雷ガ咲く花園デ   作:夢現図書館

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天照坐皇大御神

 

 

 

「……此方では既に夜となっていましたか。昼間だと殊更、都合が悪いとも言えましたから幸いです」

 

 眷属達を冥界に待機させたソーナは1人、顕界である人間界に舞い戻って来ていた。場所は駒王学園の生徒会室。あの時、日本神話の一柱によって眷属の3人が屠られた。自身の拠点で下僕である眷属悪魔が死んだと言うのはかなりの汚点となる。

 

「……お姉様が片してくれましたか。こんな時は仕事してくれるんですね、あの人は」

 

 自身が冥界へと退却する時には破壊され荒れ果てていた。見る限り修復されているのが見て取れた。

 

「……ッ⁉︎ さ、匙⁉︎」

 

 変哲も無くなった生徒会室だと思って居たが、異変が既に起きていた。生徒会室に転がされていたのは、片腕を斬り落とされ胸部を無理やり抉じ開けられ内臓を抉り出された状態の元士郎であった。

 

「が………ょう……」

 

 転生悪魔故か、その状態でも辛うじて生命を維持していた。しかし、動く事も満足に出来ない状態と化していた。

 

「匙‼︎ 匙‼︎ 息は……ありますね……‼︎」

 

——む、酷い……‼︎ こんな酷いやり方……‼︎

 

 ソーナは懐からあるモノを取り出す。小さな雫型の容器に納められた液体。それは『フェニックスの涙』と呼ばれる悪魔陣営が自力生産出来る薬品の中で最高峰の霊薬。少量でも量産、流通に大変なコストが掛かる大変貴重なモノ。そのフェニックスは不死鳥であるが故に作り出す事が出来る。その『涙』は如何なる傷も癒す事が出来る。『レーティング・ゲーム』でも持ち込みは2個までと言う制限が設けられる程……緊急事態時を想定してシトリー家は1個。手に入れる事が出来た。

 

——周りの者達は『兵士』1人に使うなんて馬鹿馬鹿しいと言うでしょう。

 

 他の貴族悪魔ならば『兵士』が1匹死んだ所で代わりの者を眷属にすれば良いだろうと宣う事であろう。しかし、ソーナはもう誰1人として失いたく無いと決めて居た。

 

「匙……‼︎ 良く持ち堪えました……‼︎」

 

 ソーナは元士郎の身体に『フェニックスの涙』を零した。当たった箇所から緩やかな炎が広がり傷口を燃やして炎と化して治癒して行く。数分立たずして元士郎の身体は完治した。失われた腕も復活している。

 

「か、会長……‼︎」

 

「回復しても体力は復活しないわ」

 

「……そ、そうっですよね。そ、それよりもほ、他の皆は⁉︎」

 

「現在、冥界のシトリー領に居ます。匙、貴方もシトリー領に送ります。何も、聞かないで下さい」

 

——匙が聞けば必ず着いてくるでしょう。相手は鏖殺の『祟り神』……仮にドラゴンの神器を有していたとしても通用するか怪しい。いいえ、現状のままですと容易く返り討ちに遭うのが関の山でしょう。

 

 使いの八咫烏に一蹴されている時点で絶望的。最悪、戦闘に発展する可能性も否定出来ない。

 

「か、会長……どう言う意味ですか……?」

 

「何も聞くな。言える事はそれだけです……」

 

「え、ちょ⁉︎ 意味が」

 

 ソーナはそれ以上の対話はせずに元士郎を魔法陣で冥界へと放り込んだ。此処で問答を繰り返しても時間の無駄となる。

 

「しかし……こんな夜更けの時間帯……悪魔にとっては活動時間なのですが」

 

 悪魔基準ならば当然の時間帯。しかし、相手が此方の都合を考慮してくれる筈が無い。寧ろ返って怒らせる事になりかねない。

 

——とは言え、昼間に会おうにも……皓咲さんの苛烈さは理解しての通り……。

 

 初邂逅の時、学園諸共滅ぼす姿勢を見せて居た。リアスからも駒王町ごとを燼滅させる勢いだったと聞いている。『周りに無関係な人間が居る』と言う姿勢での会話は狐花には一切通じない。寧ろ、邪魔と言わんばかりに纏めて屠りに来る。

 

「……朝方や、昼間での対応から……従来通りと言える普通の手段では対話は成り立たない」

 

 ソーナは目を閉じて思案する。ほぼ全ての手段が効果は薄いか皆無に近い……ならば?

