雷ガ咲く花園デ   作:夢現図書館

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黒血球

 

 

 

「耳を貸すな、ソーナ・シトリー‼︎‼︎」

 

 

 

 

 

 崩れたセラフォルーの顔がソーナの頭を齧ろうとしたその刹那。近くのガラス壁が破砕され、何者かが割り込み、セラフォルーの顔の側面から思い切り殴り付け僅かに仰反らせた。

 

『グキギギ……ギゴッ……‼︎』

 

 セラフォルー顔は殴られた衝撃で一部が崩れ半壊した。粘性であるが故に衝撃を受けて弾けて飛散した様である。言葉にならない呻き声を上げながら僅かに後退した。

 

「あ、貴方は……サイラオーグ⁉︎」

 

「暫くぶりだな。よもや、此処で会うとは思っては居なかったが」

 

 ソーナの前に現れたのは黒髪の偉丈夫の青年。大王家であるバアル家の嫡男であり魔力史上主義の悪魔社会の中で一切の魔力を持たず生まれたが故の不遇の境遇から実力行使でのし上がり若手悪魔筆頭と目されるサイラオーグ・バアルであった。

 

『ゾォォナ……チャン……‼︎』

 

 崩れた顔は蒸気を発して瞬時に再生した。スライム故か復活も早いのだろう。だが、それでも見た目の不気味さは冥界に生息するスライムとは迫力が違う。

 

「……やはり何度、攻撃しても無駄か。一先ず今は状況把握も兼ねて逃げるぞ‼︎」

 

 サイラオーグの殴り付けた拳。いや、その手は焼け爛れたかの様に皮膚が捲れ肉が剥き出しで血が滴っていた。

 

「な、何が何だか分かんないですよ‼︎」

 

『ソォォォナ、チャァァン。イッショニ』

 

「ソーナ。耳を貸すな、アレはセラフォルー様では無い‼︎」

 

 サライオーグの提案に乗りソーナは元士郎を連れて踵を返す様に逃走。セラフォルーの顔はその行動を見て這いずる様に追跡を開始した。赤い闇はまだまだ続いている……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 謎のスライム生物から逃亡したソーナ、サライオーグ、元士郎は何処かの廊下の一角にて息を整える。白一色の廊下は今では赤い色をした闇に未だに包まれている。

 

「サイラオーグ……貴方は何故、此処に?」

 

「……大方、君と同じ理由だ。母上の、病を治す手掛かりを訪ねに来たのだ」

 

「サイラオーグの母君は確か……」

 

——病に倒れてシトリー領の病院に入院、でしたね。未だに目覚めないとも、聞いています。未知の病の可能性もありますし……。

 

「それに、我が眷属は小細工が苦手な正面突破派だ。ゲームでは策略を武器にせねばならぬ時もある。参謀役も、と考えて此処に来た」

 

 サライオーグの眷属はフルメンバー。しかし、殆どが脳筋戦法と言って良い。故に搦手は苦手な傾向があった。眷属はこれ以上、増やせない。その時、研究者でありフリーな存在であるレーキュの噂を聞き、訪ねて来たと言う。

 

「成程。私も予想は出来るかと思いますが父が眠り病の兆候が現れ……治療の術を尋ねに来たのです」

 

「そうか……あの大火災の影響は冥界全体に大きく響いた。皆が皆、領土の復興に躍起になっている。旗頭が潰えれば瓦解する。当然の行動だな」

 

「そ、それよりサイラオーグ様。あ、あの黒いスライムみたいなのは何ですか⁉︎」

 

 其処で元士郎がサライオーグに先ほどのセラフォルーの顔やその他、多数の悪魔の顔が浮かび上がっている巨大なスライムに付いて尋ねた。

 

「俺も良く分からん」

 

「……お姉様の顔が浮かんでいたのは?」

 

 サイラオーグは『耳を貸すな』、『セラフォルーでは無い』と言った。その理由を問う。その周辺の廊下には多数の悪魔の死骸が転がっていた。

 

「俺が奴を初めて見た時、母上の顔が浮かび、誘う様な声を掛けて来たんだ。母上は今も病院で目覚めないまま、だから分かった。ソーナの例を考慮するとなれば、身近な者に変化させているのだと俺は思う」

 

「滅茶苦茶卑劣じゃないっすか、それ」

 

 だから、ソーナが見た時にはセラフォルーの顔が浮かび上がり、取り込もうとして来たのだろう。

 

「少なくともあの様なスライムは冥界には存在しません。聞いた事もありませんし」

 

「うむ。魔王様達も彼女の能力は把握しきれていないそうだ……もしかしたら異界の生物やも知れない」

 

 異世界の生命体を連れていた。その生物が侵入して来た悪魔を貪り喰っている。想像するだけでも怖気が込み上げる。

 

