雷ガ咲く花園デ   作:夢現図書館

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虚無の虚無

 

 

 

「悪魔か。もう色々と面倒……‼︎ 駒王学園諸共、消えて貰う。先に登校していた人間は己の不運を恨みながら死ねば良い……‼︎」

 

 

 

 

—— 異質な雰囲気を纏う少女が1人だけ交ざっていた。日本神話陣営特有の神気と呼ばれる気配……恐らく彼女が皓咲 狐花。名前の通り、白い彼岸花の髪飾りを付けている。

 

 ソーナとリアスは現れた一行に視線が向いた。リアスは憤怒に顔を染め上げ、リアスの眷属達は臨戦体勢で構える。対するソーナは、待ち構えていた為にある種の心構えをして居たがよもや開口一番に殲滅の意志をぶつけられるとは思って居なかった。然も学園に居る人間諸共、滅ぼすと言う正気の沙汰とは思えない言動。

 

「ふーん、グレモリーの名前は丸分かり、と言う訳ね。センスが無い行動……挑発のつもりなら100点を付けてあげるわ。アレ、私もすっかり染まっちゃったかも?」

 

「悪魔が地上に蔓延る……。何と恐ろしい光景なのでしょうか……この地に住む人々の為にも悪魔は滅せなければなりません」

 

「はい、お姉様‼︎」

 

——ニューエイジャーさんも、向こうに属する事を決めたのですか……機会があれば眷属に勧誘したかったのですが……もう無理な話の様です。それ所か、皆さん……やる気の様です。流石に日中で大暴れされては隠蔽し辛い上に日本神話との軋轢が加速します。

 

「両者共に落ち着いて下さい‼︎」

 

「黙れ、産業廃棄物」

 

『だから、どうしてそんな言葉は理解出来て常識は理解しようとせぇへんねん……』

 

 ソーナが今、正に殺し合いを始めようとするリアス達と狐花達を静止しようと声を掛けるも、狐花から当然の拒絶の言葉を叩き付けられる。だが、ソーナはめげない。

 

「リアスも貴方方も、此処で争うのは止めて下さい‼︎」

 

 ソーナは目一杯の声で両者の衝突を阻止した。リアスも知人の思いも寄らない声量に気圧されたのか、静止した。対する狐花は無表情のままで、様子を見ているのか動こうとしない。

 

——止まってくれた……。自分自身でも余り出ない声だった……でも、このチャンスは逃す訳には行かない。彼女の言動から、本気で来る可能性が高い……なら、此処で対話による解決策を展開するしか無い。生徒会長としての意味もあるけれど……人間のこの学園としての生活は変え難いモノだから。

 

「……此処では目立ちます。場所を移しても構わないでしょうか?」

 

 ソーナは校門近くで言い争うのは目立ち過ぎると考えて場所を移す事を提案する。乗ってくれるかどうかは分からない。少なくとも相手は臨戦する態勢であるのは明白。然も周囲の事などお構い無しの姿勢。

 

『……おまはん。どう言うつもりか分かって言ってんか?』

 

「もう、前置きは無しにしましょう。私は略式手続とはなりますが貴方方と会談したいと思っています」

 

 ソーナは勿体ぶるのを止めてそう告げる。悪魔陣営である自分と日本神話陣営である狐花との略式的な会談。一歩間違えれば戦争に突入する可能性も否定出来ない。子供の戯言、と片付けるには大き過ぎる問題でもある。

 

『ふーん。で、狐花?どうすんや?』

 

「Vanitas vanitatum et omnia vanitas.(なんという空しさ、なんという空しさ、すべては空しい)」

 

 ポツリと狐花はそう告げた。その直後、リアス達を始めとし、ソーナ自身も突如として体内から湧き上がる様な苦痛が全身を駆け巡る。下級悪魔である小猫や裕斗は喀血までした。内臓が砕けるかの様な衝撃……貴族であるリアスやソーナも小さくは無いダメージを負った。

 

「ッ⁉︎ ぐがっ……⁉︎」

 

「な、何を……したんだ……⁉︎」

 

「旧約聖書の文献の1つ。その有名な言葉……悪魔は聖書の文献にも弱い……君達にとって、重要な存在の言葉でもある筈」

 

『おまはんが言うと皮肉にしか聞こえへんけど、此処まで効果があるとはな……』

 

「……放送室を占拠して校内放送の音楽として讃美歌をエンドレスで流し続ける?」

 

「まぁ、良い案ですわ‼︎ 神の祈りを聴きながら甘いお菓子を食べましょう」

 

『……そんな馬鹿な……⁉︎ 狐花の行動が可笑しい。そんな、そんなアホな事あるかいな……そんな、生優しい行動なんて、ありえへん。マジでありえへん‼︎ 狐花⁉︎ まさか、風邪か⁉︎ 風邪引いたんか⁉︎ ま、まさか……昨日摘み食いで食った、セアカゴゲグモに腹が当たったんか⁉︎」

 

「え、ええ……⁉︎ お、驚く所は其処なんですかっ⁉︎」

 

 蜘蛛を食べて風邪を引いたからと言う理由。殲滅思考の狐花がまさかの言動に五七は心底驚愕する。普段の狐花ならば、そんな甘い対応はしない。寧ろ、軍団戦法で圧殺しに掛かったり、駒王町を更地にするだの言い出す方がまだ自然であった。

 

——……寧ろ、虫を常食する方が異常だと思うのは私だけなのでしょうか……? それよりも、流れが悪いですね。対話する意思が見えてきません……‼︎

 

『おい、ヤキトリィィィィ‼︎ 少彦名命様から風邪薬貰って来いやァァァァ‼︎ あ、苦い奴は厳禁やで⁉︎ この町がまず保たん‼︎』

 

