紫先生の全校校外学習の説明会から2日後。午前5時頃、駒王市民会館前。其処にはキャスター付きのキャリーケースを持った多数の学生達が跋扈していた。当然ながら私服姿でありわいのわいの雑談に勤しんでいた。
今日は全校校外学習の初日である。事前に行われた説明で急な決定故に参加は自由との事であったが遠足に近いイベントだった為か参加率は8割を超えていた。その中でも異彩を放っていたのが——。
「んにー(ーwー)」プニプニ
「わー、可愛い〜」
「髪飾りが変わったわね」
「巫女服が私服って良いわね〜」
上級生(演劇部)に囲まれている狐花であった。案の定と言うか相変わらず上級生達に弄られている。服装はと言うと三度、縫い直され改められた巫女服。袖は指先を隠す程の長さであり袴の裾は長いと言った一般的な和服なのだが、1番変わっているのは頭の方であった。ツーサイドアップテールの結び目に鬼の角と思わしき髪飾りがくっ付いている。そして髪の毛と共に垂れる様に赤い紐飾りが靡いていた。簡単に言ってしまえば小さな鬼巫女と言った所か。
『何つーか、予想通り小動物扱いやな……』
『しかし、上手く封じ込めて何よりです。しかしながら目の前に『悪魔』が現れた際、如何なるかは未知数。前日あたりに手頃な『悪魔』が居れば試験を行えたものの……残念でなりませんな』
「んにーっ‼︎(/>ω<)/」
上級生に抱っこされている狐花のその様子を見て五七と恐介はそんな会話をしている。八意思兼神が用意したと言う狐花の荒ぶる『感情』を抑制する『赤紐』。狐花の感情は極めて増幅幅が大きい為にそれだけでは抑え切れないと懸念が生まれた為に更に一工夫を加えたのである。
『しっかし、良くそんな事ァ思いつくでな……まさか黄泉軍の角を使うたぁ……完全に想定外やで』
黄泉軍とは黄泉比良坂に棲まう鬼。八意思兼神は暴走し周囲に拡散する暴威なる狐花の感情を封じ込める為にその角を用い髪飾りとして赤紐と同時に狐花に身に付けさせたのである。赤紐だけではいつの日かは決壊は免れない。方や角だけでは放出する事は出来ない。双方揃って初めて効果を期待出来る。
『黄泉還りは不可逆の境地。赤紐で留めつつ角を介してお嬢の『憎悪』を黄泉へと流す……』
溜め込み続けては何れは決壊し暴走してしまう……。器に永遠に流し込み続ける事は出来ない……故に何処かに流して霧散させるしか無い。其処で角を介して行き場の無い憎悪を黄泉へと放出する策を講じたのである。憎悪は負の感情、不浄の境ならば同化して霧散するのだと考えたのである。
『今の所、際立って問題は起こって居ませんね』
『今の所は、な。けど、必ず問題に直面するやろうで。そもそも神仙が作ったっつー赤紐の存在も未だに半信半疑やしな』
『否定は出来ません。お嬢は時折、想定外の行動を引き起こします。何かの拍子で落ちる可能性も否定出来ません』
髪飾りである。何かの拍子で狐花から抜け落ちる事もあり得る。そのタイミングで暴走すれば目も当てられない事になる。角を介して黄泉へと垂れ流しにしては居るが……正直な所、狐花の本人の状態がどの様に変化するかは戦々恐々としている。最悪の場合は悪化する可能性も否定出来ない。
「おー、お前ら注目しろ〜」
その時、市民会館の駐車場に次々と乗り込んで来るは複数台のバス会社の大型バス。その先頭の大型バスの運転席の窓を開きあろう事か箱乗り状態の紫先生がメガホンを片手に集合していた駒王学園の生徒達の前に現れた。教師が堂々と箱乗りで現れるとは……。
「先生‼︎ 大型バスの箱乗りはどうかと思います‼︎」
「細かい事は気にすんな。後、真似すんなよ。コレ、結構ビビるから」
相変わらずの生徒のツッコミに対して律儀に返す紫先生は翻り窓縁から飛び降りて地面に着地する。アスリート顔負けの身体能力を目の当たりにして響めきが広がるも当人はどこ吹く風で話を進めた。
「さて、時間になったからコレより出発するぞ。バスには二段構成になっている。クラス毎に乗る様に。乗ったら点呼を取るからな、後、兵藤、松田、元浜‼︎ あー、居るのか」
「何だよ⁉︎ 居ちゃ悪いのか⁉︎」
変態3人組はご丁寧に名指し。紫先生は相変わらず呆れた目で3人の馬鹿共を見ている。てっきり参加しないのかと思って居たが想定外にも参加するつもりの様である。
「お前らは現地集合……にすると、道中の公衆トイレで覗きをしてそうだから中止にしておく」
「「「おぉぉおおおぉおいィィィィィィィィ‼︎⁉︎」」」
「おい待て鬼教師ィィィィィィィィ‼︎⁉︎ 俺達って、そんな風に見られてんのかぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
