雷ガ咲く花園デ   作:夢現図書館

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幼女の皮を被った悪夢

 

 

 

 

「バアルの願いの対価は其処のシトリーの子宮(・・)、逆にシトリーの願いの対価はバアルの下僕悪魔か? その者達全員の心臓、全て」

 

 

 

 

 

 

 レーキュの提示した『対価』。それは、余りにも非道とも呼べる内容であった。

 

「「……ッ‼︎‼︎」」

 

 その『代償』にソーナとサイラオーグは絶句した。己の願いを叶える為に誰かを犠牲を強いる。正に悪魔染みた対価を要求して来たのだ。お互いにとってとても飲めぬ対価であった。

 

——そ、そんな対価……‼︎

 

 匙が思わず口を開こうとしたが、ソーナが絶対零度の視線で静止を促し怯んで後退する。無論、ソーナとしても到底受け入れられる様な案件では無い。

 

「……何を躊躇う必要がある? 己の願い以外は全て有象無象。こと、お前達はレーティングゲームと言う神奈川コロニーの連中がやって居た奴隷闘技と似た様なモノで立場が決まるのだろう? ならばライバルは早々に消した方が利益に繋がる」

 

 悪魔社会、と言うより貴族悪魔の力量関係は『レーティング・ゲーム』に集約される。レーティング・ゲームの成績で貴族の格が決まると言っても過言では無いのだ。その為、悪魔は優秀な眷属を集める事に余念が無い。敵が勝手に壊滅してゲーム環境から脱落するのならばそれこそ喜ばしい事だ。眷属の喪失、力量の喪失……。レーキュは敵が弱くなる光景は望む光景だろう?と告げる。自分が強くなるのでは無く敵を弱体化させるやり方。

 

「……お前は……悪魔みたいな奴だな……‼︎」

 

 口を開いたのはサイラオーグだった。サイラオーグの願いの対価はソーナの子宮。つまり、間接的にシトリー家を断絶させる事を意味する。現在の悪魔社会では狐花が引き起こした『劫魃』により深刻なダメージを受けている。お家断絶の危機に瀕している貴族悪魔も居る。

 

「何を憤る? お前に取っては母親が助かる上に敵が減る。そして、お前自身は何も汚れる事は無い。寧ろハッピーだろう?」

 

 其処でレーキュは口元を三日月に歪めて初めて感情を曝け出す。狂気が映し出される顔だ。

 

「其方も臆する必要は無かろう? 奴隷を喪い圧倒的な不利な環境。そして有力候補を表社会から引き摺り落とす絶好の機会だ。孤独な『王』程、脆いモノは無い」

 

 そしてソーナへにも揺さぶりを掛ける。お互いに要求された対価。遅かれ早かれ相手に致命傷を与える一打となる。自分は何も差し出す事なく相手の屋台骨を確実に粉砕する……。こんな言動からレーキュはソーナとサイラオーグの事情を把握している事が判明。

 

 何方も退けない、答えに窮する状況に放り込まれた。ソーナもサイラオーグも相手が要求を辞退(・・)し撤回する理由が無い事を理解している。そして性質の悪い事にレーキュは片方だけしか聞かないとは言っていないのだ。

 

——……悪魔より悪魔らしいぜ……‼︎ 見た目は皓咲みたいな幼女だと言うのに……ソックリさんってレベルじゃねぇぞ……‼︎ 寧ろ本人だと言われた方が良いレベルだ。会長もサイラオーグ様の事情も考慮すれば……藁にも縋る想いだ……。

 

「……まさか、お前達に友情(・・)なんて、下らない思想がある訳無いだろう? 家包みで付き合いがあるか? 友人だったか? いいや、単なる蹴り落とすべき敵だ」

 

 レーキュは更に煽る。ソーナとサイラオーグが親しい関係では無い事を利用した煽り……レーティング・ゲームで何れは激突するかも知れない。ソーナとしてはレーティング・ゲームでの活躍は絶望的な状態に追い込まれている。活路を見出す為には正々堂々と言う綺麗事は通じやしない。

 

「……そう言う貴様は、友人は居なかったのか? それに俺は敵であろうとそんな姑息な真似で陥れる程、落魄れた覚えは無い」

 

 サイラオーグはレーキュの言葉に真っ向から否定した。そんな真似をして得たモノでは胸を張れないのだ。

 

「……シルヴィア・リューネハイムみたいな事を言う奴」

 

 その返答にレーキュは再び無表情な顔になった。心無しか癪に障った様だ。かく言う彼が挙げた名前はソーナ達には分からず知らない名前だった。

 そしてサイラオーグの返答にソーナも返答する内容を決めた。

 

