雷ガ咲く花園デ   作:夢現図書館

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 伝説の傭兵の食レポ風味。


アトリエのテーブルマナー

 

 

「うわ……びっくりするわね。日本じゃ地震が多いって聞いたけど、直に体験するとこんなに惨事になるのね」

 

 お昼頃、駒王学園では昼休みの時刻。部活棟の一角であるアイラのアトリエでは今ではすっかり狐花達の溜まり場となっていた。芸術部はアイラただ1人故に本人も然程、気にはしなかったので黙認状態である。

 その時に突如として激しい縦揺れの地震が襲った。数秒間の短い揺れではあったが被害は甚大であり住宅の煉瓦や固定されていないゴミ箱やベンチ等が吹き飛び塀や通行する車両や通行人にぶち当たり二次被害が各地で発生した。駒王学園内でも、椅子や机が吹き飛び散乱し転倒や、ガラス等が割れる等の被害が出た。アトリエでもキャンバスや絵の具が飛散して散々な光景が広がる事となった。

 

「あうう……地震なんて初めて見ましたぁ……‼︎」

 

「大地の怒り……? コレも試練なのでしょうか……?」

 

 アーシアと静香も日本とは別の場所で過ごしていた期間が長いので地震とはほぼ無縁。目の当たりにすれば動揺もする。

 

「んきゅ〜……」

 

 そして狐花はと言うと体重の軽さが裏目に出たのか揺た時にボールの様に弾んで壁やら天井にぶつかりバウンドして複数回激突を繰り返した事により見事に伸びていた。

 

『何つーか、狐花。完全にバウンドボールみたいな事になっとっな……‼︎』

 

 五七は常に浮遊している為に地震の影響は受けなかった。そして狐花が伸びている光景を呆然と眺めている。

 

「あ、あはは。彼処まで派手に跳び跳ね回るとは思って無かったね……幾ら子供でも彼処までは早々無いと思うんだけどね」

 

『……お嬢……コレは何事か?』

 

 その時、高天原に狐花の薬を貰いに行っていた恐介が無事に戻ってくる。だが、戻って来て早々にアトリエの惨状を見て首を傾げた。

 

「え、えと……その……」

 

 アーシアが状況を説明した。突発的な地震が発生してアトリエ内が荒れた事。その時の振動で狐花がボールの様に跳ね飛んでぶつかりまくった為に痛みでダウンした事を説明した。

 

『成程。さもありませんね。一先ず……片付けましょうか』

 

 取り敢えず散らかってしまったアトリエを片付ける事から始めるのであった。その間、狐花は伸びたままであった……。

 

 

 

 

『一先ず、お嬢さん。薬です……ああ、少彦名命様は水無しで飲める丸薬を処方して貰いました』

 

 粗方、片付いた後。復帰した狐花に対して恐介は少彦名命様から頂戴した風邪薬を狐花に飲ませた。狐花の言動から五七は『風邪や‼︎』と判断したから風邪薬を飲ませる事にしたのである。当の本人は嫌そうな顔をするのは無理も無い。

 

「直ぐに効くとは思えないけど……?」

 

『いえいえ、少彦名命様の薬は即効性に信がありますれば……強いて言えば』

 

 その直後、狐花を中心に波動の様なモノが放出された。その波は空間を叩いて波紋の様に広がる。

 

「え? な、何が起きたのですかっ⁉︎」

 

「……何が起きたのでしょう?狐花ちゃん、何ともありませんか?」

 

「水面の波の様なモノが見えた気がするけど、何とも無いわね?恐介、何が起きたの?」

 

 その波動は静香達を貫通するが変化らしい変化は見られない。その時、後方で何かがドサリと斃れる物音がした。その方に目を向ければアトリエの扉の引き戸付近にて下半身の両脚だけが残された学生の死骸が転がっていた。それはまるでアトリエに入ろうとした時、上半身が消し飛ばされ両脚が重力と慣性に従って倒れた様な構図であった。

 

『今回の風邪薬には『半径50m以内に悪魔の上半身だけを蒸発させる波動を放つ』と言う副反応があると、少彦名命様は仰っておりました』

 

『何やねん⁉︎ そのピンポイント過ぎる副反応は⁉︎』

 

 薬には副次的に本来の効能とは別の作用が起こる事がある。偏頭痛や眠気、下痢と言った好ましくない作用の事。しかし、今回、狐花に処方された風邪薬には余りにもピンポイント過ぎる副反応が搭載されていた。薬を飲んだら近くに居た悪魔が昇天した……笑いの種になりそうなオチである。悪魔本人からしたら堪ったモノでは無かろうが……。

 

「……じ、上半身が綺麗に無くなってますっ……‼︎」

 

 時間が止まった死体。その足の太腿から半ば付近の断面図から鮮血の血飛沫が飛び散り木造の廊下を赤黒く濡らした。教会育ち故に怪我の類は見慣れては居たが、切断された部位を見るのは初めてであり、思わず息を呑んだ。

 

「まぁ、素晴らしい効果ですわ。悪魔が滅せられ浄化されて、また一歩……世界が救われました」

 

「……静香ってポワポワしている割には容赦無いよね」

 

