『で、具体的にはどないするんや?』
「その前に雷花の問題は何処だと思いますか?」
八意思兼神は五七に狐花の問題点は何かを尋ねる。
『そりゃあ……殺意全開で見境無く滅ぼす破滅願望って奴やろ? 冥界を滅ぼし掛けたのは分かるんやけど、駒王町のアレもやり過ぎのレベルやったからなぁ』
冥界は大旱に包まれ駒王町(偽物ではあったが)は溶岩流に飲み込まれた。悪魔を滅ぼすにしても二次被害の規模が尋常ではない。己を含め敵味方関係なく滅ぼす破滅的な願望。己の事も一切躊躇しない歩く原子爆弾。
「その通り……。彼女は常に気が
私達、八百万の神々を持ってしても彼女の憎悪を解消する事は叶わなかった……。故に代替案を用意しました」
八意思兼神はそう話を続け袖の中からある紐を取り出した。縁起の良さそうな八塩の紐飾りと思われるモノだ。
『……何や、それ?』
「中国の神仙が仙力を込めた赫紐。コレを身につける限り感情を封殺する事が出来るそうです」
『感情を封殺やと……封印し抑え込むって事か?』
「雷花の抱く憎悪は人間で言う核分裂と言える。いいや、こう表現すれば良いか、歩く憎悪の原子炉。決壊すれば……破壊の界を生み出す事でしょう」
最終兵器取扱注意とは良く言ったモノである。外部の干渉では解消に至らない……ならば、根源を封印するしか無い。
『せややと……』
「無論、限界はありましょう。そもそも、この赫紐で彼女の感情を抑え切れるかどうかも怪しい。何せ雷花は夥しい『負の感情』を受けて誕生した七五三鈴の付喪神。人の子達の感情とは話が異なる。その旨を伝えて創って貰ったが果たして上手く行くかも未知数です。途中で許容限界を超過して爆発し暴走……もあり得ます」
『無茶苦茶ヤバいやん……。ガチの神仙でも抑え切れるか分からへんのか』
「規格外と言う他にありませんからね。想いの内容に関しては……。500年以上、摩耗せず寧ろ増幅させ続けると言うのは尋常ではありません。時間が解決してくれる……と言う言葉は彼女には存在しなかった」
『おーおー……間近で見とったけれど、改めて考察されると想像以上にヤバい奴やと思い知るわな。せやったら、早速やって見よか』
「出来る限りの手は打ちましたが……成果に関しては未知数。経過観察も必要となるでしょうし……封じた結果、彼女がどの様な行動を起こすのかさえも不明瞭です」
普段の狐花ならば悪魔の存在を感知すれば即座に激昂して周囲諸共、殲滅しに掛かる。例え民間人が居ようともお構いなく破壊する。
『……何方にせよ、試さん限り分からんって訳なんやな』
「そう言う事です。最悪の場合、現在よりも更に悪化する可能性も否定は出来ません」
『…………せやなぁ。しかし、臆してもしゃあないっちゃしゃあないで。今度、修学旅行か臨街学校か知らんけど……都会でアレやられたら大惨事は免れへんで』
「夜摩天が昏倒しそうな光景となるでしょうね。さて、頭を捻るのはこの程度にして早速試して見ましょう。差し当たり雷花を捕まえないと」
『せやな……』
「彼女が普段身に付けている鈴飾りと合わせる形にしましょう。その程度ならば彼女は怒らないでしょう。それに……少しアレンジを加えましょうか」
『あのーー……そんな真似するから狐花を逆上させる羽目になるんやと良い加減に気付いたらどうっスか……?』
「良いだろう……。代償を変えてやる」
レーキュの口から前評判や本人の性格の一端を知る者からすれば先ず出て来ないであろう言葉が出てきた。
「代償を変えるとは……具体的には?」
最初の時点で常軌を逸する内容だったが故にサイラオーグは警戒心を崩さない。油断出来ない相手だと判断したのだろう。
「話だけの『眠り病』の症状。その薬剤を調合する為の材料を集めて来い」
レーキュはソーナ達に眠り病の薬を調合する為に必要な材料を持って来いと言った。少なくとも先程の無茶苦茶な対価よりも遥かに常識的な要求と言える。材料は用意したから作ってくれと言うのは正当な等価交換と言えるだろう。
「……治療、出来るのですか……⁉︎」
悪魔社会でも『眠り病』の明確な治療法は確立されて居ない。それなのにレーキュは知っている様な素振りを見せた。
「そんな事、知るか。お前達は今、
「「…………」」
恐らくレーキュからすれば『眠り病』も研究対象なのだろう。
「お前達が何を期待しているのかは知らないが、期待と言う言葉は自分に掛ける催眠に過ぎない。期待に裏切られるのが嫌ならば自分でする事だ。最も、此処に来た時点で……そんなアホな感情は無いだろうがね」
期待。それは自分の願望が反映されて浮かび上がる自己催眠の言葉。期待外れと言うのは自分の思想が間違って居た事に過ぎない。その憤りを他人に打つける情けない姿だ。
「……それで何を集めて来れば良い? 俺は正直に言えば知略を巡らすのは得意では無いからな。小難しい話はシトリーにしてやってくれ」
「まぁ、良い。集めると言ってもそんな数は要らないさ。精々4つだ。赫映姫の難題よりはマシだろう?」
レーキュが提示した材料は4つ。しかし、その内容は頭を痛める様なモノばかりであった。
・主天使の翼
・ウルズの泉の原水
・黄泉軍の角
・ココナッツヒツジのミルク
の4つであった。まさかの天使の翼まで要求される上に北欧神話の代物まで要求された挙句、3つ目と4つ目はサイラオーグは愚かソーナさえも知らない概念だった。無論、匙は全部知らなかった。
「持って来れたら薬剤を調合してやる」
そう言いレーキュは背中を向けて中断して居た研究を再開するのであった。もう、話は終わりだと言う姿勢だ。これ以上は話しかけても怒らせるだけだろうと察したソーナは研究所を後にする事に決めたのだった。サイラオーグも条件の物品が分かっただけでも良しとして引き退り自身の領地へと帰って行くのであった。
「会長……。本当にそんなモンで薬が作れるんですかね……?」
「魔王様達が言うには彼女は紛れもない天才だそうです。本人が言うのならばそうなのでしょう……取り敢えず活路は見えましたね」
「でも……内容が内容っスよ? どうやって手に入れるんですか?」
「天使の翼。然も主天使ですか……翼を丸々、圧し折って持って来いって意味でしょうね」
「うげぇ……エグい内容っスね。剥ぎ取って来いって……何処に使うんすかね」
「それとウルズの泉……。北欧神話の泉の事ですね。此方も此方で難題でしょう……何せ他神話ですから……素直に手に入れる事が出来るかどうか……」
そして、更に難題なのが『黄泉軍』の角と『ココナッツヒツジ』のミルク。
「黄泉軍……。初めて聞きましたが読み方から日本神話の可能性が高いですね。そしてココナッツヒツジ……どんな生物かさえ不明です」
代わりに要求された対価も充分、無茶苦茶難しい内容だった事にソーナは溜息を吐くのであった。それに例の行事までの時間もそう多くは無い。
「日本神話と聞いて頭が痛いですね……」
「ええ……関係が冷え込んでいる以上、素直に教えてくれる保証もありませんからね……」