駒王学園は西洋風の校舎であり側から見れば私立のカトリック系の学校と受け取られるだろう。だが、見た目的には其処までカトリック要素が強い訳では無かった。そうであれば悪魔なぞ、駆逐されて然るべきであるからだ。
「皓咲 狐花、です……」
そして今日、駒王学園に小さくは無いがとあるイベントが1学年で発生した。1年B組に転校生が編入したからである。転校生と言うのは私立、公立問わず目立つイベントである。それが、美少女ともなれば否応無しに目立つ。然も、小柄であり保護欲を唆らせる小動物然であれば尚更であった。
「それじゃ、皓咲は其処の……ヴラディの隣が丁度、空いているから其処な」
そして担任教師も最近、赴任して来た教員らしい若い男性であった。何方かと言うとワイルド路線で適当な感じがする人物であった。紫と言う苗字の先生で普段から口にタバコに近いモノを加えているが……。
「はい」
「それより紫先生、教室でタバコはどうかと思います‼︎」
「安心しろ。コイツはチュッパチャップスだ、因みに味は『悪夢のハバネロ味』だ。後、俺は煙草は嫌いだから、其処は間違えるなよ?ほんじゃ、後は質問タイムとかは各自でやっとけ。後、蛆虫共の事も教えとけよ。他の教員共は何やってんのか知らんが……俺は認める気は無ぇからな」
そう言い口の中から飴を取り出す。赤、と言うよりもそれは黒かった。
駒王学園ではある個人的な問題を抱えていた。生徒達も『何故放置しているのか?』と言う疑念を抱かずには居られない問題を……学園自体も何故、取り締まろうとしないのか?と言う疑問を呈せずには居られない問題、それは——。
「聞いて驚け、新情報が入っているぞ」
「何だ?」
「何と、今日。一年に転校生が編入した。然もかなりの美少女だ。マスコットの塔城と同じくらい小さく小柄でスレンダーだそうだ。そして、なんと、今日の体育がある組だ。然も、この休憩時間の後、だ」
「「何⁉︎」」
そんな会話が堂々とやりとりされている。人数は三人組だ。茶髪に着崩した服装の少年、兵藤一誠と、眼鏡を掛けた少年、元浜、そして丸坊主の少年、松田の3人組。その3人組は駒王学園である種の……いや、悪い意味で有名となっていた。
「ぐふふふ、ますます逃せないな……‼︎」
「ああ、この眼鏡の数値化の神技を見せる時が来たようだ」
「良し、行くぞ。松田、元浜」
不穏な言葉と共にニヤけた面構えをしつつ行動を開始する。目的地は校舎1階にある女子更衣室に隣接する場所。その場所は中庭近くであり尚且つ、植木により外部から見ても死角になり易い位置にある。その為、ある意味、彼らにとっては格好の隠れ蓑と化していた。
「さて、何時でも来てくれて良いぞ……‼︎」
「数値化の準備は何時でも出来ている……待ち遠しいな」
更衣室には換気用として下方の隅に小窓がある構造であった。其処を開いて中を覗く様な体勢をしている。そう、この者達は『覗き魔』なのである。それも1度では無い、もはや数えるのが馬鹿馬鹿しいレベルの覗きを敢行しているのである。
最初は好奇心か確信犯か、発覚しても逃亡を繰り返す。覗きだけでありそれ以上の行為をしてこなかった為に大した対策が為されなかったが故に処罰を受けない事に関して味を占めた彼らは欲望を加速させる。
覗きに留まらず、公衆である教室内でエロ本等の未成年にとって害悪物を持ち込み視聴、談義、黙読する。猥褻行為を示唆する内容を周囲に理解させる声量で談義を始める。指摘をすれば卑猥な単語で反撃すると言う側から見れば迷惑行為其の物である行為を平然と行う。故に彼らは『変態3人組』と言う蔑称を頂戴するに至る……のみならず開き直って堂々する始末。
「お、来たぞ来たぞ……‼︎」
「お、あの子か……どうだ元浜……‼︎」
「待て、あの位置では見えない……‼︎」
『皓咲さん。松田、元浜、兵藤の変態3人組には気を付けてよね。アイツら2年生の変態で、学校にエロ本やら持ち込んだりしているのよ。他にも覗き魔って言われているわ』
『ん……?』
『女子の着替えを覗いて鼻を伸ばしているのよ。本当にサイテーなんだから……‼︎』
『モテない男の僻みって最悪よ。貴方も気を付けた方が良いわ』
女子更衣室に入って来た女子達。転校生に対して女子達が変態3人組である一誠達の事を注意を呼びかけていた。1年生であってもその悪名は轟いている。
「言ってくれるぜ。俺達は正直に生きているのにな」
「ぐへへ、何時でも見ているぜ。さぁ、見せて見ろ……‼︎」
「ま、まさか……コレは……‼︎」
『って、し、皓咲さん⁉︎』
『ほえ?』
『あ、貴方……⁉︎ つ、着けて無いの⁉︎』
『し、然も……は、履いてない⁉︎』
『変……? 洋服は苦手……』
『『『変‼︎‼︎』』』
女子更衣室では騒然となっていた。主に狐花の状態に関して、である。その光景は覗き魔達にもハッキリと見られてしまっていた。
「ま、マジか……の、ノーブラノーパンだと⁉︎」
「ま、マジか‼︎ そ、そんな天然記念物が此処に現れたと言うのか⁉︎」
「
狐花の天然的な行動に驚きを隠せない変態3人組が歓喜に近い声を上げた。だが、その声が原因で女子更衣室内に存在がバレてしまう。
