交戦している連中が其の儘、トドメを指してくれる可能性もある。
「分かった」
狐花は五七の指示に従い一撃必殺から連撃必倒に方針を変更。頭は良く動くが胴体付近は然程、動いていない。その胴体の鱗を撃ち砕き倒れた所を狙う事に決めた。
『おぉぉぉぉぉおおぉぉぉばぁぁぁぁぁぁぁぁい‼︎』
『ドラゴン』が咆哮を上げたかと思うと鉄仮面の下の口内に赤く滾る炎を燻らせる光景が見えた。
「まずい」
そして放たれる竜巻の如き螺旋渦巻く火炎放射の様なレーザーが溶岩に沈む町中を縦横無尽に駆け巡らせる。その射程距離は優に3kmを超えて狐花のいた建物に届き一息で建物が融解し溶岩の中に融けて沈んで行く。
『おいおい、洒落にならんぞ‼︎』
狐花は直前に攻撃が来る事を察知して、横転しつつ跳躍して離脱。そして装填していた弾丸を真下に向けて放った。狐花は身体が非常に軽い、そしてボーイズ対戦車ライフルは反動が凄まじい銃器。その相乗による結果で空中で銃撃を行った狐花は上空へ大きく吹っ飛ぶ形となる。
「……気付かれたかな」
『おぉぉぉぉぉおおぉぉぉばぁぁぁぁぁぁぁぁい‼︎』
『ドラゴン』の咆哮と共に仮面の奥の双眸と上空に吹っ飛んだ狐花の双眸が合った。即ち、お互いの存在がお互いに認知された瞬間であった。
『ばぁぁ‼︎』
咆哮と共に業火を燻る火球が高速で飛来する。ガァンと言う撃鉄音が響き飛来した火球を飛び越える形で躱す狐花。そして受け身を取って構え直して銃口を『ドラゴン』の頭部へと定める。火球を放つ為に此方に視線を向けている。
「焦天、旱天、頸に語るは虚な滴。燥く燥く、赫く蒼穹に紡ぐ
詠唱と共に構え持つボーイズ対戦車ライフル。複数の魔法陣が重なり赤熱化して紅く染まる。そして自身の黒髪の毛先から追加で伸び炎の様に畝る八塩の髪がバサリの伸びて行く。そして右眼の眼窩から眼球を穿ち一輪の『皓い雷花』が咲いた。その現象に意にかさず狐花は詠唱を続ける。
「闃寂を
終盤の詠唱が終わると同時にボーイズ対戦車ライフルの銃口から天蓋花の花弁が撒き散らされると同時に狐花は反動で後方の空に吹き飛んだ。
『……ッ‼︎⁉︎』
その時、既に『ドラゴン』の頭部はまるで大型のギロチンで切断されたかの様に綺麗さっぱり消え去っていた。頭部を失った『ドラゴン』は咆哮も身動ぎせずに只々、沈黙した。