雷ガ咲く花園デ   作:夢現図書館

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夜摩天

 

 

 静香とアイラ。『此処から先は2人でや』と言う五七の言葉に後押しされ部屋に通される。他の部屋よりかは幾許か狭い和室。それでも其処其処な広さのある部屋。其処には1人の女性が机を挟んで座っていた。唐風の衣に『王』と書かれた帽子を被っている。知的そうな眼鏡を掛け、その手には笏を持っている。

 

「初めまして、私は夜摩天と申します。お二人とも、宜しくお願いしますね」

 

 その人物こそが地獄の閻魔大王と同一視される夜摩天、その柱であった。狐花が合わせる相手とは死後の世界で亡者の生前の罪を裁く存在である。2人とも、日本神話には疎い部類である為に事前に教えて貰わねば何が何だか分からない。

 

「え、えっと……」

 

「えーと、神様の1人……?」

 

 一応、アイラは日本神話絡みとは聞いていたが、予想とは全く違う姿に動揺が走る。

 

「私は貴方達に置かれた状況を知っています。高来 静香さんと、アイラ・ニューエイジャーさん。高来さんは『はぐれ悪魔』で、ニューエイジャーさんは、逃亡と保護と言う名の亡命」

 

「「……」」

 

「ふふ、そう構えなくても良いですよ。私が裁くのは死者のみ。まだ、貴方達を裁くべきではありません。ただ、真実を断定する為です」

 

「少し、高来さんの事情に移ります。私を含めた仏法と日本神話は神仏混淆されて今の形と伝わっています。共通しているのは何方も日本の国の神話、世界観をお互い共存する形となっています。基本的に日本神話が表に出ますが仏法派も側面としています。ある時を境に日本独自の神話、日本神話が優位性を人の子達は見出して其方の側面が強くなったのです。此処までは良いですね?」

 

 夜摩天は教師の様に2人に説明する。その様子は死者を裁く地獄の王とはとても思えない柔和な表情であった。

 

「日本神話としましては三大勢力は排斥すべき概念だと決議が出ています。理由は悪魔陣営の不明瞭な拉致誘拐案件、不当な理由の仏閣神社の汚染、郷土土地の不法占拠による領土化と多岐に渡ります。特に高来さんの様に悪魔が所有物化を目論んでの転生悪魔化が深刻な問題として挙げられています」

 

「……」

 

「そして、転生悪魔と化す理由は複数に分類されますが1番多いのが不利な条件や、強要、或いは故意の事故死による転生悪魔化させての眷属化。こと、日本神話や仏法に於いて死の概念を捻じ曲げる行為は大変なる歪みを生じさせる要因となります。

 では、核心に移ります。日本神話、と言うよりも私の考え方としましては各々の事情を考慮し転生悪魔を元の姿に戻してやるべきだと決を下しました」

 

「……!」

 

 その言葉に静香は息を呑んだ。転生悪魔から人間に戻れる。だが、それは可能なのだろうかと言う疑問も同時に浮かび上がる。静香を転生悪魔として眷属、下僕とした悪魔は『元には戻れん。それが『悪魔の駒』だからだ』と告げていた事を思い出す。

 

「それは、可能……なのでしょうか?」

 

「日本神話のある神の協力の元であれば、可能だと私は判断しています。しかし、前人未到、荒唐無稽で未だに試された事が無く、この私を以ってしても『断言』する事が出来ないのが心苦しい限りです」

 

「えーと、夜摩天、様?で良いのですか?具体的にはどの様な手段を?」

 

「転生悪魔となる要因は『悪魔の駒』です。その駒を媒介として身体に入り込み悪魔化させていると判明しています。故に『悪魔の駒』を破壊、或いは摘出する事が出来れば……元に戻せる。だろうと言うのが見解です。

 今迄、この命題が浮上して来なかったのは悪魔社会がその命題を提示する必要性を感じなかったが故です。当然ですね、自種族こそが上位存在だと自惚れるのが聖書の考え方……上に立とうとしますが、周りと波長を合わせる事が出来ない」

 

 須く生命は死を恐れる。種族繁栄、子孫存続を至上命題として捉える。繁殖能力の著しい欠如が見られる悪魔は至極、当然の事の様に捉えてる。

 

「質問、もう一つ良いですか?」

 

「はい。何でしょう?」

 

「『悪魔の駒』は死者をも蘇らせる……つまり抜かれたり壊された場合は……もしかして……?」

 

「はい。十中八九、死亡するでしょう。元より、肉体から離れようとする死した命を『悪魔の駒』で無理やり顕界、肉体に繋ぎ止めている状態です。鎖が絶たれば死するのが当然と言えます」

 

 夜摩天はハッキリと告げた。悪魔により『運命』から外れて死した命。死亡した事実は変わらない……。それが時間が経過して居れば人の手による蘇生も叶わぬだろう。

 

「それから転生悪魔を元の種族に戻す際の裁定基準を言いましょうか。中には自ら進んで転生悪魔になる事を選んだ者達も居るでしょう。貧困が理由か、或いは人間の頃、罪を犯したか……背景もまた様々です」

 

「私の見た眷属悪魔も中にはその様な人達を見た事があります。自分から悪魔になる、と言い……転生悪魔となった方が居られました」

 

 己の判断で悪魔に身を窶す者も当然出て来るだろう。それこそ、悪魔に魂を売ると言う行為。その末路は相応にして悲惨な結末を迎えるであろう事は分かりきっている。

 

「1つ、不本意、或いは身勝手な誘拐等による転生悪魔化。2つ、善人である事。3つ、死亡後の転生では無い事」

 

 夜摩天は『転生悪魔』からの解放する際に必要な条件を提示した。1つ目は、散見される不本意、或いは強引な手段による転生悪魔化。2つ目は夜摩天から見れば当然の内容。3つ目は単純な理由。『悪魔の駒』により命を繋ぎ止めているが故に破壊されれば死亡するのは自明の理。

 

「……しかしながらこの条件は今の所、仮の条件です。悪魔の手による意図的な死亡者の転生悪魔化した者達はどうなるのか?と言う問題が浮上して来ます。『運命』外での死亡案件、何とかせねばならぬ火急の案件……なのですが、死した魂を顕界に還すのもかなり大変なのです。その為、現段階ではこの様な条件としています。無論、改訂も視野に入れていますが何分、『悪魔の駒』の調査も難航している次第でして……」

 

「……生死の輪廻の仕組みは当事者じゃ無いから理解し難いのですけど、大変なんですね」

 

「死者の罪を裁くと言うのは言う程、簡単なモノではありません。いや、本当に……。だと言うのに、閻魔のアイツは『判決?面倒臭いから、全部地獄行き』で全て片付けやがりましたからね……再決するのも手続きが面倒だと言うのにあの馬鹿閻魔と来たら……‼︎」

 

「「……」」

 

 どうやら同僚である閻魔王は相当、良い加減な判決を下す様である。それはそれで、最悪である。『転生悪魔?面倒だから地獄行き』と言う判決を下しそう……あれ?狐花と一緒じゃね?

 

「失礼しました。どうにも愚痴が……話を戻しましょう。率直に言いまして、高来さん。貴方が望むのであれば、『転生悪魔』から人間に戻して良いと判決を出しました。

 そして、選びなさい。『転生悪魔』として生きて死ぬか、或いは『人間』に戻り生きて死ぬか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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