狐花達が各々稽古を始めて数日。狐花が誤射して岩盤を破壊したり、客分であるベンニーアが巻き込まれて大怪我を負ったり、アーシアが城の城壁に激突して犬神家状態になったりとしたが、一応……一応、概ね順調に上達して行くのを恐介や五七は感じていた。しかしながらまだまだ荒削りな点は否めない。
「……最近、急に増えている」
『せやな。ここ数日、急激に増えてらぁ。今日だけで何人や?』
「38匹。その内、女が36匹。どう考えても男女比が女に偏り過ぎている……」
深夜の時刻。稽古の連続故にご無沙汰であった為に気分転換も兼ねて狐花は夜の街にて、浮遊霊を根の國へと送る仕事をしていた。その傍らで手帳を開き記された転生悪魔のリストを見ながら、そう言葉を溢す。
今回、この町に立ち入って『破邪の気』により死亡したのは38名。半分以上が女性であり尚且つ10代から20代の年齢に集中している。偏りが非常に激しいと言わざるを得ない。
『……何となく理由は分からぁな。なぁ、狐花』
「ん……」
この様な傾向。容易に想像出来る。そも、転生悪魔の割合を統括すると大方、3種に分類出来る。神器持ちか若い女か、その双方を兼ね備えているかの何方か……。
「……そろそろリストの更新をしないと……何人か知らない転生悪魔が居た。多分、ごく最近に転生悪魔と化した元人間だと思う」
『そいや、転生悪魔の処遇に関しての報告聞いとらんなぁ』
以前、夜摩天様から『転生悪魔の処遇』に関しては十王との会議をしているそうだが、相変わらず進展無しの状態が続いている。その為、夜摩天様からは『余地の無い魂ならば兎も角、已むを得ない事情の魂を顕界に戻すのは大変なので保護か保留でお願いします』と言われては居たのだが、大雑把で容赦無さすぎる狐花がそんな事、考慮出来る筈も無く片っ端から滅殺しようとする。
「……やっぱり、全国行脚しつつ片っ端から殺して回れば良いんじゃない? 転生悪魔になった以上、救う必要がある? 後、面倒臭い……」
『……あのな、狐花。問答無用ってのは流石にやり過ぎやし、ついでに言うならそのノリやと、歩いた所から灰燼に帰させる気やろ?』
何とか踏み留まる様に制御するも、徐々に箍が外れかけている。これ以上、我慢させるのは危険だと五七は判断する。我慢のさせ過ぎは本人にとっても毒になる。駒王町に来てから余り悪魔を仕留めていないのも要因。転生悪魔の死因も殆どが『破邪の気』による衰弱死。その事実が彼女自身の精神的なストレスに拍車を掛けている。
「……永劫たる完全な世界に糾うは、劫末の戦律。世界に席巻せし混沌に招く要因、疾く遍し業魔、世界の為と贄となれ」
『うわぁ……』
要約すれば『善悪問わずお前ら全員纏めて死ね』と言っている様なモノ。と言うか以前よりも遥かに性格的に悪化の一途を辿っている。稽古の時も相変わらず敵味方の区別が付かずに蹂躙する悪癖は直っていない。
「……顕界に元来、神秘の類は必要ない。人類が……選択したから。本来なら、独り歩きするべき事柄」
『…………』
人道、外れし者に容赦はしない。それが人の道。
「私は……壊す事しか知らない。殺す事しか知らない。蹂躙と殺戮の音しか知らぬ***。真に我が名を与ふ者はもう何処にも居ない……共に在ろう者は、もう居ない」
そう自身の在り方を憂う狐花。幼名である三鈴と言う名、狐花と言う通称は日本の神々が彼女に充てがった名。
『何処見りゃそんな事、言えんや?』
「…………本当にそうなのかな?」
五七の指摘に狐花は『本当にそうなのか?』と返した。狐花の周りにはアイラを始めとした者達が居る。しかし、それは本当にそうなのか?と言う問いをぶつける。
『……せやなかなったら、おまはん見たいな面倒い奴の相手はせぇへんやろ? それにな……成長って言葉、おまはん、
「…………」
五七はもう少し踏み込んだ言葉を投げ付けた。何故、狐花がそれを否定したがるのか分からなかったからだ。否、否定する理由を作りたがる理由が分からない。
「……夜摩天様が帰ってこない。仕方ない、此方から貰いに行こう」
『話題の逸らし方が露骨過ぎんで……』
その話題は狐花自身にとっては嫌だったのか、露骨な話題の逸らし方をしている。しかしながら五七としては
と言うか、主に狐花が理由で夜摩天様が過労一歩手前の状態なのは容易に予想出来る。
「そうだ。ベンニーアを連れて行こう。死神だから日本の地獄を見たいと言って居た気がするから」
生命の死後から輪廻転生まで過ごす界。(ギリシャ神話では『冥府』、北欧ならば『ヴァルハラ、ヘルヘイム』)日本の場合は、神仏習合の影響か六道と根之國底之國(黄泉比良坂)となる。狐花が送るのは根之國底之國であり、魂の大半の場合は六道に向かう事になる。いい加減な所であり、何方に辿り着くかは曖昧な境界だと言う。
話を戻し、六道の地獄道には基本的には死者か六道の住人しか入れない規定となっている。地獄道のみならず六道は日本神話のビザやパスポートの適用圏外な界でありそう簡単に立ち入る事は認められない。
しかしながら、例外として認められた者は行き来出来る様に取り計られている。その例外に狐花が含まれている。
『あー、そう言えば言っとったな。その心は?』
「ベンニーアの鎌に跨がって飛べば、楽に行けるから。だって地獄道は熱いし遠いし、亡者はウザいし」
『完全に私見な理由やな……まぁ、狐花の付き添いやったら向こうもそう……いや、狐花自身に畏れを抱くやろうなぁ……』
五七は遠い目をしていた。狐花は以前に『地獄に貴方の居場所は無い』と宣告を受けている。つまり、『地獄に来るな』と言われちゃっている。理由違いで、ではあるのだが。
「……?」
『あー、何でも無いわ。そやな、行こか。死神と言った死後の世界の異邦モンはおいそれと行ける様な場所やないからな』
狐花は皓咲屋敷に戻り先に死神仕事を終えて帰って来ていたベンニーアに『要件あって地獄に行く』と言うや否や、有無を言わさずに引き摺り
「ちょちょちょ‼︎⁉︎ 説明、説明して欲しいっス⁉︎ あ、くび、首絞まる‼︎ 別の意味で冥府に戻っちゃい……って死神が殺されちゃ話にならんっスよ⁉︎」
ベンニーアはそんな声を上げながら狐花は彼女を文字通り首根っこを掴んで引き摺りながら地獄へと向かうのであった。