「幾ら何でも風評被害が過ぎるぞ‼︎ 主に俺達がッ‼︎⁉︎」
「そうだそうだ‼︎ 待遇改善を促進する事を要求する‼︎ 後、生着替えを拝むのが覗きの極意だと知れ‼︎」
「黙れ、外道」
「「「アンタにだけは言われたく無いわ、ボケェェェェェェェ」」」
三馬鹿は吠える。あんまりな対応に文句を言うが紫先生はその烈火の感情を柳の様に受け流す。
「紫先生。茶番は程々にして下さい。時間の無駄です」
「……無駄、か。まぁ、否定はしないさ。だが、無駄も文化だがな。さて、車の席順は指定しない。乗り物酔いの気がある者は前方の席に回る様に。後、三馬鹿は教師の隣に座れ、以上‼︎」
紫先生のその言葉に生徒達はキャスター付きキャリーケースを荷台に載せた後にバス内へと乗り込んで行く。狐花も(持たされたケース)載せた後にバス内へと乗り込んで行く。赤紐に付いている鈴が小気味良い音を立ててバス内の階段を登って行く。狐花のクラスは2階の方であった。
『ほぉ、大分エエ所から借用して来たんやなぁ』
『天照大御神様、と言うよりも……和奏殿が無茶振りされたのやも知れませんね』
狐花はバスの中で中央付近の窓際に座った。頭の上、角の飾りの間に恐介が止まり五七が窓側の肩に座る。2匹共に神秘とは無縁な一般の民間人には見えない為に堂々と騒いでも見聞きされない。狐花自身、クラスメイトからは天然娘と思われている節があるので放置されている。
「……?」
その時、隣に座ったのは——。
『おいおい、マジかよ』
日本人離れした白髪。狐花よりも少し身長は高いが全体的に低身長と言える塔城 小猫だった。小猫からすれば狐花は悪魔として色々な意味で天敵と言えるのに何故、此処に座ったのか。
「……先に言って置きますが他意は有りません。と言うよりも他に席が無くなって仕方なくです」
周囲に意識を見渡せば殆どの席は埋まって来ている様である。2階は如何やら1〜3組の面々で埋まっている為に予想よりも席が埋まるのが早かった様である。
「それに、幾ら貴方でも悪魔憎しと雖もバス諸共、葬る様な真似はしない」
『『いや、普通に殺すから』』
「……」
自分達の様な人ならざる世界に棲まう者達だけならばいざ知らず一般人の学生達が多数、詰め掛けているバス内で、過去のような大惨劇を引き起こす様な気狂いでは無いと思って居たがお付きの2匹の言葉で一刀両断される。
「(っ・〜・c)」モキュモキュ
『と、思っていたやんけど……熄滅効果はあったみたいやな』
普段の狐花ならば『悪魔』の存在が視界に入れば即座に鏖殺思考に切り替わる。地形、民間人、世界の被害なぞお構い無しに葬りに掛かるのだが、隣に悪魔である小猫が居ても無反応で持って来ていた瓜味のグミを頬張っていた。
赤紐角の髪飾りの憎悪の抑制……否、熄滅の効果は確かにあった様だ。
「…………事情は良く分かりませんが、今は安全、と言う訳ですか」
『随分と大きな賭けに出ましたね。最悪、骨すら残らないと分かって居たのでは?』
「……覚悟はしていました。本音を言えば近付きたくありません」
『ケッ。正直やな……』
小猫はキッパリと『近付きたく無い』と言った。そりゃそうである、問答無用で葬りに掛かる上に絶賛現在進行形で悪魔と日本神話の関係は冷え込んでいる。此処に座る羽目になったが内心は嫌々である事は隠さない。
『ま、俺様としてもこの状況下でドンパチやらされるのは堪ったモンやない。此処は1つ、休戦しようや無いか?』
狐花はグミに夢中。と言っても会話に絡まれるとそれはそれで戦々恐々となる為に今は放置して五七は小猫にある提案を持ちかける。
「休戦?」
『いやなぁ、本音を言うと狐花の暴れっぷりには昔から八百万の神々やら六道の神サンは大層、頭を痛めててな……。で、等々、天魔王まで出しゃばって来よったからに流石に無視出来ない事態になっちったんよ。具体的に言やぁ、堕天使の件やな』
「…………」
駒王町が爆破されたり、融解した大地に沈んだりイッセー顔のドラゴンが現れたりと天変地異にも程があったあの一件。それ以前にも狐花は駒王町殲滅(未遂に終わる)しようとしたり冥界を半壊に追い込んだりしていたのだが、前回の一件は日本神話としても大事の範疇だった様である。
『勿論、休戦ってのは俺様の一方的な提案でしか無いで。お前らが休戦なんて絶対に嫌だ、戦争や‼︎ 徹底抗戦からの殲滅や‼︎ 命の限り戦うんや‼︎ と、言うんやったらしゃーない……駒王学園の生徒さんやらには尊い犠牲を伴うんやけど、俺らも戦争を選ばなしゃーないわ……で、どうする? 此処にはお前しかおらんからお前さんが決めい』