放課後。恐介の報告でこの時刻頃にはぐれ悪魔がこの近辺に到達すると言う模様。町全体を覆って居た悪魔にとっては心地良いが、それ以外の勢力からしたら気を感じ取る際に障害となる瘴気が晴れた事により気を感じ取る際に容易にかつ鮮明となった今、造作も無い。
『……おー、おるな。この先から感じ取れるわな。随分と弱ぁなっとるがな。ついでに学園に悪魔共数十匹はまだ屯しておる様やから、先越される可能性は低そうやな……が、さっさとやるのが吉やで』
『生気が貧弱ですねぇ。となると、随分と弱っておられで……この町に広まっている破邪の気にあてられての追い討ちでくたばり掛けて居るのでは無いでしょうか?』
頭上から五七と恐介はその様に告げてくる。かく言う狐花は紙媒体の運命から外れ悪魔による転生化、及び死亡後に即座に悪魔化を果たした日本人達の名簿に目を通しながら聞き流して居る。
「其の儘、くたばってくれると後が楽。一々、確認するのも面倒臭いし……やっぱり八裂きにして阿鼻地獄行きにさせた方が良い。悪魔に魂を売ったんだから当然の報い」
しかし、狐花は余り乗り気では無かった。転生悪魔の事情など知らんと言わんばかりの言動である。どの様な事情であれ悪魔に魂を売る行為は唾棄すべき所業だと断じている。人間では無い以上、考慮する余地は無し。容赦亡き判断であった。
『相変わらずやなぁ……』
「ハッキリしているわね。兎も角、こんなに居るの?三大勢力……と言うか悪魔絡みの眷属化の被害者って」
狐花のその隣には日本神話に亡命及び帰属を希望するアイラが狐花の持つリストを覗き見て軽く呻く。名簿の紙面にズラリと並ぶ名前の数。そしてその紙媒体自体も相応に分厚い。それらが夜摩天から渡された転生悪魔と化した日本人達(妖及びミックス含む)のリストである。
其処にはどう言った理由で転生悪魔化した事も書かれて居た。大半が『死亡後』と言う文字が綴られている事から死亡した直後に『悪魔の駒』による無理矢理な蘇生が行われた事を示して居た。
「本音を言えば転生悪魔を片っ端から惨殺して行けば、良いと思うんだけど……面倒」
「あ、あはは……狐花ちゃんって、結構好き嫌いがハッキリしているわね」
悪魔社会は繁殖能力が低く(純血悪魔だと殊更、低い)転生悪魔を作り存続を目論んでいる節がある。逆を言えば転生悪魔を屠り続ければ時間は掛かるが何れは死滅させる事が出来る、理論上は。
『あのー、お嬢さん? それだと後で夜摩天様から怒られちゃいますよ?ええ、純血悪魔ならばお構いなく骨も残さずに仕留めちゃっても文句は言われませんけれども……流石に転生悪魔とは言え、元々は人の子の場合もありますから……』
恐介は狐花の強硬策を何とか思い留まらせようとする。目的達成の為ならば犠牲も止む無しと言う姿勢である外道な思想も混在している。
「死した人は死なせてあげるべき。如何なる『運命』を以って生を全うした以上その生は不変であり侵すべからず。生かす事が必ずしも善とは限らないから」
『運命』は変わらない。本人が乗り越えたのならばいざ知らず、悪魔と言う現実と乖離した存在が曲げる行為は認める訳には行かない。死を冒涜する行為は断じて許す訳には行かないからだ。
『……お嬢さんは本当に悪魔が気に入らないのですね』
「嫌い。と言うか死ね。然も無くば去ね」
にべもなく狐花は言い切った。どうやら生理的に受け付けられないと言った風体も感じられる。もしかすると種族的にも受け入れられない事情があるのかも知れない。
『そろそろ、気配が分かる所やで。流石に会わんと分からんが一応、用心しとき。それから、アイラの嬢ちゃんは後ろに下がっとき。巻き込まれて死んでもうたら災難やからな』
「あはは、確かに死んだら元の子も無いかな」
