某所、午後9時頃。
「…………」
『おーい、狐花。こないな場所に何しに来たんや?』
放課後以後、狐花はその脚で駒王町の外部へと出ていた。向かった先は人気の無い寂れた廃墟地区。此処は、昔は活気に満ちた町であったのだが過疎化が進行して若い人間は次々と都会へと引っ越して行きゴーストタウンと化していた。今では、人の気配も薄れて住むモノは曰く付きの者共ばかりと言える。そんな治安もクソも無い場所に彼女は要件があって来ていた。
「買い物……悪魔『グレモリー』を仕留めるには用意が足りない……かと言って市販では売られて居ないモノが必要になる」
『闇市ってか? まぁ、確かに……警察のポリさんの目がある場所やと負いそれと買えんもんな。まぁ、やり方は狐花に任せっけどな』
裏社会には裏社会のブツのルートがある。悪魔にもそう言うルートを構築して横流しにしている者も少なからず存在しているだろう。かく言う自分も、表の人間社会とは隔絶した世界の住人。やはりこう言う行動の方が性に合っている。
『……けどまぁ、良く知ってんな。俺様も初耳やで?』
「……五七が居ない時に見つけたから」
『さよか……』
暗い廃墟地区。蠕く影が見えた、大通りに這い出て来たのはボロボロの服を着た住所不定の浮浪者。肌もカサカサで髭も伸び放題……誰が見てもホームレスだと思える男性がフラフラとした足取りで徘徊している。狐花とすれ違っても見向きもしていない。
『認識阻害していると言ってもなぁ……流石にビビんな……あの体の人間を見んのは』
「……彼らは今を生きている。邪魔するのは野暮」
場所が場所なので、狐花は自身の存在を欺瞞させる認識阻害の結界を自身の周りに張って移動している。こんな夜中に学生服の幼女が歩いて居れば補導は確実。さも場所が場所であり浮浪者や破落戸の要らぬ襲撃を受ける事になる。無論、負ける気はしないが余計な殺生はするべきでは無い。殺戮やら蹂躙を是とする狐花でも、必要の無い殺戮はしない主義であった。
『ま、そうやろな。で?何時になったら着くんや?』
「もう少し……」
寂れた廃墟地区の外れの外れ。此処まで来ると照明の概念も弱くなって来る。街灯の寿命も途切れ途切れであり点灯と消灯を繰り返しており、夜空に浮かぶ星々や月の光だけが頼りであった。その光が照らすのは寂れて役目を終えた自販機、消灯して動く気配の無い信号機。割れた窓ガラスの破片が散乱し荒れ果てたコンビニ……。家屋も大半が廃れて廃墟となって沈黙した街並みが広がっている。
『……滅法静かやな。精々、虫の鳴き声位やな』
「ん……」モキュモキュ
『言った側から飛んでた蜻蛉を食うなや……』
草臥れた電柱から垂れ落ちる電線、恐らく何処かで切れたのだろうが、電線自体は生きており、時折スパークしているのが見えた。
「……っ。こう言う世界を見ていると落ち着く……全てが死んだ世界。煩わしい喧騒が嘘に消えた頽廃した光景……うん、世界はこうあるべきだと、偶に思う」
『…………』
狐花のその言葉に五七は何も返さない。恐介は狐花の過去を知らないが、五七は狐花の過去を唯一知っている。その為、狐花の言葉の意味を理解出来た。
更に奥へと進んで行く、路肩には歩道に倒れ込んだ人間が居る。蝿が集っており腐敗した肉の臭いが漂っている。最近死んで数日間、放置された死体だろう。乾燥しており乾いた死体だ。
『……生き倒れて死んだ人間もぎょーさん居るって訳やな』
「何らかの理由で行き場を無くした魂が彷徨っている」
『送らんのか?』
「……六道の何れにも行けない魂と言うのがある。この廃墟には何の因果か、そう言う魂が流れ着いている」
『……さよか。難儀なモンやな』
「私も死んだら、同じ運命を辿る。六道の何れにも行けない……夜摩天様からも『地獄には貴方の居場所はありません』と言われた。救われない命と言うのは確かに存在している」
他にもボロボロの衣類を着ているが白骨化する程の時間が経過した死骸も誰にも供養されずに放置されていた。此方はゴミ置き場に倒れ込む姿勢のままだ。恐らく残飯を漁り結果はどうあれ力尽きて死んだのだろう。別の方に視線を向ければ錆びて折れた刃物が突き刺さって其の儘、死亡した死骸も見える。
