『お人好し』と言う言葉は騙し易いと言う意味だ。
「サイラオーグ‼︎ しっかり掴まってて下さい‼︎」
「それは問題無いが……2人同時には流石にしんどくは無いか⁉︎」
「はい。主に貴方が1番重いです‼︎」
「筋肉質で悪かった‼︎ この時ばかりは筋肉量故に心底、すまなかった‼︎」
「か、会長‼︎ このペースだと追い付かれますッ‼︎」
『オニィィィチャァァン‼︎ オニィィィチャァァン‼︎』
『ソーナチャン、ソーナ、チャン』
『サイラ、オーグ……ワタシハココヨ』
眼下に溢れんばかりの黒いスライムが上昇して来る。螺旋階段の階段は黒スライムの粘性の腕で悉く破壊され落下して行った。残された手段はソーナが悪魔の羽を広げて飛んで上へ上へと逃げる事であった。サイラオーグは魔力は空っきし、元士郎は飛べる程の技量は無い。故にソーナが野郎2人分を引っ張る形で飛ぶ他に道は無かった。
だが、悪魔とは言えどソーナの腕力は女と言う事実を差し置いても怪力と言う訳では無い。流石に2人分(主にサイラオーグの筋肉量)を持ち上げて飛行するのはソーナにとっても困難な部類に入るだろう。
『アァ、アァァア……‼︎』
『ドウシテ、ドウシテ……ニゲル?』
『ワタシハ、ココニ、イルノニ』
『ナゼ、イキテイル? ワタシハ』
増殖を繰り返して量を増し続ける黒スライムに変化が現れ始めた。それはグチャグチャな粘性の中に次々と瞼が開き、ピンク色の眸が様々な向きとなって現れたのだ。噴出する黒スライムの粒にも小さな瞳が開き続け、この上なく不気味な光景が視界に広がる。
「うわ、キモッ⁉︎ スライムに目なんてあったのか⁉︎」
「やはり冥界の生物では無いな……‼︎」
その開かれた眸は全てソーナ達を見ていた。そして、今度は無数の牙が揃う口が各地に開いて現れる。目の位置と口の位置がバラバラで混ざり合い悍ましさが更に増して来る。
『CRAZY IS MYSELF?』
「奴は、今、何と言った?」
黒スライムの言葉が可笑しくなった事にサイラオーグは顰める。悪魔と言う特性上、その言葉は理解出来る言語として理解出来るのだが、黒スライムの言葉は全く分からなかった。
『GENOCIDE GIRLS OR ARSENE OR JACK ALL THE SAME』
その直後、黒スライムの無数の眸が一際、強く滅光し赫い世界が、一瞬だけ白く染まった気がした。
「ッ‼︎」
一瞬だけ放たれた眩い閃光。その閃光にソーナの目は眩むが辛うじて墜落せず持ち堪えた。黒スライムが光った、と言う光景もまた奇妙な事ではあった。
「会長、上、空が見えます‼︎」
この塔は吹き抜け、天井は無く上空に広がる赤い雲の空が見えた。此の儘、飛べばこの奇妙な建物から脱出出来る。
『LOOK LIKE A DIFFERENT MONSTER』
その言葉が聞こえた直後、黒スライムの動きが急変。視界の上部に噴出した黒スライムが上へ逃げるソーナ達の退路を塞ぐ様に覆おうとしていた。壁も破壊出来ない以上、退路を塞がれれば黒スライムにも飲み込まれて即死である。
「マズい、此の儘では上部が覆われてしまいます‼︎ 飛ばしますので掴まってて下さい‼︎」
黒スライムの動きを見てソーナはこのペースでは間に合わないと焦り、飛ぶ速度を上げた。重量で腕が千切れそうな痛みに耐えつつも速度を上げ黒スライムに上部が覆われる前に包囲を突破し、飛び出した。
「で、出れたァァァァ‼︎‼︎ 長く感じたぜ……‼︎」
「いや、安心するにはまだ早いぞ……‼︎」
「さ、流石に最後に無理した所為か、疲れました……ど、何処かに……降りれる場所は」
かなりの高度にまで上昇した。無理が祟った為に自由落下で墜落しかねない。流石に悪魔と言えど高高度から落下すれば無事とは言えない(それでも黒スライムに飲み込まれるよりはマシだろう)。
「……む、ソーナよ‼︎ 彼処に建物が見える。よもや、アレがレーキュの研究所とやらか?」
サイラオーグの指示す先、黒スライムが巣食っていた建物の屋上部の上に更に別の建物が建っていた。現代日本の学校に通うソーナは分かる。研究施設だと分かる建物が視界に映った。冥界の地上に立つ大振りな塔の様な造形では無く小ぢんまりした研究所だ。
「……も、もう一踏ん張りですね……‼︎」
ソーナは最後の力を振り絞り研究所前にまで高度を落としながら飛んで行く。疲労からフラフラとした飛び方であったが何とか研究所の玄関前にまで到達し、サイラオーグと元士郎の脚が屋上に着いた途端、前のめりにソーナは倒れた。
「会長‼︎ 大丈夫ですか⁉︎」
「問題、ありません……。流石に2人を持ってこんなにも飛行した経験はありませんでしたので、流石に疲れました。私も飛行の訓練もしておくべきでしたね」
レーティング・ゲームであっても空中戦は充分、あり得る。『王』である自分も空中戦に挑まなくてはならない時もあるだろう。その時に、こんな為体では笑われてしまう。
『ふーん。まさか、失敗作とは言え……『ナイトメア』から逃げ切るとは思っていなかった……』
その時、玄関口に設置されていたインターフォンからその様な音声が流され始めた。如何やらソーナ達が到達した事を察知した様だ。そして、素直に驚いた様子の声が聞こえる。
「……お前は此処に居るのか?」
ソーナは呼吸を整えるのに専念している為に代わりにサイラオーグが応答する。下の建物での一例がある為に油断は出来ない。未知の異界の住人。未知の能力。未知の生物。分からない事は幾らでも出て来る。
『……そうだね。『ナイトメア』の門前払いで無能は兎も角、事足りると思っていた。少々、君達の事を見縊っていたよ』
やはり、レーキュは悪魔の勧誘の件を煩わしく思い、あの黒スライム『ナイトメア』を嗾けて物理的な排除をしていた様だ。
「アレは、お前がか?」
『……土壌は最悪。失敗作も良い所だね。何故なら、観念がグチャグチャ過ぎるから、原型を保てない』
「「「…………」」」
黒スライムはレーキュが生み出したモノだと、確信を持てる発言であった。ただ、本人は失敗作だと断言している。
『…………まぁ、良いか。良いよ、来ると、良い。話くらいは、聞いてあげる。但し、如何なるかは、自己責任で』
その音声がソーナ達に伝えられた後、研究所の扉は自動で開かれた……。