「……あと、奴は幾ら攻撃しても無駄だ。身体が幾ら損壊しても再生、復活、回復して元通り……不死身か不死と言って良い」

 

「嘘だろ。倒す術が無いと言うんですか⁉︎」

 

「ああ。渾身の一撃を何度も叩き込んだ。色が一部違う中央の顔が本体かと思い、攻撃を加えて何回も粉砕させた。少なくとも20回以上は殺した、筈だ。なのに、煙が出た途端に再生したんだ。その癖、触れた途端に此方が焼け爛れて溶ける始末。浮かんでいた顔に噛まれた時は一瞬で噛まれた所が溶かされた……念の為に持っていた『フェニックスの涙』が無ければ危なかった」

 

 サイラオーグはそう告げ自身の腕を見やる。鍛えに鍛えた肉体。生半可な攻撃では効かない身体だと言うのに嘲笑う様に溶かして来る。殴り付けた拳の皮膚は焼け爛れて血が出ている。

 

「「…………」」

 

 その話を聞き元士郎は思わず顔面が蒼白した。ソーナも冷や汗を流しつつ現実を把握する。

 

「何それ、攻撃してダメージを負わせても瞬時に回復して……攻撃を喰らったり触れたりしたら即死しかねないって言うんすか⁉︎」

 

 幾ら強くても倒せない状態では消耗する一方だ。何れは力尽きる事になる。例えタフネスがあろうとも際限なく再生する相手では埒が明かない。

 

「ああ、端的に説明すればそうなるな……俺は魔力を持たないから愚直に殴り飛ばす事しか出来んから、他の手立てが有効かはまでは分からん」

 

「この建物の壁を破壊して逃げなかったのですか? 貴方なら破壊する事など容易いでしょう?」

 

「無駄だ。この建物にある壁は壊しても壊した瞬間に再生してあっという間に穴を塞いでしまう。怪我した時に瘡蓋が出来て傷口に蓋をして塞ぐ、と言う感じだな」

 

「まるでこの建物自体が生き物みたいですね……」

 

「……だとすると俺達、ウイルスみたいな者であの黒いスライムが白血球見たいじゃないすか⁉︎」

 

 上手い例え方だとソーナは心の中で感じ取れてしまった。配役を考えるとその様な構図になるだろう。廊下が血管、死骸は壊れたウイルス菌。そして黒いスライムが白血球かキラーT細胞となる。

 

『ソーナ、チャン。イッショニ』

 

 遠くから黒いスライムがセラフォルーの声を発しながら水音を立ててこの付近に近付いて来る。如何やら此処まで追って来ている。

 

「げ、来やがった‼︎」

 

「不味いな。ソーナ、魔法は試したか⁉︎」

 

「い、いえ、ま」

 

『ソーナ、チャン、イタァ』

 

「ぎゃあああァァァァ‼︎⁉︎ 壁を擦り抜けて来やがったぞ、コイツゥゥ‼︎‼︎」

 

 遠くから聞こえていた黒いスライムの声。その直後、壁から湧き出る形でソーナ達の前に現れた。正に遊走。

 

「くっ、お姉様の顔を使うなんて卑劣な……‼︎」

 

 ソーナは複数の魔法陣を展開して水流の槍を形成し黒いスライムに向けて射出。その槍が深々と突き刺さった事により黒いスライムに浮かび上がった複数の顔が弾け飛び、顔の部分が失われた。

 

『ぐぎ、ぐぐぐぎ……‼︎』

 

 しかし、煙が噴き出すと同時に再生し顔が復活した。そして赤い顔は今度は2つに増えていた。その顔はソーナでもサイラオーグに関連する人物では無かった。

 

『オニーチャン』

『オニーチャン』

『アソボ、アソボ』

『イッショニ、ナロウ、ナロウ』

 

「ガァァァァ‼︎‼︎ テメェ、巫山戯んじゃねぇよ⁉︎」

 

 そう、元士郎の弟と妹の顔が浮かび上がっていた。その聞き覚えのある声で誘っている。

 

「打撃も魔法も効果は薄い、か。こうなると神器の能力も通じなさそうだ……‼︎ せめて結界系か妨害系でなければ……」

 

 這いずる様に迫り来る黒いスライムは口々に声を上げながらソーナ達に迫る。迂闊に触れれば溶かされ、軈て死ぬだろう。

 

「この、巫山戯たスライムだ‼︎ 見てろよ……‼︎」

 

 元士郎は右手を掲げて自身の神器を顕現させる。『黒い龍脈』、それが元士郎に宿る神器。対象のエネルギーを吸収すると言う能力を持つ。

 

「好きなだけ再生してろ、再生するにしても何らかのエネルギーが居るだろ⁉︎だったら再生出来なくなるまで吸い取ってやるよ‼︎」

 

 そう宣言して右腕を突き出し——。

 

 

 

 

 

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