時間と言うモノは如何なる干渉を受け付けず悠然と歩き続ける。ありとあらゆる事象にも視線を向けずただ、只管に進めていく。その先は破滅か楽園かその何方かに続いているのか知ってか知らずか。
『……受けた報告はその様な形になるかな』
「はぁ……」
フェニックス家、ライザー領のライザー城の一室。その部屋で城の主人であるライザー・フェニックスは気の抜けた声でそう相槌を打った。相手は魔王サーゼクスであるが為に本来ならば不敬モノ。しかし、心境としてはそうせざるを得ない程に内心は呆れていた。
タダでさえ『劫魃』の影響が未だに尾を引いていると言うのに更にややこしいモノを押し付けられては内心では舌打ちをしたくなる。
既に眼前のホログラム越しのサーゼクスから『日本神話との交渉』や『離反組との復縁』と言う無理難題にも等しい内容の大公依頼を半ば無理矢理な形で押し付けられているのだから。
——いや、コカビエルとかの報告を此方に寄せられても困るんだが⁉︎ と言うか事後報告だよね、それ‼︎
『劫魃』の影響により甚大なる損害を被った自前の領土の復興に注力していたライザー。ライザー以下の眷属達の尽力により城下はほぼ賑わいを取り戻しつつあった。流石に全域にまでは及んでは居ないが少なくとも他家の領土と比較すれば多少は改善具合は上回ると自負出来る。
その復興業務も佳境に差し掛かっていると言うのに嫌がらせかと思う絶妙なタイミングでまたもや面倒事を持ち込んできたサーゼクスに対してライザーは内心で盛大な舌打ちをしたのだった。
その内容は『コカビエルが引き起こした事件。三大勢力の全てを巻き込んだエクスカリバー事件の内容は歪な均衡を保っていた三大勢力の関係を揺るがす事件だった。その為、三方のトップが一堂に介して三竦みの関係について面を合わせて会議する運びとなった』との事。何故、ライザー自身がその会議巻き込まれるのか理解出来なかった。
その理由は場所が場所であった、何せ事件を引き起こしたのが絶賛関係が冷え込んでいる日本神話が席巻する日本の駒王町の駒王学園であったからだ。事件が起きた所在地である駒王学園で会議を行おうと調整を進めている……この時点で色々な意味でツッコミ所、満載であった。
——と言うか場所、考えろよ⁉︎ この、無能‼︎ 何故、態々喧嘩を売る様な真似ばかりするんだ‼︎ 明らかにお前らが挑発しているだろうが‼︎ と言うか俺、関係ないよね⁉︎ 今回のコカビエル案件に0から100まで関与した覚えは一切無いんだけど⁉︎
サーゼクスの後方に控える眷属達も必死に表情に出さないようにしつつも『こんなのが魔王で悪魔はこの先、大丈夫なのか?』と心底、心配になって来た。倒閣ならぬ倒魔王とか起きても不思議では無い。
「御言葉ですが、サーゼクス様……」
『それと並行して日本神話と会談の機会を設けたいんだ。流石に場所が場所だし……三竦みのトップが立ち会えば向こうも出て来るんじゃ無いかなってね。君にも同席して欲しいんだ』
——話聞けよ、この無能ォ‼︎ 絶対友好的な会談にならないって、寧ろ戦争になるっての‼︎ その癖、現場に居合わせたシトリーは兎も角、グレモリーも来るんだろ⁉︎ 俺じゃ無くても気不味いわッ‼︎
その上に会談の席には当事者としてリアスとソーナも同席に当時の状況を報告すると言う場も設けられる。元婚約者であったライザーからすると余り面と向かって対面する気にはなれない。
と言うか、そんな事は冥界でやれば良いのに何故、態々、人間界の日本でやろうとするのか。当人達は『日本神話とのイザコザも解消したい』と思っているだろうが、どう考えても荒らすだけ荒らしてまだ飽き足りないのかと返って怒らせる羽目になる事に頭が動いていないのかと言いたい。
