「ああ、すまない。君の要件は『ビザ』の件だったな……コレは俺から話すよりも彼女から聞いた方が早いだろう。美南風、説明頼んだ」
ライザーが指を鳴らしたタイミングで、扉が開かれる。廊下から十二単を身に纏った大和撫子を彷彿させる少女が部屋に入ってきた。
「ソーナ様。初めまして、私はライザー様の『僧侶』である美南風と申します」
「此方こそ初めまして。ソーナ・シトリーです。して、早速本題に入りたいのですが」
「お話は聞いております。ビザの取得する方法、でしたね」
美南風はライザーの斜め後方に立ちソーナの聞かんとする内容を口にした。
「はい。差し支え無ければお教え頂きたいのです」
「ライザー様、構わないのですか?」
「ああ、約束だったからな。彼女からリアスの無能っぷりを聞かされて頭を悩めると同時に指針を変える必要性が出て来た対価だ。どの様な結末を迎えるかは彼女の行動次第だ」
ライザーの許しが出た所で美南風は『ビザ』の取得条件を説明する事にした。
「……こほん。単純にビザの取得するのであれば、やはり最寄りの領事館となりますね。しかしながら冥界は閉鎖的な世界故にそう言ったモノは存在しません」
「ついでに言うなれば調べた限り『ビザ』や『パスポート』の必要を要求するのは『日本神話』の勢力だけだ。故に俺も頭を抱える羽目になったと言う経緯もある。北欧やギリシャ神話は小さいながらも領事館を設置しているらしい」
「……成程」
——他の勢力は少なくとも『ビザ』の概念は伝わっている様ですね。冥界には伝わっていない……いえ、関係が悪化している為に伝える必要が無いと言った所なのでしょうか?
「……ですので、他の手段を講じなければなりません。ライザー様の場合はご存じかも知れませんが、日本神話の勢力圏……即ち日本に居るフェニックス分家の方にご連絡し、代理で申請して貰う方法」
「が、余り勧めれん方法だな。詳細は俺も美南風も知らんが……頼んだ相手は『危ない橋渡り』と言うからには相当、危険が伴うと予想される。因みに聞くが……ソーナ。シトリー家の家系に冥界から離反した者は居るのか?」
「いえ……私の知る限りは誰も……」
シトリー家に『裏切者』の系譜は存在していない。
「……代理である以上、危険がある上に他家の奴からの頼みで成立する確率は極めて低いと言わざるを得ないだろう……そんな危険を冒す義理が無いからな。俺の場合はフェニックス分家の者と、総合的な利害が一致したから成立した。と言っても取得出来たビザは滞在出来る期間が30分だけだった」
「……基本的に人間界での各国間のパスポートやビザ申請も本人名義かつ本人で無ければ申請は難しいのです。日本神話の制定している神話間の規律も、概ね日本国の法律や憲法に則ったモノを参考にしていますから、恐らく代理人申請では制約が大きくなるかと」
仮に出来たとしても1日すら跨がない期間は短過ぎると言わざるを得ないだろう。
「となると、最後の手段になります」
「此方は正攻法……と言うか悪魔や他の三大勢力の連中にとっても最もリスクが高くなる。分家の者からの協力が無ければこの手段しか無かった」
「それは……?」
「『ビザ』と言った入国管理は日本神話の勢力圏である日本の何処かにある『裏幕府』と呼ばれる組織が一括担当しています。即ち、裏幕府に出向き直接、申請すると言う手段です」
日本の何処かに存在する『裏幕府』。其処に出向いて申請すると言う事は不法入国前提と言うリスクが高過ぎる手段であった。
「……正直な話、これ以外の方法は無いだろ。と言わざるを得ん……それだけならばまだ良かったんだがな」
「はい。裏幕府は『付喪神』と呼ばれる種族が運営している組織。日本神話には凡ゆるモノに神が宿る事は御承知ですか?」
「はい。石や窓、空気や木にも宿るとか」
「付喪神とは強い思いが宿りし者達……。裏幕府には軍艦と言う巨大な船に宿し付喪神達が多数、在籍しています。かの者達は国の威信を懸けて戦場を征く……護国鎮護。その思いが強く反映されています。故に……」
「国を仇なす悪魔は嫌われて当然。早い話が、敵中のど真ん中に殴り込み……と言う訳だ」
「……軍艦が付喪神になった存在です。戦闘力はかなり高い者達ばかり……そもそも付喪神と言うのは見た目で判断するべきではありません。裏幕府に属する者達は軍艦……踏み潰されれば終わりです。それも1人や2人ではありません。恐らく100単位でしょう」
「……危険を承知なのは分かっては居ましたが……」
流石のソーナも3桁単位を纏めて相手にしろだの言われて勝てる気はしない。人数差で確実に此方が根負けしかねない。ましてや、日本神話側の存在……即ち悪魔死すべし。の概念で襲って来るだろう。
「そんな状態で申請通ります?」
「俺が知るかよ……。が、その心配は分かる。日本神話のヤバさは聞いた通り、付喪神も『神』の一種。言うなれば『神器』が人の姿を獲得したモノ……と考えるとある意味、ゾッとはするな」
「ライザー様。その例えは可笑しいかと」
「そうなのか?」
「付喪神はかつては存在した物体が、魂を宿し思いを宿して誕生します。例えば優しい思いを受け続けたモノは優しき人格を持った付喪神となります。裏幕府には『国を守りたい』『敵を穿つ』『国の威信を懸けて‼︎』と言うかつての乗組員達の思いを受けた軍艦がその魂を宿し人の姿を獲得した付喪神達が集まり、『国を守る』と言う行動を基本としているのです」
「……軍艦。日本の戦争の時代……でしたね」
ソーナは日本の学校に通っている。故に日本史の授業は勿論、受けた事がある。其処には世界大戦の歴史も存在していた。故に悪魔とは馴染み薄い軍艦の単語を理解出来た。
「……しかし、逆に憎悪、怒り、悲しみ、呪い、恨み……遍く負の感情を一心に受けたモノはやがて強い憎悪を持った付喪神へと変貌を遂げる事になります……それは災いを振り撒く神、祟り神に匹敵する力を持つ事もあります」
「……強い憎悪……か」
「付喪神は全員が全員。人の姿を獲得出来るとは限りません。強い思いや意志が宿り相応の月日が経って初めて変異を遂げる事が出来ます」
裏幕府と付喪神。ソーナは付喪神の存在は知っていたが、そんなプロセスが必要なのは初耳であった。恐らく今も、日本の何処かで新たな付喪神が誕生しているのかも知れない。
「……最後は脱線しましたが概ね私が話せる『ビザ』の内容は以上となります」
美南風の話は終わりとなった。これ以上は聞き出す事は出来ないと判断したソーナはライザーに礼を言って後日、謝礼品を送る事を告げた後に眷属達を連れてライザー城を後にするのであった。