「案の定、酷く荒れ果てて居るな……」
『クラウドホテル』の中は外見通り荒れ果てていた。全体的に埃塗れであり調度品は壊れて床に散乱し観葉植物は折れたまま放置されている。枯れて居る事から相応の時間、放置されているのが分かる。
「さて……要件悪魔は何処に居るのやら?」
——気配は感じない……。何処に居るのやら……いいや、本当に此処で合っているのか?
「少なくともこの場所には誰もいらっしゃらない様です。上か下の階に……?」
「……もう少しマシな場所を選べと言いたいな」
エントランスで待っていても仕方ないので受付の前を通り過ぎて奥へと進んでいく。廊下自体も寂れており壁の一部が罅割れていたり、照明器具も一部が破損していた。電力も供給されていない様で、暗い廊下が続く。
「暗がりを好むのは悪魔の習性ではあるのだがな。原始的すぎる気がするな……」
「……ライザー様。微かに……音が聞こえます」
『クラウドホテル』の奥へと進んでいた時、美南風が物音を感じ取った。気配らしきモノは感じ取れないのだが音は聞こえる。
「音……? 何処からだ?」
「……此方の部屋……?」
ホテルの奥の一室。其処は事務室。ホテル業務の事務を担当する職員の事務所らしき部屋。壁に掛けられた時計は針が止まっており、書類は散乱している。黄ばんでおり時間が経過している事が分かる。
「……待て、美南風。誰かが通った痕跡がある。比較的、新しく見えるな……?」
床に散乱していた複数の古くなった紙。其処には靴跡が残っていた。恐らく靴底に着いた土が剥がれ落ちて着いたモノだと思われる。
「となると、この先に……?」
足跡の先にあるのは事務用の棚。其処で足跡が途切れている。ライザーは怪しく見てその棚を退かした。純血悪魔たるモノ、人間よりも腕力はある。
「……成程な。隠し通路……と言う訳か。俺の見立ては本当に甘かった様だ」
棚を退かした後に現れたのは地下へと続く階段だった。予想よりも軽かったのは退かす事、前提であったからだ。
——日本の情勢は悪くなって居る。油断が死を招く……冥界に住む魔王様達や人間界に居るリアス達よりも分家の方が事の深刻さを理解しているな。此処までしなければならないとは……確かに行動は気をつけねばなるまい。
棚により隠されていた階段を降りて行くと喧騒らしき音が聞こえて来る。螺旋を描く様に伸びる階段を降りて行けば行く程、鮮明に、大きく聞こえて来る。そして、灯りもやがて見えてくる様になる。
「……何やら賑やかな声が聴こえて来ますね」
「如何言う事だ? 油断は出来んな……」
階段を降りて一際強い照明の光が視界に差し込む。その先に広がっていた光景は——。
「クソォォォォ‼︎‼︎ 300万の負けだァァァァ‼︎‼︎」
「チップだ、チップ‼︎ 次こそは勝つ‼︎」
「クソ‼︎ ブタだ‼︎」
——コレは……‼︎ カジノ、なのか……⁉︎
赤と黒の織り混ざった絨毯。トランプ台や立ち並ぶスロット群。大型のルーレット。そして行き交う多数の人間達やゲームに興じるギャンブラー、そしてディーラー役の人間達がライザーの視界に飛び込んで来る。此処は紛れもなくカジノと呼ばれる巨額の金が飛び交う世界だった。
「……まさか、隠し通路の先にカジノがあったとは……」
日本ではカジノは存在しない。賭博罪に該当する為である。つまり、此処は存在ソノモノが違法行為の塊だ。ともなれば此処に居る人間達は違法行為だと理解して此処に居ると言う事である。
「お客様、ヨウコソいらっしゃいました。当カジノは初めてでございましょうか?」
その時、光景に目にして立ち尽くしているライザーを見かけたカジノの職員と思わしき人物が声を掛けて来る。
「いや、ある人物と待ち合わせをして居たのだが……探している内に此処に来てしまった」
「はぁ……左様ですか、え? は、はい、分かりました」
ライザーはそう答えて職員は客では無さそうだと考えた矢先、別の職員が現れて耳打ちする。最初に声を掛けた職員は場を離れる。
