世にも奇妙な夕餉を済ませた後(管狐が悲鳴染みた声を上げるが黙殺)、黄昏時を迎え時刻は夜。空は曇りない快晴であり住宅地が並ぶ故に光害が少ないのか夜空に浮かぶ星々の煌めきや月の光が良く見える。
『此処や、此処ら辺が1番、良さげやで。見晴らしも良えしな』
駒王町は一言で言えば中規模の地方都市の一種。都会の様にビルが乱立している様なモノでは無い。その為、高い建物は非常に限られてくる。強いて挙げれは大型デパート位でありその駒王町の一角にあるデパートの屋上に訪れていた。一般の者達は何の変哲も無い光景に映るが、ある者からすれば全く異なる光景となって映る事となる。
『恨めしや……ああ、恨めしや』
『お母さん、お母さん、何処に居るの?』
『疲れた、疲れたよ』
『ヨシヨシしてあげる。だから、泣かないで』
『味がしないんだ、何も、しないんだ』
『大丈夫、大丈夫だよ。ほら、此処に居るから』
『此処は何処、私は誰?』
『残業は残業は嫌だ……死にたい、死にたくない』
『信仰の為に、命を捧げなさい』
『怖いよ、怖いよ、パパ、ママ……何処?』
『何でお前だけが生きているんだ‼︎』
『美味しい、美味しいよぉ』
蝶。青白く光る蝶が周辺に無数に飛び交っている。そして聞こえてくるのは、怒り、悲しみ、疑問、恐怖、悦楽の聲。それらが未練となって顕界に留まっている。蝶の姿をした者達、それらは全て顕界にて死した者達の霊魂である。中には三大勢力が原因で非業の死を遂げた者達も多数含まれている事だろう。
『こりゃ、凄い量やな。死亡事故の起きた場所でも此処までの光景は早々、起こらんで』
「龍脈に惹かれ、他所様から流れ着いた……殆どが浮遊霊に等しい。龍脈の流れが溝となって居る……」
『成程なぁ。悪魔連中は死者をも蘇生させる道具を使うと聞くで『悪魔の駒』と言う道具やさかい』
「……日に生命が死す運命と生まれる運命は決まっている。それを歪める行為は遺憾の至」
1日。その日に死する生命と生まれる生命は決まっている。コレを『運命』と言う。事故に遭っても生き延びる者、唐突に死ぬ者。その現象は予め決められた『運命』に過ぎない。だが、悪魔陣営はその『運命』を歪めている。その最もたる例が『転生悪魔』と呼ばれる存在。その存在が一時的に顕界に現界するのと生態系に新たに加わるのでは天地との差が生じる。後者は最早、魔縁と言って差し支えない光景となろう。
「此の儘だと何れは悪霊となる。その前に、然るべき場所へ……」
巫女服の少女は背負って居た細長いケースを降ろす。そして、身軽な体勢となった少女は一歩前に出る。
「現の流浪なる御霊達よ。絶え間無し闇に辿りし御身を根國底國に誘ふ。然れば妣國、彼の寿ぎを……寿ぎを恐こみ恐こみ聞こし食せと白す」
祝詞に近い詠唱を行う。すると、巫女服の少女の後方、デパートの屋上付近から青白く仄かに光を伴う鳥居が競り上がる。その門の下には空間の歪みらしきモノが見て取れる。
『聞こえる……彼方から』
『何処かへ、行ってしまう』
『パパ、ママ……其処に居るの?』
『優しい光……』
青白い蝶達は巫女服の少女が開いた『門』に引かれて吸い込まれる様に飛んで行く。彷徨う魂は相応の妖が常世へと連れ去って行く(実際は捕魂だが)。
『側から見りゃ綺麗やけど、こんなにも湧くとはな。明らかにこの駒王って土地は歪な龍穴と化してんやろうなぁ』
