「殺す?何故? 神の意志?知らないよ、そんなモノ。貴方が
「えっと、どう言う意味なのかしら?」
『狐花って偶に訳分からん事を吐かすからな。気ぃ付けや?』
狐花の言葉にアイラに疑問符を浮かべる。五七も狐花の言葉の意味が偶に分からなくなる。その時は大概、荒唐無稽な事を言う時が大半でありツッコむか呆れるかの2択。だが、今回は特に理解出来ない。死なないのに殺すと言う意味。それは問われた少女にも理解が及んでいない。
「何を……言っているのですか?私は、堕天した身。この身、穢れた以上、どうする事も出来ません。これ以上、醜き姿を人々の前に晒すなど出来ません。死の天使様、願わくば慈悲として、私を殺して下さい」
『『……』』
この様子からして、目の前の『はぐれ悪魔』は元々は信仰深いシスターであったのだろう。それが今や堕落した悪魔によって転生悪魔として眷属化された。その事実を嘆かわしく思い、死を冀っている。
定説な『力に溺れた』と言うよりも現実に憂いを帯びていると言う事なのだろう。
「言った筈、貴方は今日は死なない。でも、殺すと」
『狐花……もうちょい分かる様に良いなはれや。述語を増やせ、述語を‼︎』
狐花の言葉が足りないが故に理解が及ばない。その為、五七は狐花の話のやり方を少し変えろと怒る。それでは、誰も理解出来ないと。
「……貴方は死なない。『人間』としての貴方は今日、死ぬ運命じゃない。でも、『転生悪魔』としての貴方は殺す。高来 静香」
五七に指摘され、狐花は単語を増やしてもう一度告げた。それは人間としては死なないが、『転生悪魔』としては殺すと言う事。言葉は増えたが、はぐれ悪魔となった少女、高来 静香は未だに理解出来ない。二律違反の矛盾が起きている。人間としては死なないのに悪魔としては死ぬ。この言葉が意味する理由は……。
「何故……私の名前を……?」
「コレ……。転生悪魔になった元人間の理由別の名簿」
狐花は静香に夜摩天から貰った紙束の内、彼女の事が書かれている紙面を見せながら言葉を続ける。
「貴方は5年前、長崎県、とある礼拝堂でお祈りしている時に、とある悪魔に襲われた。今では表向きは平和な扶桑の国……荒事なんて土台無理な話だった。その時の被害は深刻……貴方は瀕死の重傷を負って……」
「その悪魔に悪魔化の儀式を施されました。其処から先は冒涜の日々を過ごす事となりました」
紙面の情報よりも本人の言葉の方が重みがある。シスターである彼女からすれば悪魔に人生を踏み躙られた日々を過ごす事となった。変え難い屈辱だったのだろう。
『……あの短時間で全部、読み記憶したのですか?』
『天然やけど、非常識な事は回転早いねんな。常識的な事はからっきしやけどよ。早い話がこの嬢ちゃんは不本意な形での眷属化って事やな。施設ぶっ壊して瀕死の重傷を負わせて退路を絶って、無理矢理眷属化……常套手段やな。で?他にも人、居たんやろ?当時』
「生き残ったのは私だけです。悪魔に……殺され……私だけが生き残り悪魔に、悪魔の眷属とされました……‼︎」
五七が目の前の『はぐれ悪魔』が該当者に分類されると告げる。彼女の場合は生きた状態で転生悪魔にされた様である。だが、この場合でも既に人間としては社会的に死亡したと見て良いだろう。
『お嬢さん、冷や冷やさせないで下さい。本当に殺してしまうかと思いましたよ……』
『で?ヤキトリ。どないすんや? 不本意な形で転生悪魔にされてもうた奴やった時、どうすんか説明せんかい』
『ヤキトリではありません。ごほん、時刻的にも夜摩天様はお嬢さんの屋敷にお越しになられている刻限です。確かにお嬢さんの屋敷周辺は一際、強い気が立ち込めていますので、悪魔、転生悪魔問わずに立ち入れば最後、悶絶して死ぬでしょう。しかしながら、所定の順路を通り赴けば宜しいのです』
