「お姉様……」
——お姉様、貴方は……貴方の頭の中身はラフレシアが咲き誇る花畑なんですか⁉︎
ソーナは素直に自身の姉の脳味噌がラフレシアの花畑になっている事を本気で心配したのだ。
無謀、無理、無茶、後……話の内容から此方が引き起こしている問題(転生悪魔の諸事情、領土の不法占拠、国宝級の窃盗)が綺麗に抜け落ちており、恰も『此方の話を聞いてくれない』と宣う責任転嫁の様な言い方になっている。こんな奴が外交担当では会話にならないのは当たり前であり心底嫌われるのは当然だった。
『どうしたの?ソーナちゃん☆』
「普通に無理です」
ソーナはジト目でセラフォルーの言葉に対する返答を簡潔に伝えた。どう考えても無理がある。探しようが無い上に、見限った以上、対話できる望みも薄い。そして、抹殺宣告をしているので迂闊な行動は死を早める事になる。
『それは』
メキィ……。セラフォルーが言葉を発しようとした時、生徒会室の扉が軋む音が微かに聞こえた。その直後、凄まじい勢いで扉が吹き飛ばされホログラムを擦り抜けてソーナの首元目掛けて飛来する。
「ッ⁉︎」
「会長ォォォォォォ‼︎⁉︎」
突然の事態にソーナは動揺した時、横に居た元士郎が飛び出してソーナを突き飛ばし庇う。その飛来した扉に直撃、その勢いのまま後方にある窓ガラスを突き破って外へ放り出される。此処は最上階、重力に従って其の儘地上へと突き落とされた。転生悪魔である以上、死にはしないだろうが……心配にはなる。
「一体、何が……⁉︎」
「……波旬直伝の『扉ミサイル』……本当に命中率悪ィな……‼︎」
突き飛ばされ床に転がったソーナは眼鏡をかけ直して元凶である扉のあった方へと意識を向ける。ホログラムを介しての通信であったセラフォルーも其方に意識が向いていた。其処に居たのはソーナもセラフォルーも知らない男が立っていた。黒髪と言う日本ではありふれた髪色で目付きが悪い事と、片手に一升瓶を持っている事以外には変哲らしい光景では無い。その男が扉を物理的な力で蹴り飛ばしてこの場に現れた様だ。
——何ですか……この、気味の悪い……雰囲気は……⁉︎
恐ろしい訳では無い、威圧感もある訳でも無い。ただ、気味の悪い違和感をソーナは感じ取っていた。
「フン……例のさ、さー……何だっけかな?サーぜン?違ぇな、サーゼンモルゲン?違うな、そんなカッコいい名前じゃねぇ……さーぜグズ?ああ、もう面倒臭え、クズで良いや。そのサー何とかクズってのはどいつだ?テメェか?てめーか?それとも、テメェか⁉︎」
突然現れた男は生徒会室に居る者達に向けて指差して『サー何とかクズ』が誰かと問い詰める。
『ちょっと⁉︎ 貴方、誰⁉︎ 私とソーナちゃんの会話を邪魔するなんて……と言うかサーゼクスちゃんの事?』
「あ゛? 誰だ、このイカれ茄子女」
充分酷い言種であった。セラフォルーを前に堂々と茄子女と言い切る度胸が凄い。と言うか何処を見て茄子を連想したのだろうか……?
——お姉様を見て初見の感想が茄子ですか……どんな思考回路をしているのですか、この人。いえ……違う、この人……神気を感じる。まさか……⁉︎
明らかに駒王学園の生徒でも人間でも無い。だとするのならば何者だろうか?少なくともサーゼクス……悪魔陣営の重鎮にして魔王の1人であるサーゼクス・ルシファーが目的らしい。嫌な予感がする。
「あの、貴方は何方様なのですか?」
突然現れた男に対してソーナは立ち上がりながら問い掛ける。半ば嫌な予感がするが聞かねばならない。
「俺が誰だってか?良く良く見りゃあ、悪魔とか言う蛆虫連中じゃあねぇか? ふーん……」
『ちょっと⁉︎ 割り込んで来て何様のつもりなの⁉︎ そもそも誰⁉︎ と言うか私は茄子じゃない‼︎』
「こんな所を巣にしていたか。日本神話が一柱……つったら充分だろ? 蛆虫共」
「『ッ⁉︎』」
その男。天魔雄がそう名乗るとセラフォルーとソーナの表情が変わった。今、まさに『日本神話とどう折り合いと言うか会談を経て和平や相互理解』をどうするか話していた矢先に、日本神話の一柱が目の前に現れた。が、とても友好的な態度とは思えなかった。
『天魔雄』に関して知らない方が多いかも知れないので補足事項。
『 素戔嗚尊の吐き出した猛気から形作られ生まれたのが天狗と天邪鬼の祖と言われる『天逆毎』、単身で出産したその息子が『天魔雄』。後に九天の王となり荒ぶる神々は皆、この魔神に属したと伝わる。因みに天魔雄は八百万の神々でさえ手に余る程の存在だったと言う 』
この作品での天魔雄(顕界ではステラと名乗る)が言う『爺ィ』とは、勿論、素戔嗚尊の事。