ソーナ達と分かれたリアス達。『ビザ』が無い以上、人間界である日本に留まると否応無しに襲われる事になる(仮にビザがあろうとも襲われる事に変わりは無いのだが)。
「ライザーの『レーティング・ゲーム』もあるし……此の儘、何もしないと言うのも悪手ね。祐斗が欠けた今、苦しい状況よ……」
グレモリー領の一角。広大な領地を有するのだが広過ぎる為に森か平原、湖しか無い。都市部はルシファードと言った狭い地域に集中している為にそれ以外は領主の住む屋敷周辺くらいにしか街並みは見られない。その為、街を抜ければ自然環境くらいしか見られないのが冥界であった。そんなグレモリー領の某所にある森林地帯。その開けた場所の切株に腰掛けながらリアスはそう呟く。
「えーと、俺と子猫ちゃんと朱乃さんと部長……たった4人で15人相手はキツいですね……‼︎」
「ええ、仮に切り抜けられたとしても問題はライザーよ。不死鳥故に、受けた傷は忽ち治癒してしまう……。根本的な問題としてライザーを倒せなければ意味が無いのよ」
「げ……そんなの反則じゃないっすか……‼︎」
「だから、フェニックス家はレーティング・ゲームでは連勝を重ねている。不死鳥の能力はそれだけ反則級なのよ……日本で修行しようとした矢先に修行場の領地を実質潰された……まさか、あんな奴が居たなんて想定外よ……‼︎」
黒龍と共に現れた眼帯の少女の姿を思い出して歯軋りするリアス。一誠も手も足も出ずに吹き飛ばされた。自身もドラゴンの神器を宿しているとは言え歯牙にも掛けない力量差を見せ付けられた。
「……朱乃は彼女に関して何か心当たりは無いの?」
「私、でしょうか?いいえ、ありませんわ。ただ……」
「ただ?」
「……貴方達が〜、出過ぎた真似を続けたから〜、でしょ〜? 黒翅の悪魔……」
その時、間伸びした声が聞こえて来た。自分達以外の存在がリアス達のすぐ近くに現れた。紅玉の様に赫い双眸、澄み渡る青空の様な空色の髪を三つ編みにして後方に垂らして居る陰陽を彷彿させる和服を纏った小柄な体躯の少女。その両腕や周囲には青白い鬼火が仄かに灯っているのが見える。
「あ、貴方は……⁉︎」
——角……⁉︎
そして、額には血の様に赫く細い角が2本、生えていた。角が生えた存在と言えば『鬼』。即ち、目の前の少女は鬼の少女である事が分かる。
「小猫ちゃん並みに無乳だけど、それはそれで……でへへ……ぐぇ⁉︎」
「……腹立ちました」
「は、腹パンは止めて……‼︎」
「やっと、見つけた〜。閻魔さまも〜……面倒臭いって、言うし〜……さっさとやっちゃおう〜」
その少女はリアス達を見つけるや否や、間髪入れずに周辺に漂う青白い鬼火を収束させ其処から青黒い鬼の腕を形成させ強襲を仕掛ける。突然の強襲にリアス達は身構える前に襲われた。
「い、いきなり何なのよ⁉︎ 最近、こう言うの多くないかしら⁉︎」
「……ッ‼︎ 部長、皆さん‼︎ アレは危険です‼︎ 絶対に捕まらないで下さい‼︎」
子猫がそう叫ぶと同時に跳躍。その場所に鬼の腕が勢い良く振り下ろされ青白い炎が草木を燃やす。
「小猫、どう言う事?」
「部長……『鬼』と言うのは日本の妖怪の中で五大妖怪の一角ですわ。即ち最強格を誇る妖怪の種族……子猫ちゃんの言う通り目の前の彼女、凄まじい妖力……鬼の中でも別格と言えるでしょう」
「はい……私も猫ショウの妖怪ですけど。ッ⁉︎」
喋る暇は無い。朱乃と小猫がリアスに説明しようとするがそんな暇も無く鬼の手が振り下ろされる。少なくとも鬼の手は危険である事が告げられる。そして気付けば、青黒い鬼の腕が4本に増えていた。コレはコレは恐怖モノであった。腕を4本、従える鬼の少女……本人が呑気な表情を浮かべて居る事から殊更、恐怖感を抱かせる。
「……う〜ん、ひょーどーって誰〜? 私の要〜件は、その人だけだよ〜?」
鬼の少女、和楽 チセは間伸びした口調で自身の目的を言葉にした。兵藤、即ち赤蛇の一誠が目的だと言うが、鬼の手を4本も従えて居る為にとても友好的な雰囲気では無い。寧ろ『可愛がり(暴力)』の雰囲気に近い。
「お、俺⁉︎」
その言葉に赤蛇の一誠は反応した。いや、反応してしまった。この場合は反応は悪手である。
「……貴方は七十五日の法廷に来なかった。もう、温情とか〜……猶予とか〜、もう無いよ〜。まぁ、閻魔様は〜、元々〜……やる気無いから結果は同じだろうけどね〜」
「ちょっと待て⁉︎ どう言う意味なんだ、ソレ⁉︎ 言っている意味が分からねぇよ⁉︎」
