フェニックス家で『祟り神』の存在に恐怖しているその頃、その『祟り神』はと言うと——。
「へくちっ‼︎」
「嚔も可愛い〜」
「次はこの衣装を着てみてよ」
「小道具持ったら絵になるんじゃない? ほら、この小道具のステッキを持って見て?」
駒王学園、体育館の舞台裏。放課後になり部活動が精力的に行われている中、体育館は複数の部活が日替わり使用している。そして本日は演劇部が使用する日となっていた。
「……狐花さん。完全に着せ替え人形ですね」
「うふふ、本人も楽しそうですわ。それに私もこう、この様なお洋服を着る機会が中々ありませんでしたので何だか新鮮な気分ですわ」
「何と言うか、皆も意外と楽しんでるわね……でも、良いアイディアが浮かびそうね」
狐花達も何故か演劇部が使用する日に体育館に居た。美術部のアイラと演劇部の一部の面々とは知人同士であり、そのツテで狐花の存在を知った。幼女と言って差し支えない程に小さく演劇部の3年生組によって完全に着せ替え人形となっていた。
「……絵のモデルの服装の為に以前から演劇部から借りていたからね。狐花ちゃんに着せる為に小さめの服も借りてたから、察知されたのよね」
「そ、それは丸分かりな気がしますよ」
かく言うアイラ達も折角なので演劇部から借りた舞台用の衣装を着てみていた。アーシアはヴィクトリアメイド服、静香は水色のドレス、アイラは燕尾服(必然的に男装)を身に纏っていた。演劇部は衣装から小道具に至るまで手製で製作している。裁縫部と兼任しているのかと言いたい位、裁縫が上手い。
『そないな事、どーでもええけど……そもそも魔法少女って何や?』
そして話題の中心である狐花はと言うと、演劇部のお姉様方に『魔法少女ミルキー』の魔法少女の衣装を着せられていた。
「さぁ……?」
「私も知りません」
「そう言う日本のサブカルチャーは私も詳しくは無いわね……」
『聞いた俺様が悪かったわ。おまはんら、イロモノ軍団なの忘れ取った』
純白シスターに元人間から元転生悪魔、そして逃亡亡命者……陸な奴が居ない面子なので聞くだけ無駄であった。
『魔法少女と言うのは魔法を使う少女の事ですよ。魔法の力で悪の組織と戦うと言う筋書きのお話の登場媒体の1つです。イヌッコロ』
『何や、何で知っとんねん。オタクか変態か、いや両方か、このクソヤキトリ』
『何と⁉︎ 態々、説明して差し上げたと言うのにその態度は何事ですか⁉︎』
ギャーギャー騒ぐ五七と恐介。相変わらずの仲であった。
『つーか、魔法を使う少女……。いや、まんまやん。何時も通りやん。狐花の場合は……』
『確かに……』
狐花は霊力で魔法染みた行為を行使出来る。その様子を何度も見て……。
『いや、狐花の場合。お話以前に舞台其の物、吹っ飛ばすわ』
『そうですね。敵役以前に町を消し飛ばしますね』
が、狐花の場合は敵と言うか周り全体を確実に滅亡に追い込む。夢も希望も無い……虐殺系魔法少女……。
「うん、何となくそんな気がするわね。高天ヶ原で戦闘に関する稽古を付けて貰ったけど、その時にあの子は稽古じゃなくて生存競争って愚痴っていたわね……」
「そう言えばその様な事を仰って居ましたね……その度に神様達が溜息を吐いていました」
狐花の場合、初手の時点で上級レベルか必殺レベルの猛攻を叩き付けてくる。見せ場もクソも無い。本人は『この方が合理的』と言いそうだが……。
『……稽古。稽古か……そろそろ此方でもやるか? 此方での生活にも慣れたやも知れへんし』チラリ
『そうですね。三大勢力の事もありますし……高天ヶ原で基礎的な事は理解なされた筈ですからね』チラリ
「ま、自分の身は自分で守らないとね……」チラリ
「はい。この世に蔓延る悪魔を滅さねばなりません。その為にも私自身、強くならねば……」チラ
「……私も皆さんのお役に立ちたいです。透過だった私も何れは……」チラ…
一同は、今も演劇部に玩具にされている狐花を見てある言葉を思い浮かべる。
(((((
強くなる理由がソレで良いのかと考えたい所だが、そう考えるのも無理は無い。何せ、友情や愛情の類を理解出来ない狐花が味方に居るのである。元々、狐花は1人で行動していた。故に味方の事なぞ考慮する機会が無かった。全員、周りに居る者全てが敵……故に初めから鏖殺陣形。油断しなくても巻き添えを喰らいかねない。ただでさえ、狐花の霊術は広範囲に及ぶモノばかりなのだから。意思疎通が出来……出来ようが出来まいがお構い無しに纏めて屠りに来るのは目に見えて分かる。神々からも『輩を作れ』と言われる程……つまり、他人に対して頓着しない事を危惧されていた。簡単に見捨て見殺しにする薄情さ……居るのは構わないが、その者の命の存命に興味が無いと言う事。
『狐花は霊力をだっだ漏れの大放出が多いからな……悪く言えば雑い……』
『何れはお嬢さん方と一緒に戦闘する事になり得ます。その際に巻き込まれては笑えません』
『狐花自身も、制御出来るようにならんと。殺したらあかん奴を殺しかねん』
今迄は狐花よりも遥かに格上の連中ばかりだった。が、これからはそうはならない可能性の方が高い。そう言う意味でも狐花自身にも稽古は急務である。
『経津主神様に頼みますか?』
『いや、そう言うの向いとらんやろ。そもそも狐花にゃ剣の才能が無いからな』
そんな形で時間が過ぎて行き演劇部の部活時間が終わる頃に漸く狐花も解放された。
「……む」
体育館から出た狐花達(衣装は返却した)は、その帰り道の途中である物を発見する。
「…………」
「あの、コレは……?」
窓ガラスの破片が散乱し、折れ曲がった扉が転がっている。その真ん中で頭部から流血した金髪の男子生徒が茂みの中に隠れる様に転がっていた。
「……」
その姿を見て狐花は無言でスカートの下に隠す様に着けているレッグホルスターからFNを取り出して銃口を頭部に向けていた。
「狐花ちゃん?」
「こんな所で悪魔が昼寝とは、舐められたモノ。なら、永眠させてやる」
『おーい、狐花。此処やと目立つ……殺るはええが、此処では止めとけ』
場所が悪いと五七は止める。止めなければ銃声が学園内に響き渡る。そうなれば大騒ぎになるのは目に見えて分かる。
「……分かった」
五七の静止に狐花は素直に従いFNを仕舞う。そしてその男子生徒である匙 元士郎の足首を掴んで引き摺りながら歩く。
「狐花さん。その悪魔はどうするのですか? まだ生きているみたいですが……」
「
単純に虐殺するのも良い。だが、敢えて生かして置けば餌になりより多くの獲物を得られる。過酷な自然環境の中で育ったが故に見つけた経験であった。
『……何つーか、ほんま動じへんな。おまはん』
「如何なる理由があろうと悪魔に……慈悲は必要ありません……救われるべき人達が悪魔に苦しんでる……一歩ずつ、一歩ずつ進んで行かなくてならないのですから。近道はありません」
『……キッパリ言い切れるおまはんが怖く見えるで』
人間と同じ姿なのに、無慈悲に告げる静香。ある種の信仰が故に躊躇いが無い。しかも普通に喰べようと考える狐花に誰も止めようとしない。その光景もまた異常と言える。
「私達、何処かでズレたのかな……可笑しいと思うのは誰なんだろうね……?」