『……イヌッコロに指図されるのは忌々しい事、この上ありませんが……有事や有事。致し方ありませんね』

 

 狐花の対応に恐介も『非常事態』だと認識して納得して大急ぎで飛び立った。後、ついでに狐花は苦いモノが苦手である事も判明した。

 

「……貴方達、狐花ちゃんをどんな目で見ているのよ……可愛い幼女でしょ?」

 

 だがソーナからすればそれは青褪める行為。それは悪魔にとっては死刑宣告にも等しい。そんな行動をされてしまえば学園内に居る悪魔は全滅は確実視であった。それでもつい先程や数日前の行動に比べればかなり大人しい行動と言える。普通の人間に讃美歌を聞かせても興味がない人間は煩わしく聞こえるだけであり生命に影響は出ない。

 

「そ、そんな真似、させる訳には行かないわ‼︎」

 

 狐花達のギャグ沁みたやり取りではあるが、リアス達、悪魔からすれば学園中に悪魔の天敵である天使や、教会の『讃美歌』を学園中にエンドレスで流され続けては堪ったモノでは無い。駒王町自体に『破邪の気』、学園内に『讃美歌』を流され続ける……正に悪夢と言う他に無く、悪魔であるリアス達から見て狐花は正しく『悪魔』そのモノの所業にしか見えなかった。

 

——行けません……‼︎ 状況は大変、宜しくありません。日本神話陣営なのは分かっていましたが……それだけ(・・・・)が脅威ではない。自己陣営に固執しているとは限らない……‼︎ 人間は勉学する、勉強する、学習する……‼︎ 日本神話陣営でありながら天使陣営の知識も有している可能性を完全に放置していました……‼︎

 

 天使や神、聖書に関するモノは相容れない。それを行使されれば悪魔である自分達では旗色が悪い。その気になれば、手を出さずに屠り切る事も可能では無いか?とも思えてくる。

 相手は悪魔を殲滅する姿勢、対話を求めようとも受けてくれる気配は無い。ソーナはこの状況をどう切り抜けるか必死に頭を回転させて活路を探す。

 

「よう、お前ら学園の前で何、屯してんだ?井戸端会議すんなら、教室でやれや」

 

 その時、校舎の方からチュッパチャプス(激辛ピーチ味)を咥えた紫先生が後頭部を掻きながら現れた。その姿を見た一誠は別の意味で青褪めた。

 

「おう、兵藤。新しい1日の始まりだ、復習予習はして来たか? 喜べ毎週月曜日にゃ小テストをしてやるぞ」

 

「な、なんでそんな事をするんだよ⁉︎」

 

「継続は力なり。と言うだろう? 叫ぶ元気があるのならば大丈夫だな? ああ、来週からお前ら3人、1週間の合宿に連れて行ってやろう。何、旅費とか宿泊費とかの心配は要らんぞ?俺のポケットマネーから出してやるから安心しろ。その煩悩を排除出来るステキな合宿だ」

 

「い、嫌に決まってんだろ⁉︎ つか、何処に連れて行く気なんだよ⁉︎」

 

「んー、やっぱお前らの様なエロガキの煩悩を退散させるにゃ寺が1番だと思ってな。仏閣体験を兼ねた合宿を計画した。ああ、親御さんにはゆっくり話して認可してあるから安心しろ」

 

 紫先生は一誠の襟首を掴んで引き摺りながら校舎へと向かって歩き始めながら説明する。一誠は狐花の聖書の一節を聞いた事により体力が削られた為に暴れる体力が無い。

 

「て、寺ァ⁉︎」

 

「おう、まぁ、この辺だと寺とか無いから馴染み薄いかも知れねぇけどな。良かったな、一足先に仏閣体験なんて早々、お目にかかれないぞ?」

 

 そして紫先生が根回して仕組んだ特別合宿の存在を聞いて思わず目を見開く。転生悪魔である一誠……教会や、神社も鬼門であると同時に仏閣もまた、鬼門でもある。何せ仏法は降魔の概念が否応無しに付随するのだから。最も、一誠はリアスからはそんな情報は教えられていない。リアス自身、仏法関連にはノーマークであり教える程の知識を有していないのが理由。

 

「保健体育を蔑ろにしろとは言わんさ。が、お前らは幾ら何でも煩悩が過ぎると思ってな。何、体験程度あまが禅とか軽めの滝行とかしてその煩悩を払って貰うが良いさ」

 

「ふ、巫山戯るな⁉︎ 男の権利だぞ⁉︎ それを失うだなんてどうかしているぜ⁉︎」

 

 そんなやり取りをしながら、紫先生は一誠を引き摺りながら校舎へと入って行った。その様子をリアス達は唖然とした顔で見送るしか無かった。

 

「……白けた。今日は朝から疲れた、もう寝たい」

 

「アトリエでお昼寝する? その寝顔、描いちゃおうかな?」

 

 狐花は一言、そう呟きリアス達の前を横切って校舎へと向かって行く。リアスが動こうとしたがソーナは手を伸ばして無言で首を振り静止させた。この場で争うのは危険だと言わざるを得ない。

 

「……放送室は犠牲を出してでも死守します。リアス、貴方は首を突っ込まないでください」

 

「ソーナ、どう言うつもり?」

 

「……私も目の前で友人が死ぬのは見たく無いからです。此処は引き退って下さい」

 

——……少なくとも現時点では友好的な会談は望めない。何とか彼女の絶対的な防壁を崩す糸口を掴まない限り……対話には望めません。どうするべきか……。

 

 

 

 

 


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