翌日は土曜日。それでも駒王学園の生徒会のメンバーは溜まっている生徒会の仕事を処理する為に生徒会室に集まって作業を進めていた。
「リアス様が眷属を引き連れ、数日前から発生していた悪魔祓い……いいえ、日本神話の神気を放つ元凶を突き止めるべく行動していましたが、突如として冥界に飛ばされたそうです」
生徒会の副会長から昨日に起きたリアス達の行動の顛末を生徒会の会長。支取蒼那は溜息を吐きながら目を伏せる。彼女もまた人間では無い。悪魔『シトリー』のソーナ・シトリーであり、生徒会も彼女の眷属で固められている。
彼女は町中に広がった『破邪の気』の事をいち早く察知し、駒王町に突如として建てられた日本屋敷の存在から『日本神話』が動き出した事を把握。副会長であり日本人であり古い家系出身であった真羅 椿姫と共に速やかに対策を講じる。『破邪の気』は文字通り魔を祓う神気。魔力の低い者は徐々に消耗して死に至る。事実、昨日に侵入したはぐれ悪魔はその破邪の気により衰弱死したと言う報告も寄せられていた。その死体は忽然と消えてしまっても居る。
その為、椿姫と共に『破邪の気』の効力を弱める『魔守りの護符』を作った。コレは悪魔の為の護符であり、携帯中限定ではあるが『破邪の気』をある程度抑制する効力を持つ。しかしながらコストが高く生徒会の人数分しか用意出来ないのが現状だった。
「日本神話の怒りに触れたのかも知れませんね。領土と公言してしまうのは些か出過ぎた真似だと言わざるを得ません……実際の領地では無いと言うのに」
領地経営の練習場所として充てがわれたに過ぎない。それをリアスは『自分の領地』だと認識して公言してしまっている。コレが他神話の陣営ならば何とか誤魔化しは出来るかも知れないが、よりにもよって日本神話に啖呵を切ってしまっている。
「他にも、悪魔専用の隠し施設が悉く破壊されています。此処までバレていては『練習』と言っても通じないでしょう」
一夜にして悪魔専用の隠し施設が発見されて粉砕されても居る。学園地下に併設されていたグレモリー家が使う電車駅も漏れなく破壊されていた。
「いずれは日本神話と会談をせねばならない時が来るだろうと思っては居ましたが、こうも拗れた状態となると……」
この事から間違いなく日本神話に属する者がこの町に居る。具体的に言ってしまえば、その候補には目星は付いていた。『破邪の気』が出現し始めた日に転校してきた転校生……名前は皓咲 狐花。
「日本神話は荒れる時は荒れます。その気になれば町1つ滅ぼす事など造作もありません。現に昨夜、莫大な迄の規模の霊力……それこそ魔王様クラスの魔力の奔流と言っても差し支えない渦が一瞬ではありますが発生していました」
「……ですよね。悪魔社会では日本神話は軽視しがちで情報が其処まで多くない。椿姫が私の眷属に居るからこそ、正しく認知出来ていますが……この状態だと危険ですね。間違いなく外交問題に直結します」
ソーナの夢の為にも、此処で挫ける訳には行かない。ソーナには『学校を建てる』と言う夢がある。現在の悪魔社会では教育関連の制度は整って居ない。そこで日本の教育制度を学ぶべく日本の人間達が通う学校に通い実地で学ぶ道を選んだ。外交問題で破綻してしまえば、その夢所では無くなる。
「では?」
「……一度、略式にはなりますが会談を行い相互の意思疎通を測りましょう。後、リアス達には伝えない様に……大方、話が拗れかねません」
シトリーは『日本神話』に属するであろう皓咲 狐花と会談の場を設ける方針を固めた。小柄な体格の幼女と言う認識ではあるが、どの様な立ち位置かは把握し切れていない。どの様な人物かは分からないが可能ならば眷属に勧誘したい所でもあった。
「ですが、乱入される恐れもあります」
「……ですよね。何かしらの拍子で情報が漏れるかも知れません。それに一瞬で人間界から冥界に飛ばす技法に付いても明確な方法は分かりません……」
土曜日。と言う事もあり狐花の日本屋敷『皓咲屋敷』では——。
「本当に何も無いっスね……だだっ広い部屋ばかりだと、ちょっとアレだと思うんスよ」
『しゃあないやろ。狐花が家具の類を基本使わん生き方しとったからな……飯も基本的に虫ばっかやからな』
「……昆虫食がデフォだなんて流石に聞いて無いっスよ〜」
『あ、今日の昼飯はスズメバチやとよ……勿論、生きたままやで?ホンマにどっから持って来たねん……』
「まさかの踊り食い⁉︎」
狐花の皓咲屋敷は主に地上の本屋敷と地下空間に広がる『皓咲城』の右城と左城の3区画に分かれていた。狐花の杜撰な生活ぶり故に殆どの部屋が空き家同然で何も置かれていない有様。適当な部屋を使えば良いと言う事でベンニーアは右城の8階の部屋を借りる事となった。部屋と言っても普通に普通に大部屋であり仕切り壁が欲しくなる程の広さであった。