「……そうだね〜。簡単に言おっか〜……」
チセは瞑目して二の句を告げた。
「地獄に堕ちろ。兵藤 一誠」
その言葉の直後、兵藤 一誠は地面から新たに生えて来た鬼の掌に挟み潰された。肉を潰すかの様な耳障りな音が響きリアス達の鼓膜を叩いた。
「い、イッセェェェェェェェェェ‼︎⁉︎」
「イッセー君⁉︎」
「せ、先輩⁉︎」
赤蛇の一誠を挟み潰した手は其の儘、地面に還る様に沈んで行きその場所には何事も無い草木の地面と戻り何一つ残っていない。
「よ、良くも私の可愛いイッセーを‼︎」
リアスは片手に赤黒い『滅びの魔力』を集結させ憤怒を込めた視線を以てチセを見遣る。対する彼女は表情を変えていない。現れた時と同じ様な呑気そうな表情だ。
「……どうして怒るの? 彼は既に犯罪者だよ〜? それに〜……既に死んでいるから、裁きを受けなきゃダメだよ〜」
死者は十王の審判を受ける。日本では広く信仰されている仏教の概念であり、その仏教を深く信仰していない一般的な民間人でもその話は良く耳にする。無論、無神論者も一定多数は居るのだがそれは割愛させて頂く。
「イッセーは死んでいないわ‼︎ 確かに……堕天使に殺されたけど、私の『悪魔の駒』で転生悪魔として蘇ったのよ‼︎ だから、死んでは居ないわ‼︎」
「それがいけないの〜。死は不変也。死は救い也……死を覆す事は真理に『運命』に反しちゃう〜。死ぬ運命は変えちゃいけない……小さな『ズレ』が生まれて……大きな大きな『不幸』を招く事に繋がっちゃう。整合性を合わせようにも……また別の『ズレ』が起きちゃう」
1人の『死』の運命を覆した結果、多数の『死』を招いた世界があった。運命を変えると言うのは必ずしも『ハッピーエンド』に辿り着くとは限らないのだ。時には悍ましい『デッドエンド』を迎える事だってある。
「……悪魔は、余りにも『運命』を変え過ぎちゃった。ううん、多分……キッカケの1つだったかも知れない。
チセは誰に告げたか分からない言葉を嘯いた。きっと、誰も知らない話ではあったが。
「……貴方の話は理解出来ないわ‼︎ イッセーを返しなさい‼︎ さもないと消し飛ばすわよ‼︎」
チセの言葉はリアスには理解し難い。故に早急に自身の要求を叩き付けた。チセが一誠をどうにかしたのは分かる。故にチセをどうにかしないと一誠は帰って来ないと踏んだのだ。
「……無駄だよ。この私は……鬼火で象っているだけだから』
そう告げるや否や、チセの身体は鬼火の群体となって散り散りとなって上空へと昇って行く。リアス達の前に現れていたのは多数の鬼火が集まって『チセ』のフリをしていただけに過ぎなかった。
「ッ⁉︎ ま、待ちなさい‼︎」
鬼火達は燃え尽きる様に尻窄みとなって消え去った。残されるはリアス達……。
「……う、嘘よ。イッセーが……‼︎」
「閻魔、裁き……イッセー君は日本の地獄に強制連行されてしまったみたいですわね……‼︎」
「ッ‼︎ 地獄……ギリシャ神話の冥府みたいなモノなのかしら……⁉︎」
「恐らくは……」
朱乃が言葉の節々から推察するに一誠は日本の仏教の地獄に連行されたと考える。鬼、閻魔の単語から推測したに過ぎないが……可能性としてはあり得るだろう。
「朱乃。今すぐに日本の地獄へ向かうわよ‼︎ 私の可愛いイッセーを取り戻すわ‼︎ イッセーは死んでいない、そんな事、断じて許せないわ‼︎ 日本の地獄とやら風情が、悪魔の下僕をどうこうするなんて無礼千万よ‼︎」
リアスの決心に対して朱乃は表情は暗い。リアスの豪胆さは関心は出来るが身の程知らずとは考えたくは無かった。日本神話にも喧嘩を売った上に、今度は六道の一角にも喧嘩を特売で売り付ける気とは……。
「……り、リアス」
「こんな所に居ましたか、リアス」
止めようとした矢先、其処にソーナが現れた事により腰を折る暇を潰されてしまった。
ソーナは『日本神話ビザ』を無事に入手したらしく、リアス達の分も持ってきてくれたのだ。誰が用意してくれたのかは分からないが、幸運とも言える事態にリアスは希望を見出した。ソーナは渡した後、自分の眷属にも渡す為に早々にその場を立ち去った。
『ビザが有れば日本に居られる‼︎ 日本神話からも文句は言わせないわ‼︎』
意気揚々と気分を良くした。コレで一誠を取り戻せば言う事は無いと考える。
「朱乃、小猫。イッセーを取り戻しに地獄へ向かうわよ‼︎」
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