火種は燻るモノ
『深夜0時頃に駒王町全域にて大規模な火災が発生しました。火は午前5時頃に消し止められました。局所的な火災と言うよりも全域での尚且つ民家や建物には延焼せず路上や公園等にのみ燃え広がると言う特異的な炎上の仕方と言う奇妙な火災であったと消防、警察関係者の調べになります。この火災での死者は確認されていませんが軽傷者は数百人には上るとされています。尚、火災当時に目撃者によると複数台の大型タンクローリーが駒王町にて走っており爆発したとの証言が挙げられており大型タンクローリーの所有者を調べています。
また駒王町では以前よりカルト宗教による駒王警察署の爆破事件が発生しており関連性が無いか警視庁は捜査本部の捜査エリアを拡大して調査を進めています。
たった今、新たな情報が入りました。駒王町のほぼ中央に位置する駒王学園の本校舎がほぼ全焼していた模様です。幸い怪我人は居ませんでした。駒王学園に至っては旧校舎が爆発事故が発生したばかりで在校生の保護者は不安する声も上がっています』
『駒王大火災』と銘打たれた駒王町全域に及んだ火災事件は駒王学園の校舎を全焼させると言う駒王学園の生徒に取っては色々な意味で衝撃的な事実を突き付けたのだった。学業とか諸々はどうなるのかと言う不安の声も多数上がった矢先——在校生の自宅に一本の電話が届いた。要約するとこうであった。
『駒王学園の健全な状態の生徒は午前10時頃に駒王市民会館のホールに集合して下さい。今後の予定を説明します』
基本的には担任教師からその様な電話が各家庭に寄せられたのだ。教師等は無事であり生徒家庭の無事の確認も兼ねた連絡であった。その為、本日は全焼した校舎ではなく駒王市民会館に生徒達が集まる事となった。
「……予想はしていたが、やはり想定よりも少ないな」
駒王市民会館の大ホール隣の控室。その部屋の机の上に積まれた書類を整理するのは紫先生であった。
「今回の件で転校を決意した家庭も少なからずあります。その上、例の3名の猥褻行為の影響もありますからね」
「普通に損害賠償とか請求とか退学とかあり得た話だがなぁ。仕事を全くしない理事長は保身の事は一丁前にやっていた見てぇですしね」
本来ならば兵藤、松田、元浜の行為は厳重注意、書類送検、或いは刑事事件として逮捕の視野にも入ってくる。だが、駒王学園の理事長は問題を表面化する事を嫌がり隠蔽して無かった事にしていた様である。
「が、それも昨日までの話。結果、色々と前倒しになっちまったって話でもあるのだが……」
紫先生を筆頭とした理事長の不信任決議を提出したかったが、不信任決議は本人に直接渡さねばならないと言う規則が存在する。その矢先に今回の駒王大火災で本校者が全焼した。
その当日の内に私立である駒王学園の全権をある人物が一括払いで全て買い取り前理事長の権限全てを撤廃し追放処分にしたのだ。中々、大胆な真似と言えるが前理事長に不満が多かったのもまた事実故に受け入れられた。
「……唐突気味に企画されていた校外合宿を実行している間に本校舎を建て直すと言う荒技に出たのですね」
「まぁ、青空教室と言う案もあったっちゃあ、あったが……7月頭だと色々、詰まり過ぎるから良かったと言うべきか……」
そして午前中から駒王学園の敷地内には多数の建築関連の車両やブルーシートで覆われて急ピッチで再築が行われていると言う。その理事長は凄まじい行動力と言える。
「それから、学科も増やすつもりみたいですよ?」
「その辺はさっぱりだしなぁ。まぁ、なる様になるしか無いですな。編入学をして生徒を集めるのかも……次の理事長も中々、面倒な真似をするかも知れないなぁ……」
それでも全く姿を見せなかった前理事長よりかは面と向かって文句を言えるだけマシかも知れない。
「紫先生。そろそろ時間ですね」
控室に架けられた時計の針は55分を指していた。少し早いが説明会を始めるべきだろう。
「……はぁ、何故、俺が説明する役割なんだろうな。学年主任を務めた覚えは無いんだけど」