「人工の龍穴の可能性もある……力を求めて引き込み、不必要に混ざった結果穢れた瘴気、妖気が滞留し続ける。悪魔にとっては心地よいかも知れないけれど……」
『わー、想像したくねぇぞ、そんな光景。デカ過ぎる『力』ってんは、闘気を引き寄せちまうしなぁ』
「……残念だけど、既に手遅れの状態。その気配に惹かれたのか、強大な存在がこの土地に居る」
『マジでか⁉︎ 俺は感じへんで⁉︎』
「今はかなり微弱。でも、その内、覚醒するかも知れない」
この場所に屯して居た霊達は『門』を通り常世へと参って行った。その姿を見届けた後、鳥居は青白い炎と化して消え去って行ったのだった。
『そうでなくてもこの地は無茶苦茶な気で溢れとるわ。この渦の様な気を何とかせぇへんと気分悪うてしゃあないわ。それにほれ、居るわ居るわ、悪魔の気配が感じ取れっで然も複数や。どうやら複数人が彼方の方に向かってんなぁ、つー事ははぐれかいな?』
管狐が『悪魔』の気配を感じ取ったと告げる。場所は高い場所であり、管狐の言う気配の場所に赴くには距離がある。移動する暇は無いが故に日頃から携帯している細長いケースの開く。其処に納められていたのは巫女服の少女にら似つかわしく無い現代兵器の一種が姿を現した。ボーイズ対戦車ライフルと呼ばれ小柄な体格の巫女服の少女にとってはデカい代物。そもそも、巫女に対戦車ライフルと言うアンバランス極まりない組み合わせは凄まじい。
「五七。風速、遮蔽物の有無、及び第三者の到達時刻」
巫女服の少女は慣れた手付きかつ、五七と呼んだ管狐にその様な指示を投げる。五七も狼狽える事なく探知を行う。
『あいよ。おまはんの現在向きで乾の方角や。対象のはぐれは廃屋は風雨に晒されて然程の耐久性は無ぇわ、壁越しに行けるで。んで、悪魔一行が対象と接触すんまで大凡、5、4分後やな。猶予はあんま無いで』
巫女服の少女は伏せて屋上の転落防止の柵の隙間に銃身を覗かせる形でボーイズ対戦車ライフルを構える。使用する弾丸はベルテッド、俗に言えばマグナム。其処に少女の宿す霊力を込めた霊弾となる。
「Vanitas vanitatum et omnia vanitas.」
その言葉と共に夜中の街中にて一筋の風が起きたその直後にははぐれと思わしき号哭に近い咆哮が轟いた。
『おまはん。狙撃する時、しょっちゅうソレ言うけど……それ言うと本当に皮肉にしか聞こえんなぁ』
「私は現実に生きている。ただ、それだけ」
『ほんま、皮肉やでな。まぁ、そうなってもうたんはしゃあないっちゃしゃあないけどな。ほんま、痛々しくてしゃあないわ……』
轟音を轟かせた以上、異変に気付かれるのは必定。巫女服の少女は速やかに撤収作業を終わらせてその場から立ち去る。狙撃を旨とする者は留まってはならない。何故なら、バレたら終わりであるから。
その数分後、現場に訪れた悪魔一行は頭部を撃ち砕かれ脳漿らしきモノを撒き散らした状態で絶命したはぐれ悪魔の亡骸を見て絶句するのであるのはまた別の話。
魂を常世へ送り、更にはぐれ悪魔を滅した後、アパートの一室に戻ってくる。五七は初日から『疲れたわ〜』と言いたげな状態で寝転がる様な体勢で浮遊している。
『気配からして恐らく、領主名乗りしている悪魔に勘付かれたんちゃうか?明日にゃ、接触くっかも知れんで』
「白を切れば良い……それより、寝るから」
『おー、とっとと寝や寝や。寝ななちっこいままやで〜』
「うっさい……」
『って、布団敷いて寝ろや、大空ェェェ‼︎‼︎ 風邪引くぞ阿保ォォォォォ‼︎』