人間社会から零落した者達は、何処の世界にも存在出来ずこの様な吹き溜まりに流れ付きそして、その一生を終える。言わばこの町は誰にも見向きされない者達の墓場とも言えた。
非業なれど、そう言う運命を辿った者達も少なからず存在している。
「着いた、此処」
廃墟地区の外れの外れ。照明が点灯していない廃墟と化した大型スーパー。窓は割れ放題、買い物カートも倒れていたり壊れて居たりと散乱している。自動ドアも壊れて開きっぱなしと言う状態。
『……こないな場所で何があんねんて』
「見れば分かるよ」
認識阻害を解除してから店内に入る。
大型スーパー内は薄暗いが奥の方に光源があるのが分かる。その光が理由で暗いながらも視認出来た。陳列棚には殆どが空、有ったとしても既に賞味期限は切れており口にするのも憚れる。埃も溜まっており、既に終わったスーパーだと分かる。
狐花は目もくれず奥へと進む。その先にあったのは惣菜売り場跡、其処の場所だけ拙いながらも照明が確保されていた。しかしながら、範囲は狭く惣菜売り場の一角しか照らす事は出来て居ない。その場所に灰色の肌をした男性が居た。
「おやおや?コレはコレは……いらっしゃい。お嬢さん、イッヒッヒ……‼︎」
照明用ベルトを頭に付け上半身裸で上着を腰巻にした如何にも怪しい風体の男性であった。こんな廃墟の寂れたスーパーの奥地で佇んでいる……怪しむなと言うのが無理があろう。
『大丈夫かいな……?』
「色んな商品を揃えて居ますよ……? 表じゃ出せない、あんなモノやこんなモノまで、選り取り見取り……何を買いますか?」
惣菜売り場の販売員が居るであろう場所には実に様々な商品が倉庫に押し込むかの様に置かれている。アレらが男性の言う商品なのだろう。
「ベルテッド弾、50発。それからC4が2kg。それとFNが2挺と5.7x28mm弾の弾倉パック、8個」
「まいどありぃ〜」
『……何言っとんのかさっぱり分からん』
狐花は狙撃銃の弾とC4と、FN2挺と弾を購入。何れも日本国内の表じゃ買う事などまず出来ない代物ばかり。目の前の男性は何処からその様なモノを調達して来るのだろうか? 其処に疑問符を浮かべざるを得ない五七であった。
「イッヒッヒ、またのお越しをお待ちして居ますよ〜」
「ん、また来る」
狐花は代金を払い其の儘、踵を返して帰宅して行った。明らかに1人を狙うには重武装ともオーバーキルと言える内容であったが、顧客の事情には口を挟まない商人。気にする理由は無かった。
「…………生きる為に武器を手に取る。その行末は如何なる結末か……誰も進んでは歩きたくは無い道です。でも、中にはその道しか知らぬ者も数多く居るのです。
戦い、傷付き、それでも戦い続ける……生きる為に、誰かを、何かを、殺して殺して殺して……自身が力尽きて死ぬまで殺し続ける。殺戮者として生きるしか道が無い者も居るのです。
自らでも、唆されてでも……生きる為にはそうせざるを得ない者達……普通の生活を愛する者達から見て、その光景はどう映るのでしょうか? 狂っているのでしょうか?それとも……」
その時、再び足音が聞こえて来る。商人が視線を向けた先には2人組の少女が立っていた。2人とも身体的特徴として、胸が大きく見えると言う事と、翼爪の様な翼が見え隠れしている事。片方には鎖が伸びた首輪を付けており、もう片方は男装をしていると言う事……。
「今日はお客が多い様です。イッヒッヒ……‼︎ 本日は何になさいますか?それにしても……お嬢さん方は運が良かった。
お越しになるのが早ければ、綺麗な柘榴になっていたかも知れません。おや、気付いている上にお互いが知己なのですか、それから逃げるのと隠れるのは得意、と。
そうですか、そうですか。それは良かった……いやはや、構えている前で死体なぞ作られては困りますからねぇ〜」
付き合い故に商人は狐花の性格をある程度、知っている。彼女は悪魔は嫌いである。それは分かりやすい程に理解出来た。
「ではでは、何が御求めですかな?」
商談は進む、誰にも知られない中で進む買い物。商人は買い物するのならば商品を売る。例えどんな客であろうとも、客である事に変わりは無い。世捨て人は差別はしないのだ。