「失礼。ライザー・フェニックス様でお間違い無いでしょうか?」
「……あ、ああ。そうだが?」
「ライザー様がお越しになられたら案内する様に仰せつかっています。どうぞ、此方へ」
——……回りくどい真似をするな。しかし……悪く無い。よもやカジノ経営をしていたとは想定外だったな。
職員の案内でカジノの中央の開けた通路を横断する。彼方此方でトランプのゲームや賭け事に興ずる人間達は勝ったり負けたりを繰り返している。この様な見つけ辛い場所だと言うのに盛況している様だ。最もライザーからすればカジノで遊びに来た訳では無いのだが。
大通りを抜けて案内されたのは個人部屋が立ち並ぶ休憩地区と思わしきフロアの2階(地下なので表現は可笑しいが)にある部屋であった。
「此方です。先方の要望で私は此処までです」
「あ、ああ。済まないな」
——さて、随分と面倒な手間を掛けさせてくれたな。此処まで用心が必要とはな……そう考えると今、人間界に居るリアス達は完全に舐められているのかも知れないな……。
その事実をリアスが知ればプライドの高さ故に激昂は間違いない。ただでさえ眷属を複数人、失っている為に尚更だろう。
「 ヤっと、悕た』
休憩部屋には、カジノホールの様な赤と黒の警戒心を掻き立てる配色では無く暖色を基本として居た。机とソファと言った調度品が置かれており、暇潰しの為なのかトランプやチェスセットが備品として備わっていた。
そして……その部屋の中央。正面のソファに要件たる人物が腰掛けて座っていた。
——…………。
非常に長い黒髪は放射状に伸びておりソファに広がり床にまで達する程のスーパーロングヘアーと呼ばれる程の長さ。
その身に纏う服装は美南風の普段着の様に和服。だが、目の前の人物は黒い着物をその身に纏っているが、所々、彼岸花の意匠が見受けられる上に袖が異様に長く指先まで覆い尽くしている。
そして、顔に狐のお面を付けていると言う出で立ちであった。狐面を付けているが服の構造から推測出来る体型からライザーは女性だと考えた。確かにフェニックス家の分家の生き残りは少女だった。
「……ヤやこしい かった?」
「ああ、そうだな。何故、途中までしか言わなかった? 諦めて帰ってしまう可能性もあっただろ」
『盗み義き スル 奴が 居ル から さ。でも結果、キmiは、来た。立花氏もナんだシ。キ三も、坐り なよ」
結果的にライザーは『日本神話』及び『離反組』との和解交渉する為の糸口を掴む為に悪魔社会では無くライザー個人としての対話をする為に離反組の者と面談する所まで漕ぎ着けた。
「……結果良ければ良いと言う訳では無いぞ?」
——さて……一応、俺個人として来ている以上、何とか現状打破の望みに繋げたい所だ。こうして対話が実現したとは言え……変に損ねてしまえば其処で終わり……最悪、冥界の完全崩壊の遠因になる事も考えられる。
ライザーは対面するソファに座り美南風は眷属であるが故に後方に控える形で立って様子を見守る。
「キ≡個人デ来 たん でレょ?穆モ個人デ来ている !! 変に[[構える]]必要は無い……ソノ理由ハつまらないナ」
「……ッ」
如何やら見透かされていたらしい。相手も離反組の組織として対話に臨んでいる訳では無い。離反組とは言え複数人の分家の集まり……全員が全員、意見が一致するとは限らないのだろう。
「そうか、いやな……悪魔社会で『王』ともなればそれなりに気苦労が多い上に……プレッシャーも感じている。済まないな、此方から持ち掛けたと言うのに気を削いだか?」
「*いや同じ立場 なら同じ事をレテい、。た」
狐面を付けた少女はライザーの返答に気分は害する事は無かった。
「それに折角だレ !! ゲームヲレよう」
「ゲーム?」
其処で話題が暗くなり掛けたのを見兼ねたのか狐面の少女はトランプを手に取ってそう提案して来た。
台詞が誤字っているのは[[仕様]]です。