そして、食事も虫が基本と言う状態……流石に死神もドン引きであった。
「さ、流石にスズメバチを生で食うなんて、そんなアホな……」
『そんなアホな真似が罷り通るのが狐花やからな……俺様も『人間が食うモン食え』と何回も言っとるんやけど、全然聞こうとせえへんわ』
「苦労してるんスね……」
『その内、そこら辺の樹木を引っこ抜いて食い始めるやないかと思うて戦々恐々やで……』
五七は遠い目をする。狐花は見た目は幼女、中身は危険級野生児。幼少期の教育者がアレな面子ばかりだった所為か、見事な迄のバイオレンスクレイジーな思考回路に仕上がってしまっている。
「食卓に木の枝とか枯葉が出されない事を切実に祈るっス……」
『そう言う意味でも狐花には対等に話せる輩が欲しい所やねんけどな……』
五七とベンニーアが生活的な意味で戦々恐々としている頃、狐花はと言うと。
『お嬢さん。日本神話からの返答や追加報告が多数、来ていますよ』
右城3階。その一画が狐花の部屋になった。その部屋の1つもやはりだだっ広いだけの畳張りの部屋であり、壁には対戦車ライフルが立て掛けられており、その他には申し訳なさ程度に机があるだけであった。その机の上には高天原から紙媒体での書類が複数枚、置かれている。
「ん……」ボリボリ
恐介が今朝、持ってきた書類に目を通しながらクマバチを生きたまま齧る。大変、行儀が宜しく無いが……咎める者は居ない。
『日本神話はハデス殿の会談に応じる姿勢の様ですね』
「ん、場所は此処で行うと……面倒臭い」
『……高天原だと距離が遠いので御座いましょう。と言うか……伊弉冉尊様が好き放題に暴れておいでですので、そう言う意味でも危険かと』
「…………」
感情の赴くままに破壊を撒き散らす伊弉冉尊様……下手すれば会談開始1秒後に会場諸共、吹き飛ばしかねない。
『それから、日本神話が引き取った3人の処遇に関してなのですが』
「忘れてた、どうなったの?結局、処刑したの?」
そして、日本神話が引き取ったアイラ、アーシア、静香の3人の処遇。狐花は素で忘れていた挙句、結局は処刑したのかと尋ねる。普通に殺しに掛かる姿勢は恐ろしさを感じさせる。
『……お嬢さん。何も全て滅ぼせば良いと言う訳ではありませんよ?』
「何故? 全ては無に還る、違いはそれまでに掛かる時間だけだよ。皆、死ぬ運命にある……私も、人間も、神秘の果ても形あるモノは滅びる様に設計されているんだから」
『……』
生命ある者、須く滅ぶ運命。違いは時間の有無でしかない。ある種の達観した視点の言葉。
『……その意見は否定はしません。が、向けるべき視点が他にもあると思いますよ? 殺戮と蹂躙だけでは、余りにも寂しいではありませんか?』
「……?」
『話を戻します。3人共、正式に巫女として遇する事になりました。差し当たって高天原は伊奘冉様が破壊を撒き散らす為に流石に危険と言う事で
「ふーん、分かった」
『差し当たって問題が生じます』
「……?」
恐介の言葉に狐花は疑問符を浮かべる。恐介は冷や汗を流しながら言葉を続ける。
『あのー……その、お嬢さんの屋敷には生活用品が余りにも足らなさ過ぎると申し上げます。家財、衣料品、他諸々と足りない物が多数、御座います。恐らく、彼女達以外にも滞在なさる方が来るやも知れません。夜摩天様とか』
狐花の生活方針はどちらかと言うと野生児其の物。と言うよりも余り余計な物とかは使わない性質であったが所以。此処まで自然一体な生活方針を是としている者は少ないだろう。敢えて言うならばアマゾンやらジャングル出身の者達か。
「……うー、面倒」
そう言いながら狐花は畳の上を転がる。
『あのー、少しは女の子としての体裁を持って下さい……ああ‼︎ ダメです‼︎ と言うか襦袢を付けて下さい⁉︎ 袴の裏、素肌じゃありませんかッ⁉︎』
「天鈿女命様は裸踊りだけど……」
『あのお方の真似は為さらないで下さい‼︎ と言うかあのお方は、教育に全面的に悪過ぎます‼︎ 存在全てがッ‼︎』
「……うー、面倒臭い」
『お嬢さん。日本神話としての一員として節度を保って頂かないと……ああ、はしたないですよ⁉︎』
「悪魔滅ぼす、慈悲は無い。或いは地球を滅ぼせば手っ取り早くて良いんじゃない?」
『余りにも短絡的過ぎますよ⁉︎ もう少し現実的な方針に切り替えて下さい⁉︎ そんな真似をすれば夜摩天様が過労で倒れますよ⁉︎』
狐花の無茶苦茶さに呆れながらも恐介は何とか軌道修正しつつ話を進める。アイラ達が来るのは明日の日曜日。その日に家財や衣料品諸々を用意しようと言う事になった。