『今回の一件はコカビエルの一件と片付けるには時期尚早だ。駒王学園は何かと縁がある様だ。私の妹やセラフォルーの妹が通い、伝説の赤龍帝、天界の者達の介入に加えて、日本神話の者達も居る。その上にコカビエルが来襲した。コレだけの要素を単なる偶然と片付けるには余りにも出来過ぎていると私は考えている。各勢力の力が畝りとなって渦巻いて居る。その畝りを加速させているのが赤龍帝だと私は思うのだよ』
——ぶっちゃけると、100%場を引っ掻き回しているのは『祟り神』の方だと思うんだが……。
ついでに言うならその伝説の赤龍帝は今では見事な海老扱いである。
『故に、その地が何かしらの因縁があると考えて会談の場をと、進言した。アザゼルもミカエルも快諾したよ』
肩を竦めるサーゼクスだがライザーは『他に言うべき相手居るだろ⁉︎』と叫びたい衝動に駆られた。勝手に他人の領域で重要な話をするんじゃないと文句を言われても可笑しく無いだろう。
『……だが、此方から突然、出向いたら日本神話側に在らぬ誤解を与えかねない。以前、セラフォルーと日本神話の突発的な会談で一触即発の状態に縺れ込んだ実例がある。そこでライザー君、日本神話との交渉は何処まで進んでいるんだい?』
——此処で、その話題かッ‼︎ 此方も此方で忙しいんだから手が回る以前に、応対謝絶なんだから無謀な話だっての‼︎ と言うかどうしろと言うんだ‼︎
『全く進んでいません』と率直に伝える訳にも行かない。婚約破棄の一件が尾を引いている為に迂闊な対応は危険だった。
「……魔王様。大変お恥ずかしい話ではありますが、かなり難航中です。そもそも連絡の手段がありません。件の離反者達とも連絡が付き難いのも拍車を掛けています」
『ふむ……やはりそう事は上手くは運んではくれないか』
——普通に冥界の何処かの会議場を使えば良いのに……如何して面倒な真似ばかりするんだ。
『取り敢えず会談の予定日までまだ日があるから、何とかコンタクトを取って欲しい。ああ、私は急用が入ったから失礼する。では、頼んだよ』
サーゼクスは又もや、その様な終わらし方をして通話は終了した。
「…………」
「ライザー様……」
近くのソファに腰を深く沈めてライザーは右手で額を押さえて唸った。何をどう間違えればこの様な事態に陥るのか、殆、ウンザリしてしまう。
「ライザー様。胃腸薬です」
心中を察した『女王』であるユーベルーナはライザーの前に『ヘンゼル製薬:鏖式胃腸薬』とコップに水を入れたモノを差し出し、ライザーは無言でその薬剤を飲み干した。
「……ハァ、全く如何してこうなるのやら」
——殆ど手詰まりに近い状態だ。コカビエルの案件が何処までの影響を及ぼして居るのかは現段階では未解明の部分が多いが、少なくとも場所が場所故に……日本神話も黙りはしないだろう。その状態で会談に望もうとは、成功させる事が出来る自信は何処にあると言うんだ。
「如何致しましょう?」
「そうだ、な。差し当たり日本神話と離反組か、少なからず関係は匂わせているのは分かっている。ただ、全幅とまでは行かないだろう。でなければ『祟り神』の脅威の必要性が逆になっていた筈だ」
唸ってばかりは居られない自分は『王』なのだ。惚けていられる程、軽い椅子では無いのだ。
「となれば、切り込み口はやはり離反組の分家からだな」
解決困難な事態ではあるが尻込みばかりはして居られない。殆ど、ではあるが、完全に手詰まりでは無い。故に足掻けるだけ足掻いて見よう……そう言う心境でライザーは行動を開始した。先ずは手始めに分家の方に連絡を入れる事から始めた。
「ライザー・フェニックスだ。急な話で悪いのだが……一度、面と向かって対談を申し込みたい。悪魔陣営、では無く……俺個人として、な」