「バイタリティが強い教師は貴方くらいですからね。貴方が説明する方が説得力がありますよ」
「……他の教師が役立たずみたいな言い方ですね、それ」
「事実です」
明日風先生は普通に認めた。まぁ、以前に置き物と化していた無能教師を辞職に追い込んだ実績があるので容赦なささは平常運転の様である。
控室を出て生徒一同が集まる大ホールへと入場する。其処では各教室の担任教師の指示で学年別に整列する形で待機していた。壇上から見やればやはりクラス事に人数差があるのが見て取れた。少ない所だと10人程、少ない様にも見える。体調不良や家庭間の切迫、或いは転校したかの何れかであろう。
『……あー、テステス』
紫先生は壇上に立ちマイクを持って生徒達の注目を集める。
『堅苦しい挨拶は要らんから、しない。取り敢えず此処に集まった生徒諸君は無事で何よりだ』
「先生ー‼︎ 今日はチュッパチャプスは舐めないんですかー?」
その時、担当しているクラスの生徒からそんな声が聞こえて来た。
『あー、今日は忘れた。つーか、こんな場所でもチュッパチャプス舐めとったら明日風先生にボコられるからな』
その言葉で笑いの声が各所から聞こえてくる。何気に場が和んだ。ついでに壁側に立っている明日風先生から冷徹な視線を向けられた。
『でー、駒王学園に関してなんだが、全く仕事しねー理事長が辞職に叩き落とされて新理事長に変わった。校舎に関しては先の駒王町の大火災で全焼しちまったから現在進行形で再建中だ。何でも君達が履修している普通科の他に新学科を設けるだの聞いている。まぁ、嫌な予感しかしないがなぁ……その辺は分かり次第、通達する様にするから、気長に待っとけ。
それで、その間、如何するのかと言うと通達していた東京の方の郊外合宿を前倒しで実施する運びとなった。急な話なのは教員も含めて同じ気持ちだ。詳細は改めてプリントを配布するから各自で確認する様に。
で、集合時間や場所に関してはと言うと急な話しなので2日後の午前5時半、此処……市民会館前に集合する様にな。5時半になったら出発するから其れまでに集合。居ない者は欠席と言う形になるからドタキャンする奴は自由にしてくれ』
最後のぶっちゃけな言葉に又しても笑いの声が上がる。そもそも紫先生は今回の校外学習は乗り気では無いからだ。参加は自由と言う形を取った。
『取り敢えず、簡単な説明は以上だ。質問なら、答えられる範囲で答えるぞ』
「先生ー‼︎ おやつは何円までですかー⁉︎」
『んなもん、買う店で値段マチマチだから大小合わせて5袋までとする。だからと言って業務用とか持って来んじゃねぇぞ? 嵩張る上に邪魔だからな。後、ポイ捨てするんじゃねぇぞ』
くだらない質問に対しても紫先生は律儀に答えた。そしてポイ捨て禁止の旨も伝えた。
「センセー‼︎
『不許可だ‼︎』
「せめて、内容くらい言わせてくれェェェェ‼︎‼︎」
松田の質問は速やかに遮断され号哭の声を上げた。聞く価値すら持たれなかった様である。南無。
『兵藤、松田、元浜。お前らは参加の場合は合宿中はカプセルホテルな。100%の確率で風呂覗き行為するのが目に見えて分かる』
「「「なっ‼︎⁉︎」」」
壇上の紫先生のその言葉で周囲の女子生徒達は冷ややかな視線を三馬鹿ことイッセー達に向けていた。中には露骨に軽蔑の視線を向けたり嫌悪の視線を見せる者達もいる。
「せ、先生‼︎ それはアンマリだ‼︎ 差別だ、差別は行けないと思います‼︎」
「そうだそうだ‼︎ 俺達に自由を‼︎ 何で俺達だけ夢も花も無いカプセルホテルなどと言う宿泊施設で夜を明かさないと行けないんだ‼︎」
「合宿と言う青春にそんな灰色全開の1ページを刻もうなんて横暴だ‼︎ 美少女、美女の覗きをするのが何が悪いって言うんだ‼︎」
『お前らの行動の成果だ。お前らのやっている事は犯罪行為だと自覚しろ、馬鹿者。民間のホテルでそんな真似をしたら、今度こそ現行犯で逮捕モンだ。馬鹿野郎』
三馬鹿の抗議は続くも却下されて話が進められた。
『他に質問が無ければ説明会を終了とする』