『へ、変態3人組よ‼︎』
『性懲りも無く覗いていた‼︎ 覗きよ覗き‼︎ 捕まえて‼︎』
「ヤベ、バレた。逃げるぞ‼︎」
「待て、一誠‼︎」
「俺達を置いて行くんじゃねぇ‼︎」
覗き行為がバレて、一誠達は速やかに逃亡した。日常的な行為故に撤収に移るまでの動きは迅速であった。それに加えて元浜、松田よりも一誠の方が身体能力が高く逃亡の足の速さも一回り上手であった為に一足先に逃げ果せる。
「「「待ちなさい‼︎ 変態共ッ‼︎‼︎」」」
後方から女子達が追って来る。その光景を見て取り残された元浜と松田はある作戦に出る。
「二手に別れるぞ‼︎」
「……50%の確率で助かる……乗った‼︎」
逃亡途中で元浜と松田は左右、別々の方向に向けて逃亡する。その為、追手も数が少なくなる。そう、彼らは考えていた。
「シメた‼︎ 松田の方に行った‼︎」
眼鏡の元浜は後方からの女子達の追手が松田の方へと向かった事に幸運を感じた。其の儘、校舎の裏に逃げ込んだ。この後は逃げ果せるだけ、松田の犠牲を糧に生き延びる。そう考えて前を向いた直後、後方から飛来する物体が元浜の後ろ腰部分に突き刺さり強烈な痛みが全身に駆け巡る。
「ぐ、ぎゃあぁ……‼︎ な、何が……⁉︎」
腰から発せられる強烈な痛みに耐え切れずその場に倒れ込む。身体能力で言えば自分が最も劣っている。思わず後ろに視線を向ければ、自身の腰付近に女子更衣室の扉が角から突き刺さっていた。
「と、扉が……角から、突き刺さっている……⁉︎」
「聖職者の……裸を見て良いのは、神だけ……」
そんな声と共に現れたのは制服に着替え直した狐花であった。無表情であり、怒っているのかどうかは分からない。
「……ッ‼︎」
『ほんま、愚かやなぁ。彼処まで堂々と覗きやさかいて……しっかし、狐花……流石に肉襦袢の類は付けとけや……』
狐花の学園生活最初の授業は『体育』であった。その際に女子更衣室に案内されて体操服に着替えようとした時、狐花が下着の類を全く付けていないと言う衝撃的事実が発覚。同時に並行して『変態3人組』の存在による注意喚起……は現実となって覗かれており、制裁の為に授業時間中に逃亡劇へと縺れ込んだ。その際、狐花は『穢罪』の対象の1人の前に現れたのである。逃亡する相手の動きを止めるにはまず、運動能力を奪うのが先決。それは狩りに於いて鉄則である。動きが素早い者に対してはそれが必須……。
流石に学園内で対戦車ライフルを使う訳には行かないし、霊力も常人には見えないとは言え顕界で行う訳にも行かない。ならばどうするか?答えは1つ……その場にある物を現地調達して即席の武器として利用する事。
其処で狐花は変態3人組を追う女子達が出払った後に女子更衣室の扉をひっぺ剥がして持ち出す。そして、その扉を逃げ延びたと思った元浜の腰に突き刺さる様に投擲したのである。小柄で華奢な体格の狐花が何故投げられるのかは疑問が湧くかも知れないが……本人からすればその疑問は些細な事でしか無かった。
「ま、待て……‼︎ わ、悪気は無かったんだ……‼︎」
『どーすんや、狐花。この目の前の鼻垂れ小僧をなぁ……少なくとも俺様は見えてねぇから普通の人間やで』
狐花の耳元には五七が浮遊している。無論、常人である元浜には見えていない。
「信賞必罰」
『そー言うと思ったわぁ。何やかんや言いつつも、おまはんは巫女やから、躊躇無ぇしなぁ』
普段はポンコツ、有事の際は冷徹になる狐花。そして、今は冷徹な狐花が表面化しており、其処には躊躇な心は無い。
「地上には聖人、善人……それから大悪党しか必要無い」
それは狐花が頻りに口にする言葉。ある種の座右の銘であり、彼女が冷徹である事を示す言葉でもあった。言うなれば彼女は融通が効かない面がある。そして、容赦が無くなればどうなるか……。
「も、もうしない‼︎ しないから……‼︎」
痛みに堪えつつ腰を上げれずに後退りしながら元浜は命乞いに近い言葉を投げる。しかし、狐花には通じない。何故なら、狐花は人の話を聞かないから。
「Carpe diem quam minimum credula postero. 故に痛み無き教育には無意味でしかない」
その時、元浜は気付かなかった。扉が突き刺さる際に発した音は誰1人として聴こえて無かった事。突然、追手が目の前の狐花以外来なくなった事。まるで世界が切り離された様な感覚に陥っている事を……。
「え?う、うわ、や、止め、ウギィアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎⁉︎⁉︎ ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎⁉︎」
『……人間社会を生きる上に羞恥心と言うモノは必要やって、誰が言ったやんやろうなぁ……』
元浜の断末魔の様な悲鳴が轟き渡るが、その声は誰1人の耳に届く事は無く、五七の冷めた言葉が零れ落ちた。無論、元浜の耳には自身の悲鳴で聞き届く事は無かった……。
元浜は生きています。最も男としては悲痛な事にはなりますが……。