 

「会話がダメなら実力行使しかありませんね……‼︎」

 

 正直な所、ソーナは策を弄するタイプだ。真っ向勝負では分が悪い。かと言って相手は纏めて粉砕する鏖殺の祟り神で会話も通じない。しかし、他に手が無い。

 臆しても仕方ない、ソーナは決死の覚悟を以て駒王学園を出て狐花の住処である皓咲屋敷へと向かう。

 

 

 

 

 

 

——……予想はして居ましたが、やはりこの付近の『破邪の気』は一段の強いですね。下級悪魔ならば数秒と保たない。かく言う私にも影響が出て来て居ます。『魔守りの護符』も殆ど打ち消されている……でも無いよりはマシ、ですね。

 

 廃教会があった場所に立つ皓咲屋敷の近くに来た直後、ソーナは身体に変調を来した事を自覚する。上級悪魔でさえ体調を崩させる程の神気。この状態で戦うのは無謀……やはり眷属達を連れて来なくて正解だった。もし、来ていたら間違いなくこの時点で全滅していたであろう。

 

「……此処が? ……近くで見ると、大きい門です……」

 

——此処まで強いと、流石に長時間は滞在出来ない……‼︎

 

 そして、ソーナは皓咲屋敷の長屋門の前に到達する。この駒王町の地域では余り見られない日本特有の武家屋敷風の建築構成。日本の伝統建築物の周囲は何かと魔除けやお祓いが多くて悪魔からしたら中々、近付けない事が多い。此処まで来るとより一層、『破邪の気』が強くなる。

 

——……インターホンの類は、ありませんね。来たは良いのですが……勝手に押し入るのは流石に不味いかも知れません。

 

 『悪魔は礼儀知らず』と思われては敵わない(と言うかもう既に傲岸不遜の無法者と思われている)。少なくともソーナは自身が無法者では無いと断言したい。そんな時、皓咲屋敷の長屋門が静かに開門した。その光景にソーナは思わず目を見開いた。

 

——どう言う、つもりなのでしょうか?

 

 独りでに開かれた門。その光景にソーナは疑問符を浮かべる。コレがリアスならば迂闊に押し入ろうとするだろう(恐らく自分の領土に勝手に建てたと文句を垂れながら)。

 

「……来い。と言う事なのでしょうか?」

 

 ソーナは訝しみながらも長屋門を潜る。破邪の気は収まる事はない。寧ろ屋敷の敷地内は破邪の気で満たされている。ソーナが入った直後に長屋門は静かに閉門された。転移魔法が使える悪魔に取っては障害にはならないが……。

 

「…………」

 

 そして、道なりに進んだ先には池が造られその上に舞台が設けられていた。水面の上で舞を行う為に使われると思われる舞台。その舞台の中央に緋袴に白衣を着ている幼き体躯とも呼べる幼女の後ろ姿が見えた。そして、彼女の纏う神気が一際強い事も感じ取れた。

 

——……あれは……‼︎

 

「来ましたね……。悪辣傲慢なる穢れの化身よ」

 

「ッ⁉︎」

 

 巫女服の幼女が振り返る。普通の巫女服と言うよりも白衣は大袖であり、大きく広がる裳を履いて帯で結んでいる古代衣装に近い姿。ソーナが驚いたのはその人物の正体。皓咲 狐花其の物……口調も音程も違う厳かな口調、そして……その双眸はこの夜中の時間帯に於いて桜色に燦爛と一際、煌めいていた。

 

「し、皓咲 狐花……さん?」

 

 自分が見た狐花の姿。リアスから齎された狐花の姿。その何方も荒々しく『祟り神』とも呼ばれる程の存在。だが、目の前に居るのは荘厳かつ威厳ある存在。その神気は凡ゆる穢れを瞬時に浄化し消滅させるかの様であり、ソーナ自身は迂闊に近づけない。だが、声はハッキリと聞こえる。

 

「あの子は現在睡眠中です。私はあの子の体を借りて居る状態です。人の子、巫女達は『神口』と呼びますが……」

 

 目の前の狐花は狐花では無い。ならば誰なのか……?

 

「……ならば貴方は……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は天照大御神。日本神話、天津神の主宰神」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはソーナに取って荷が重過ぎる相手であった。日本神話……いいや、日本国に於いて知らぬ者は居ないであろう代表的な存在であった。

 訳あってか狐花の身体に憑依して居るが身体は完全に天照大御神様が握って居る。ソーナにしてはこんな形で日本神話の代表的な存在と相見えるとは想像だにしていなかった。

 

 

 

 

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