『ほー、そない仕掛けを仕込んどったか。八咫烏の面目躍如って奴やな』
『私、八咫烏ですから。道案内は当然の事です。あー、アイラのお嬢さん。唐突で誠に申し訳ありませんが貴方様の件は暫し後回しにさせて頂けないでしょうか?』
「ええ、良いわよ。悪魔……と言うかはぐれだけど、生で見るのは数える程しか無かったし、それにどう言う顛末を迎えるのか……見てみたい自分が居るわ」
『ありがとう御座います。移動中に悪魔共に見つかるのも面倒ですので、速やかに移動したい所なのですが……お嬢さん、その様な容体で誠に申し訳ありませんが歩けるでしょうか?』
「コレも神の試練……。茨の道とて、歩きます」
自分を置き去りにして話が進められている。しかし、静香は何も説明されずとも何となく察した。『ああ、漸く死ねるのか』と。転生悪魔と雖も人間よりも遥かに長大な年月の寿命を持つ……そんな時に現れた『死の天使』……大半が投げやりの状態なのだろう。言われるがままの状態であった。
『あー、観念して殺してくれ、みたいな状態やな。流石にどないな生活しとったかまでは聞かぬが華やろうけど……自殺しなかっただけマシかは分からんけど』
「自殺も罪になるから、自害がある日本と違って彼方はうっさい」
『そないか。なら、退路が無かったやもな……だから『殺してくれ』、か……笑えんな』
恐らく眷属悪魔の『王』の元から逃亡する際に重傷を負い這う這うの体で辿り着いたは良いがこの町を覆う破邪の気にあてられて、一層、体力が奪われている。服装も穴が開いていたり傷があったりと、明らかに襲われた後を思わせる。悪魔の本拠地『冥界』にてどの様な扱いをされたかは分からないが杜撰な扱われ方をしていたのかも知れない。
その後、恐介の案内ルートにより狐花の屋敷の裏門に到着。方角的には鬼門に当たる位置であった。普段ならば屋敷に接近しようとしただけで悪魔は祓われてその生を終える。が、所定の案内故に疲労こそあれど静香は生命を留めていた。
「おお〜、絵に書いた様な日本屋敷って言う豪邸だね。風景画として映えそう……」
『いや、狐花はその辺無頓着やから、外観だけクソデカそうに見えるけど、殆どの部屋には何も置いてないで?』
と言うか出来てまだ1日も経過していない。そして、狐花は私物と呼べるモノが少な過ぎる点も相まって、正に建物だけの蛻の殻と言うべき状態。そして、そのノリで地下には堂々と城を建てている始末である。
『さて、恐らくは既に待っておられであられるでしょうね』
裏門から入り屋敷の中に上がる。五七の言う通り、畳張りの広大な部屋には何も置かれて居ない真っ新な状態だった。
「ひ、広いわね……何処の部屋も」
『ま、まぁ、そうやな。建てた方、加減って言葉を知らんから……』
地上の屋敷自体も広い為か、案内が無ければ屋敷内で迷子になりそう(特に地下の城)だが、幸いにも構造自体は簡素なモノだった為にそう迷うモノでは無い。
『あ、此方にてお待ちになられています。では、どうぞお入り下さい……と言うか家主はお嬢さんの筈なんですがね……』
「気にしない、気にしない」
『いやぁ、其処は多少は気にした方がええんちゃう?』
「んー、だって起きるのに半畳、寝るのに一畳有れば他に必要無いと思うよ?」
呆気からんと狐花は言い放つ。所詮、其処までの広さを必要とするのか?と言う素朴な疑問であった。それは必要以上の富を求めない事と、神々が心配するある理由に基づいた末路が起因している。
「げ、現代社会でそんな言葉言える人、初めて見たわ……」
『ま、まぁ……野生児やからな。狐花は……昆虫を平然と生食する位やし。あー、俺様は会いたくないなぁ……狐花の飯と夜摩天様の襲撃料理……どっちがマシかってなぁ……』