「……私、追われているのよ。要するに逃亡者。候補は他にもあったけど、日本神話が1番、理想だった。私が三大勢力の事も知っている事実は大きい傷跡を産む……」
「日本神話に保護を求める。と言う事?」
「有体に言ってしまえば、そうなるかな。私が出来る事は何でもするわ、ただ保護をって言っても通じない事くらいは理解している。ギブアンドテイクってね」
アイラは筆を描く動作を止めたままそう話す。アイラは逃亡者。つまり元々はある『組織』に属し、脱走した逃亡者と言う事。現状のままでは危うい。故に保護を求めた。だが、三大勢力と言う存在を知っているが故に無関係な組織に保護を求める訳にも行かない理由が彼女には存在する。保護を求めるその矢面に立ったのが日本神話であった。
『……俺様らに言った所で通用するとは限らんで、其処は分かっとんか?』
「物は試し、よ。手持ちのカードで勝負しなきゃならないのが現実なの。まさか、逃げて来た先の学校に三大勢力の悪魔が居るとは思っても居なかったわ。部室棟に篭っているから、人目を避けて居て何とかやり過ごせていると思ったら今度は追手に嗅ぎ付けられて今、戦々恐々でピンチって訳。其処に、貴方達が現れた。柄じゃないけれど、運命だと思ってね……」
『個人的な意味で、大変やな。おまはん……どうするんや?狐花、独断で決めんのは流石にヤベェんちゃう?』
「Carpe diem quam minimum credula postero」
五七も独断で決めんのは流石にマズいと思い狐花の意見を求めると彼女はそう告げた。
『あん?』
「決める事が出来る存在。今日、現れる」
『あー、あんま会いたく無いんやけど、そうやなぁ……』
「嘆願する相手に会わせる事は出来る。故に、後は貴方次第」
「……そう簡単に話が通るとは思って居ないわ。でも、ありがとう。狐花ちゃん。私と貴方はまだ会って2日しか経っていないのに」
「嫌いじゃないから」
狐花はアイラの事、嫌いじゃないと言った。それだけの簡素な理由。
『ま、狐花がそう言うんならええんちゃう?』
「貴方、さっきまで否定的だった癖に……」
『……ま、狐花が決めた事やし、俺様が愚痴愚痴言うんも、野暮やと言う話や。それにおまはんが嘆願する相手は、絶対的やからな。本音だけ言やぁええわ』
「えーと、言い出しておいてアレだけど、日本神話の神様よね?」
『あー、どっちかっつーと仏サンやな。神仏混淆とも言うから両方、護国と言う意味で存在すんねん……まぁ、会うたら分かるわ』
五七は遠い目をしながらそう告げた。何せ嘆願する相手は夜摩天なのだから……嘘は絶対に付けない絶対的な審判者。逆を言えば、確実たる信用を証明出来る手段とも言える。
「そう、心構えだけはしておくわね。それじゃあ、続きを描くからジッとしててね狐花ちゃん」
そしてアイラは筆を動かす手を再開させた。自分の事なのに意識の切り替えが早い。
『おまはん、ピンチやと言うのに動揺せえへんな……』
「今悩んでも仕方ないじゃない。為せば成る、為さねば成らぬと言うじゃない。後はその時にならなきゃ分からないでしょ?」
『まぁ、そりゃそうやけどさ。少しは緊張せえへんの?』
「……しない、と言えば嘘になるわね。もし、受け入れて貰えなかったら、どうしようって考える自分も居る。創作は絶対的な自信はあっても、そう言う事には自信は持てないかな」
『強がりすんなとは言わへんよ。そないな反応もするって分かっただけでもええよ。仏頂面のまんまやと、薄気味悪うてしゃあないわ』
「私、そんな顔してた?」
『さぁな、姿見なり何なり見やがれって事よ。それより手ェ、止まってんで? モタついてっと、狐花の奴。ヒマ過ぎて居眠り始めんで?寝たら起こすの大変やから、とっとと描いちまえ』
「わわっ⁉︎ 急かさないでよ‼︎ あーもう、絵の具跳ねちゃったじゃない‼︎」
『知るかいな、んなモン‼︎』
『おや、こんな所に居られましたか』
その時、アトリエの窓硝子を叩く音が聞こえた。外に視線を見やれば、其処には八咫烏の恐介が嘴で硝子を叩いていた。
『おー、烏かいな。何か分かったんか?』
五七は狐花の代わりに窓硝子を開け、恐介が中に飛び込んで来て定位置となった狐花の頭の上に止まる。
『ええ、悪魔の住処を発見しましたよ。気配の数からして片割れ勢力である『グレモリー』とその眷属達の一部の姿を確認しました』
「旧校舎の方で屯していたんじゃないかな?彼処は人間の一般生徒は元々近付かないし」
『おや、其方のお嬢さんは?』
「日本神話に保護?亡命?を希望する人」
『ふむ。成程……何やら事情がお有りの様ですね。丁度、沙汰を決する方がお越しになられますからその件は其方に任せると致しましょう』
恐介はアイラの素性に関して特に問う事は無く軽く流す。自分が何を言った所で今、変化が起きる事は無いと確信しているが故の言葉であった。
『お嬢さん。今し方、入手した情報によりますと『はぐれ悪魔』が駒王町に接近中との事です。恐らくグレモリーも遅かれ勘付く事でしょう』
『狐花。前みたいに即殺ってのは無シやで。流石に夜摩天様の前でやるのは不味ィからな……最低でもリスト見てからにしぃーよ?』
「ん、分かった……」
『先に越される訳にも行きませんが、学園の都合上、そうも行きません。が、到達まで時間があるのも事実と言えるでしょう。放課後頃の時刻に侵入する可能性が高いと思われます』
「あはは、その辺の事情は分からないけど、大変そうね……」
『ぶっちゃけ、其方よりも狐花の行動を見張る方がシンドイねんけどな。まぁ、ええやろ……で、はぐれ見つけてぇ、該当するんやったらどないすんねん?其処ら辺、聞いとらんし……』
『その時、説明致しますよ。説明しても蛇足でしょうから、今は致しませんが』
『ほぉー、そないか。まぁ、ええわ。現れたはぐれが酌量余地無いんやったら、そのまま、サイナラさせるだけやしな』