『はぐれ悪魔』との距離が間近となった。その場所は川沿いの河原が広がって居る場所であった。黄昏時を迎えつつある時刻、それは逢魔時の刻である。古来よりこの時刻を以って、禍群の者共が這い寄る時刻……。
『血の臭いもしよるなぁ……こりゃ、文句無しの殲滅戦やも知れんで?狐花、流石に人目に触れるとヤバい』
「もうやって居る。場所も見当が付いている、橋の袂付近の下、其処に潜んでいる」
見やれば狐花の指には札が握られており既に紋様が浮かんでいる。それらを投げると狐花が指定した位置に突き刺さり、認識阻害と障壁を成す結界を作り出す。だが、今回は橋と言う構造物の造形上、完全に遮断すると通行するかも知れない一般人に不審感を持たれかねない。故に人祓いの結界も同時に張った。
『お見事です。お嬢さん、腕が上達なさって居られますね』
『何処がやねん。コレぐらい、出来て貰わんとやってられんやろうが……つーか、制御出来てへんから三流も良えとこや』
『おやおや、お厳しい事でして……』
「うっさい」
お付きの2匹のやり取りを聞いて狐花は軽く青筋を浮かべて文句を垂れた後、結界の中へと入る。橋の下にも河原が広がって居る為に、風雨を凌ぐ目的であるならば有能と言える。最も洪水になれば砂利諸共、流されるだろうが、あくまで一時的な措置と言える。
「…………」
河原にはまだ新しい血痕が点々と残っていた。それは被害者か当事者かは分からない。が、消耗しているのは確かである。害悪ならば屠る、そうでは無かった時は……?
橋の下の方に覗き込むと、其処には肩で息をして片腕を抑える1人の尼僧の少女が河原の坂に腰掛けている姿が見えた。その背中には千切れかけた悪魔特有の翼が力なく伸びていた。
「……ッ⁉︎」
『コレ、完全に逃げてきた風体の状態のはぐれ悪魔、やな』
気配を察してか視線が合う。青白い長髪にカチューシャを付けた半色の双眸をした少女。その頬にも切れ傷により血を流している。身に纏っている花柄の意匠が模る服も所々、破れており痛々しく落魄れた姿であった。
「……神の遣い……でしょうか……?」
その少女から見て狐花は神の遣い、天使の姿に見えた様だ。
「貴方の言う『神』は存在しないと思うよ。なら、貴方ははぐれ悪魔以前に悪魔にすらなって居ない筈だから」
少女の言葉に狐花はそう返答し、一枚の札を顕現させその姿が長大な銃身へと姿を変える。
存在の認識欺瞞させていたボーイズ対戦車ライフルであった。
『お、おい狐花⁉︎』
五七の静止を黙殺し狐花はその銃口を少女の眼前に突き付ける。至近距離で放てば目の前の少女の顎から上を脳漿共々、吹き飛ばして無惨な死体に変容させる事だろう。
「……貴方は死の天使様なんですね。悪魔へと身を堕とした、この私に罰を……‼︎」
狐花の気分次第で、『死』と言う運命を突き付けられると言うのに目の前の少女は、両手を合わせて祈り双眸を閉じた。死を受け入れる、そう言い切るかの様に。
「悪魔と言う醜悪な姿に身を堕とした。背信に他なりません……コレも神の意志。悪魔に窶した罰……謹んでお受けします」
その時、彼女の口の端から血が滴り落ちる。悪魔に窶したと雖も祈りは辞めない。
『お、お嬢さん……?』
ガァン‼︎ とサイレンサー抜きの発砲。放たれた弾丸は少女の耳朶ギリギリを掠めて後方の坂に減り込む。その際の着弾後の摩擦熱で煙が燻る。
「殺す?何故? 神の意志?知らないよ、そんなモノ。貴方が
「えっと、どう言う意味なのかしら?」
『狐花って偶に訳分からん事を吐かすからな。気ぃ付けや?」
狐花の言葉にアイラに疑問符を浮かべる。五七も狐花の言葉の意味が偶に分からなくなる。その時は大概、荒唐無稽な事を言う時が大半でありツッコむか呆れるかの2択。だが、今回は特に理解出来ない。