『いや、この中で1番、容赦なんて言葉は無縁なのは』

 

「んにー……」グー

 

 静香は悪魔が滅する服用薬の副反応を見て喜びの声を上げる。如何なる手段であろうと悪魔がこの世から消え去るのならば喜ばしい事である。アイラは静香の感性がある意味、歪んでいるのを見て呆れの声をあげる間、狐花は放置された悪魔の両脚の近くに近寄り、そして。

 

「んに」モキュモキュ

 

 一心不乱に喰らい始めた。皮膚を剥いで骨を避けて筋肉の部分だけを喰い千切り食べている。悪魔は人間では無い、故に人間が獣の肉を喰らうのと同意。即ち人間と酷似したケダモノの肉を食べるのと同じ事である。

 

『狐花やと思うねん。曲がりなりにも聖職者で肉食は避けてんやけど……悪魔とかは例外的に喰らう事は許されてんねん。まぁ、悪魔は人間やないから文句は言う筋合いは無いんやけど……見た目がアレやからな……』

 

 五七がそうボヤく中、狐花は肉を喰らい尽くした。脚の太さは細く、女子高生の姿をした悪魔だったらしく、食べ終わるまでに掛かった時間は然程、掛からなかった。そもそも狐花は悪食寄り(昆虫食が横行している事から)で、小刻みに食べるタイプ。量としては丁度良かった。

 

「(ーwー)」ゲプ

 

『……ま、此処に来たのが運の尽きってやっちゃな。で、その骨どうっすっかい?』

 

「……身体の成長途中でそれなりに柔らかかった。若い悪魔の肉はソコソコ、美味しい。今度は煮込んでポトフにして食べたい」

 

『誰も味の感想は聞いとらんわい。そも、その骨はどうすんや?流石に学校内に骨は置いとかれへんで?』

 

「じゃあ持ち主(・・・)に返せば良い。自分から悪魔に魂を売った不埒者に救済は必要ないから」

 

 狐花は剥いだ皮膚を摘んで揺らしながらそう告げる。どうやら狐花は食べた(・・・)悪魔。否、転生悪魔が誰なのか把握していた様だ。

 

「は、はい。そうですよね。自ら堕落へと堕ちる……救えるならば救いたいのですが、その者にはその意志がありません。ならば滅する他に道は無い……そうですよね?お姉様」

 

「はい。そうなってしまえば肉体を滅ぼし転生悪魔の魂を救済する他に道はありません」

 

『……全くこの聖職者共は……‼︎ 滅殺浄化以外の方法は無いんかい。夜摩天様から怒られんで、殺すべきか生かすべきか見極める事を覚えいや……。で?食った奴は誰や?』

 

 五七が抹殺、滅殺、完殺一択の聖職者トリオを見て呆れると同時にそう尋ね狐花は転生悪魔のリスト(最新版)が纏められた手帳を取り出して541頁目を開いて口を開く。

 

「仁村 留流子。15歳。悪魔『シトリー』の眷属悪魔。自分の意思で悪魔に魂を売った愚か者。阿鼻地獄に流す事は確定事項」

 

 自分から悪魔に魂を売り転生悪魔となった者は裁判すっ飛ばして阿鼻地獄送りが既に決定している。と言うよりも閻魔王の場合『転生悪魔?面倒くさいから地獄行き』とする為に、どの道、地獄行きは変わらないのだが。

 

『ほー、さよか。コレが例の強制的な眷属化による転生悪魔やったら、夜摩天様から怒られる所やったな……』

 

 転生悪魔の件は夜摩天や十王の会議が難航している為に、現在の所は自ら転生悪魔と化した者は滅殺。已むを得ない事情込み(無理矢理や強制的等)で転生悪魔と化した者は一旦、保護や保留と言う方針となっている。

 

「恐介〜。この骨と皮を悪魔『シトリー』に返しといて。私はあの産業廃棄物が何処に居るか知らないし」

 

『畏まりました。例の翅蟲は生徒会室を根城にしておりますれば、其処に喧嘩状として叩きつけておきましょう』

 

 狐花は放送室を占拠して讃美歌を流そうかと仄めかす発言をしていた。今は放送室には悪魔『シトリー』の手駒が居るだろう。故に敢えて行かなかった。『やる気がある』と言う意思表示は牽制にもなる。狐花個人的には此の儘、学園ソノモノを融解させて人間達、諸共融殺してしまうのが手っ取り早い。が、ソレをすると嫌な予感がする、例えるならば夜摩天が見ている……様な気がしたのが理由。

 それに、何らかの形で自分達の居場所がバレるのは分かってもいた。その日の内とは、予想よりも早かったが。

 

「悪魔の甘言の言葉は信用しない。するモノか……するモノか……‼︎」

 

 恐介は仁村 留流子だった皮と骨を持って駒王学園の生徒会室へと向けて飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【狐花メモ】

仁村 留流子(両脚)

 皮を剥いで、骨を取り除く。血抜くかそのまま頂くかはお好みで。腓腹筋が特に柔らかく美味。次点でヒラメ筋。軟骨は野菜とのあり合わせが好ましいと思う。踵以降の肉は硬く、食用に向かない。
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