「私もそんな対価で得た名誉なぞ必要ありません。寧ろ末代まで恥となります」

 

 ソーナもレーキュの提示した対価を蹴り飛ばした。その返答にレーキュは眦が微かに動いた。

 レーキュからすれば喜んで他人を差し出して悦に浸るだろうと予測していた。

 

「へぇ……大した労力も無く最高の結果が得られるかも知れなかったと言うのに……随分とメサイア臭いな。本当に悪魔か?」

 

「貴方が悪魔をどう言う観念か知りません。ですが、コレが悪魔(わたしたち)です。無論、全ての悪魔が私達の様な存在とは限りません」

 

「知っている。あの無能ばかりだと塵芥に帰すがお似合いだ。ふん……人間臭い連中め。くだらん、ああ、くだらない」

 

 レーキュの脳裏に暴風の如く通り過ぎる人間達の顔。大半がその場に流される金箔並みの薄っぺらい自我しか持たない愚者連中。だが、玉石の如く光る者達も居たのもまた事実だ。其処で、ソッポを向きながら鼻で笑った。

 

「……失敗作とは言えど危険汚染生物(ナイトメア)から逃げ果せた。

 ……ソーナ・シトリー。サイラオーグ・バアル。まだまだ甘さはあるが……罵倒(・・)する奴が居れば、王の格はあるかも知れないな……」

 

——雰囲気が変わった? いや、変わって居ないけど口調が変わった気がする……。

 

 匙は名前を覚えられていない(名乗っていないのもあるが)事に少し凹むが、レーキュの意識は『王』であるソーナとサイラオーグに向いている為に出かかった言葉を喉の奥に押し込んだ。

 

「良いだろう……。代償を変えてやる」

 

——え?

 

 レーキュの口から前評判や本人の性格の一端を知る者からすれば先ず出て来ないであろう言葉が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皓咲屋敷。住人は今となれば家主となる皓咲 狐花唯1人。嘗ての者達は灰燼の中に消えた。

 

「……?」

 

 広々とした和室。其処に妙な気配が見られた為に視線が鋭くなる。気配が察せられる部屋の襖を開けると其処に1柱の存在が居た。

 

「……お久し振りですね、息災で何よりです。雷花」

 

「んにーっ⁉︎⁉︎ ((((;゚Д゚)))))))」

 

 和装と洋装を足して二で割った優男の様な柱。その姿を見た狐花はパニックを引き起こした。

 

『って、八意思兼神様やないスか……』

 

 其処に煙と共に五七が現れる。そしてその存在が八意思兼神だと気付いた。

 

「おや、五七。貴方も久し振りですね……。積もる話はありますが……雷花。正座」

 

「んにーっ⁉︎⁉︎ ((((;゚Д゚)))))))」

 

『いやぁ……。まだ、パニックを起こしてますわ。それで取り敢えず何しに顕界へ?』

 

「……いえ、雷花が随分と派手(・・)に暴れていると聞きましてね……。駒王町の一件やら……特に六欲天まで動く事態となれば話が深刻な事になりますから……今一度、再指導をと思いましてね」

 

 八意思兼神は狐花の暴走ぶりは見て見ぬフリが出来ないと判断して対処する為に降臨したとの事。

 

『いや、フツーに神選ミスっスわ』

 

「寧ろ私以外に雷花の教育係に務まる八百万や仏が居ましょうか。いいえ、存在しません。伊奘冉も天照も其処の点は正に駄女神ですので」

 

 普通にボロクソである。五七も明らかに頼む相手が間違っていると断言するが本神は否定する。

 

『いやでもなぁ……狐花の癇癪はどうしようも無いと思いますわ』

 

「ええ、此の儘では何かの拍子で葦原が灰燼に帰すのも時間の問題でしょう。それ程まで雷花の宿す憎悪の心が強い。寧ろ良く其処までの力を増幅させるに至ったのかと関心するレベルです」

 

『え、ええ、そりゃまぁ……』

 

 元々は小さき鈴であった狐花が地球よりも大きいと言われる冥界を半日で半壊へと追い込み悪魔(ついでに堕天使)をあわや絶滅に追い込んだ。三大勢力や他神話が非常に警戒する『神滅具』の存在無しで、である。

 その憎しみの矛先は悪魔以外にも人間の顕界にも向いている。これ程、危険な核兵器は古今東西、存在し得ないだろう。

 

「……頃合良く、如何にかする手段を確保致しました。中国の仙人と交流する機会がありましたので……モノは試し……。上手く行けば被害を抑える事が出来るかも知れません」

 

『それはええんやけど……前みたいに高天ヶ原が焼け野原になるような失敗は堪忍やで……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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